月刊ファッション誌『Popteen』(角川春樹事務所)の人気読者モデルからバラエティー番組へと活躍の場を広げ、2010年頃には見ない日はないほどテレビに出まくっていたタレントの小森純さん(39)。派手なメイクと明るく奔放な発言で目立っていたが、2012年末の騒動を機にテレビ出演が激減。そんな彼女は現在、いつの間にか母になり、ネイルサロンの経営者へと華麗なる転身を果たしていた。小森さんに現在の詳しい仕事ぶりを聞いた。【全3回の第2回。第1回を読む】
「横浜の石川町と元町で、『ef nail(エフネイル)』というネイルサロンのお店を計2店舗経営しています。そんなに広い店じゃないですよ。私が今、顔を出している元町の店は全部で4席、石川町は5席ですから。年商? 億とか全然いってないです。ちゃんと採算はとれていますけどね」
石川町の1号店は2018年にオープン。元町の2号店は2023年10月に始めたばかり。順調に事業を拡大中なのだ。
「いやいや、店をオープンするのは、もうノウハウがあるのでできるんです。集客して人材を確保して、維持するのが大変なんで、今はステイ中。そんなに簡単に増やせないですよ」
従業員は9人。全員女性で、社会保険加入の正社員として雇っているというからスゴイ。しかし、なぜネイルサロンだったのか。2013年、渋谷で3カ月限定のカフェレストラン「しぶや区」をオープンし、好評を得た経験があった。飲食店に魅力を感じていたのだろうか。
「『しぶや区』は芸能の仕事とは考え方を変えて、料理が好きなので、汗水たらして地道に働きたいと思って始めました。だから、3カ月が終わった後、飲食店をやりたいと考えていました。でも、食べるものは消費期限があって廃棄するものが多い。かといって、消費できるギリギリの量を仕入れて足りなくなってはいけないから、そのさじ加減が難しい。
いろいろ考えながら物件を見に行ったりしているうちに、長男を妊娠。それで、いったん飲食店はストップ、ということになりました」
2018年にネイルサロンを始めたのは、子育てとの両立ができそうだ、とみえてきたタイミングだった。
「2011年に結婚して、上の子ども2人を2014年と2016年に学年でいうと年子で産んだので、妊娠、出産、育児に追われ、数年間はネイルに全然行けませんでした。でも、だんだん2人の子どもが同じ時間にお昼寝をしてくれるようになったので、パパの休みの日に子どもを見てもらって、久しぶりにネイルに行ったんです。
そうしたら、すごい気分が変わって、育児は超がんばれるし、自分も洋服買ってお肌のケアに行きたいな、と思えるようになって。ネイルってすごい!と思い、数カ月後にはネイリストになるための学校に通い始めました」
長男は幼稚園の年少だったが、次男は一時保育にあずけながら、1日2~3時間の授業を1年半ほど受け、JNEC(公益財団法人日本ネイリスト検定試験センター)主催のネイリスト技能検定試験1級に合格。晴れてネイリストとなった。
「ネイルって、髪やメイクと違って、鏡がなくても自分で見ることができるじゃないですか。パッと目に入って、テンションをすぐに上げてくれる美容なんですよ。かつ、リーズナブルだから、行きたいと思ったらすぐに行ける。
ネイルって、この小さなスペースに、いろんなものを詰め込むことができるのも魅力。たとえば、推し活が流行ってる今だったら、好きなアーティストさんのライブに行くときに、そのアーティストさんのメンバーカラーを使ったりして楽しめるんです」
ネイルサロン好調の背景
魅力あふれる美容業界だが、ネイルサロンは開業1年でつぶれてしまうお店が60%、3年では90%にもなるという厳しい世界。生き残るには差別化は必須だ。
「1号店をオープンする前に、この界隈のネイルサロンは何系をやってて、何系はやっていないか、足を使って調査しました。そうしたら、当時、出始めたばかりのニュアンスネイル(曖昧な色の変化などを感じさせるネイルデザイン)をやっている店があんまりなかった。じゃあ、それに特化しよう、って思って始めました」
それが順調な滑り出しができた理由のひとつだったようだ。
「最初の半年くらいは赤字でしたよ。お客さんが来てくれるようになるまで、社員の給料と広告費が出ていくばっかりでしたから。広告は『ホットペッパー』とかインスタとか」
意外や、コロナ禍を堪え忍んだたことで、勢いがついたという。
「ウチは2カ月ぐらい休業した期間も、家賃を払い続けたから大変でした。でも、それを乗り越えたら、コロナで閉じたお店のお客さんが流れてきた、っていうのはありますね」
今後は会社をどんどん大きくしようと考えているのだろうか。
「いやいや、目の行き届く範囲でやりたいんです。商品開発はやっていますけど。ベースジェルの開発はもう1年半ぐらい続けていますし、小学生向けの小さいネイルチップの販売とかも考えています」
ギャルモデルとして人気を獲得し、テレビでも活躍した小森さん。実業家としても好調だ。うまくやってこられた秘訣は何なのだろうか。
「自由な私を受け入れてくれる『Popteen』の編集の方々や、使ってやろうと思うテレビ局の方たちに、たまたま出会えたからじゃないですか。実力とかじゃなく。
テレビに出て忙しくしていた頃は、うまくいったら全部自分の手柄、と思ってしまっていたんだと思います。当時は休みはないし、寝る時間もないほど忙しくて、自分のことで精一杯。目の前の仕事を一生懸命やることしかできなくて、周りを気遣う余裕がなかったからそう思っていました。今は周りを気遣う余裕ができて、考え方が変わりました」
考え方が変わったのは、小森さんの根っこに親や祖母の教えがあったからだという。
「高慢にならないように、周りに感謝しなさい、とことあるごとに言われていました。今は自分自身より、親とかスタッフとか周りの人たちの人生を豊かにしたい、と思っています」
(第3回に続く。第1回を読む)
取材・文/中野裕子(ジャーナリスト) 撮影/山口比佐夫