“花の82年組”といわれる1982年にデビューし、1988年に解散(解隊)した「シブがき隊」。解散後、やっくんこと薬丸裕英さんはMC、もっくんこと本木雅弘さんは俳優として主に活動し、布川敏和さんは活躍の場を俳優・タレントに移した。「シブがき隊」解散時の真相や再結成の可能性、その後の仕事などについて聞いた。【全3回の第2回。第1回から読む】
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「シブがき隊」の解散を、初めに言い始めたのは僕です。18歳になったとき、僕のデビュー前の友人らは高校を卒業し就職し始めました。僕はオヤジの中古車販売店を継ぐつもりだったから、「やばい、もう遊んでる場合じゃない」と思い、「引退してオヤジの会社を継ぎます!」と突然、事務所に伝えたんです。もっくん、やっくん、事務所の人たちも、レコード会社の人たちもあ然。「これからなのに、何を言ってるんだ」と驚いたと思います。そしたら、伊豆の旅館に一泊二日で連れて行かれ、美味しいご飯をふるまわれて、うまく説きふせられてしまいました(笑)。
次に僕ら3人の間で解散の言葉が出始めたのが22歳の頃。大学へ進学していたら卒業して就職する年齢です。最初に言い始めたのは、本木だったか、僕だったか。当時はアイドルはいつまでもやるものじゃない、という認識でしたから、僕はやはり引退してオヤジの会社を継ぐつもりでした。薬丸と本木は俳優をやる考えだったと思いますが、このときも六本木の遊び仲間たちに「今までやってきたことを無駄にしたらもったいないだろう」と説きふせられ、すぐに引退を撤回。個人で活動することにしました。
やりたかったのは俳優。亀山千広さんと一緒にやった『あまえないでョ!』(フジテレビ系)を初めとする『オレの妹急上昇』『ヘイ!あがり一丁』の3部作で、演じることのおもしろさを感じていたからです。それからは『ウルトラマンダイナ』(TBS系)、『おばさんデカ 桜乙女の事件帖』シリーズ(フジテレビ系)……本当にたくさん出演してきましたよね。
劇団で猛特訓した過去も
でも、それが可能だったのは、元「シブがき隊」の肩書きだけのおかげじゃない、と思っています。劇団での猛特訓を自分に課したからこそ、です。26歳で結婚し、ハネムーンベイビーの長男・隼汰が生まれたとき、もっとしっかり演じることに腰を入れなきゃいけない、と思いました。29歳から3年間、布施博さんの劇団「東京ロックンパラダイス」で鍛えてもらったんです。劇団の活動をメインにしていたらお金になりません。当時の事務所の社長と会長に「3年間だけやらせてください」と手紙を書いてお願いし、舞台にほぼ専念させてもらいました。
おかげで、どんな現場でも物怖じしないで演じることができるようになりました。たとえば、厳しいことで知られる渡瀬恒彦さん主演の『世直し公務員 ザ・公証人』(TBS系)、『新・おみやさん』(テレビ朝日系)の現場。ピリピリと緊張感がありました。渡瀬さんは台本をきっちり頭に入れて現場に入り、無駄口を叩くのを嫌う方。僕も公園を歩きながら、車を運転しながら、必死にセリフを覚えて現場入りしました。
渡瀬さんの長男・渡瀬暁彦さんはTBSのプロデューサーで、僕の息子・隼汰が大変お世話になっていました。そのお礼を一言、渡瀬さんにどうしても伝えたかった。でも、気軽には話しかけられません。ずっと機会をうかがい、2人きりになったタイミングを見計らい、ようやくお礼を伝えると、渡瀬さんはスッと立ち上がり「こちらこそありがとうございます」と、深々と頭を下げてくださいました。渡瀬さんってほんと、格好良い人でした!
「シブがき隊」の再結成は実現する?
最近の僕も、俳優とタレントの両輪で活動させてもらっています。タレントとしてはBSのクイズ番組に出演したり、俳優としては、この2月に映画『神さま待って!お花が咲くから』が公開されました。本作は12年という短い生涯を、小児がんとたたかった実際の女の子の話。僕はその女の子のお父さん役を演じさせてもらいました。僕の末っ子・花音(かのん)も治療が難しい病を抱えて生まれ、家族で闘病した経験があるので、「これはオレが演じなきゃ」と気合いを入れてやらせてもらいました。
俳優といえば、元「シブがき隊」のもっくんもがんばっていますよね。主演男優賞を総なめにした2008年の『おくりびと』も素晴らしかったけど、今、公開中の映画『海の沈黙』もすごい! 倉本聰さんの原作・脚本に、キャストに僕らの憧れだった小泉今日子さん、そして監督は若松節朗さん。これが僕には強烈だった。若松監督は僕と亀山さんの3部作を演出した監督なんです。このスタッフ、キャストで良い作品にならないはずがありません。
もっくんはジャニーズ事務所に入ったときから演技をやりたくて、ジャニーズ事務所退所後は「シブがき隊」を封印し俳優としてのイメージをきっちり確立・管理してきました。僕のなかでは今も、一緒に暮らし、僕がファッションをコーディネートしてあげていたときの彼のままですけど、俳優としては到底追いつかない。『海の沈黙』でもきっとまた各賞を総なめにするでしょう。
もっくんには俳優としての地位をじゅうぶん確立したのだから、「シブがき隊」の3人が揃う仕事もそろそろ考えてくれないかな(笑)。僕ら3人はもうすぐ還暦を迎えます。歌でなくても、映画でもドラマでもいい。3人揃って仕事をするなら、このタイミングじゃないですか。僕はずっと待っていてくれるファンに、3人揃った姿を見せてあげたい。
僕が今あるのはファンのおかげですから。LINEで「誕生日おめでとう」とやり取りしているやっくんも、僕と同じ思いだと思います。決定権はもっくんが握っている。彼が言い出してくれないと始まらないので、ぜひ連絡を待っています!
(第3回に続く。第1回を読む)
取材・文/中野裕子(ジャーナリスト) 撮影/山口比佐夫