昨年の衆院選で自民・公明党が大敗し、自公は少数与党となった。厳しい舵取りを強いられる石破政権はどうなっていくのだろうか。戦後政治の「生き字引」的存在で90歳の今なお第一線に立つジャーナリストの田原総一朗氏と、この1月に40歳になる社会学者の古市憲寿氏。半世紀も世代が違う2人が、現在とこれからの政治の行方を語り合った。(文中一部敬称略)【前後編の後編】
喧嘩を売る度胸はない?
古市:石破さんが総理を続けたいなら、やっぱり自民党に喧嘩売って支持率上げるしかないのでは。
田原:それを石破に言ってよ(笑)。
古市:“自民党の言うことはもう聞かない”って喧嘩して、信念を表明して、できるだけ早く解散・総選挙を打つ。それが石破さんにとっては唯一の勝ち筋だと思います。
田原:そんな度胸ないね。
古市:石破さんは、もう無理ですかね?
田原:無理かもしれないけど、問題なのは自民党内に「石破に代わってオレがやる」って政治家がいないんだよ。これまでの自民党なら必ずそんな政治家が出てきたが、今は全くいない。こんなことは珍しい。
古市:岸田さんはもう一度総理をやりたいんでしょう、きっと。
田原:僕が岸田を評価しないのは、米国の国力が低下する中でパックスアメリカーナを目指しているトランプ次期大統領と渡り合えるビジョンがないことだ。
古市:岸田さんは総理の時に「資産所得倍増」を掲げて株などの資産を含めて増やすと言ったけど、曖昧でわかりにくい。国民に響かなかった。その点、具体的に手取り何万円増やすと約束した国民民主のほうがインパクトは大きい。
田原:もっと残念なのはその野党だね。自民党に代わってやろうという野党が全くいない。自民党の裏金ばっかり追及している。
古市:国民民主の玉木雄一郎代表は103万円の壁なり、アジェンダを出して政策を変えようとしているじゃないですか。
田原:野党の中で支持率が上がっているのは国民民主。なぜかというと、自民党と組むから。自民党の支持基盤を取り込んでいるわけ。
古市:それは戦略が上手なんだと思いますよ。石破さんよりやりたいことがありそうに見える。
田原:だけど自民党に味方して補正予算案を通した。玉木は自民党に味方するか、野党に味方するかの駆け引きだけではなく、大きな部分でこの国をよくするためにどうやるかをもっと考えないと。
自民党の連中が怖がっている
古市:じゃあ、石破さんの次として、田原さんが今注目している政治家はいますか?
田原:僕が自民党で信用しているのは齋藤健。総裁選で推薦人20人が集まらなかったのは、自民党の連中が“齋藤健は怖い”と思ってるからだ。
古市:怖いというのはどういう意味ですか?
田原:言いたいことを全部言うから。なぜか自民党議員たちが本気で怖がっているのよ。
古市:でも齋藤さんも党内で少数派なら、石破さん同様、総理になったらできないのでは。
田原:だから(齋藤氏には)言ったことは早くやれよ、と発破を掛けてる。
古市:それまず石破さんに言ってください(笑)。
田原:高市早苗はやる気はあるんだろうけど中国との関係が悪化するから僕は反対。他にいる?
古市:僕は明るい人がいいです。小泉進次郎さんでも鈴木英敬さんでも。石破さんは暗いじゃないですか。暗い時代に暗い政治家は見ていられないので。
田原:いいや、石破は暗いんじゃないよ。総理になって言いたいこと言えないから気持ちが暗くなっている。
古市:僕は本当は総裁選で進次郎さんに勝ってほしかった。ライドシェアなど都会の現役世代に向けた政策ばかり言ったから、地方の年齢層が高い自民党員の支持が得られずに負けた。戦略ミスだった。総選挙ならあれで良かったのでしょうけど。
田原:僕も進次郎が負けたのは残念だった。
古市:やっぱり世代交代は必要です。世界のリーダーはどんどん若返っている。日本でも若いリーダーを周りのベテランが助けるという構図があってもいいと思います。
田原:小泉進次郎総理を齋藤健官房長官が支える。そういう構図ができればいいかもしれない。
古市:トランプの返り咲きでこれから日本の外交は難しくなる。日本は地政学的に韓国、中国との関係は重要だから、次の総理に交代するまでは、石破さんに信念があるなら日中の関係強化もやってもらわないと。
田原:信念はあるの。度胸がない。
古市:ここでも度胸(笑)。政治家の度胸はどうやればつくんですか。
田原:殺されてもいいと覚悟することだよ。
古市:総理はみんなそう思ってなるのではないんですか。
田原:そうでもない。殺されてもいいと覚悟していたのは田中角栄。その芽があったのは安倍晋三と小泉純一郎。小泉が総裁選に挑む時、僕は「あなたが田中派と全面的に戦うなら支持する。でもそれをやったら反対されて総理にはなれないよ」と言ったら、小泉は「約束する。殺されてもいい。自民党をぶっ潰す」と。
古市:度胸って後から身につくんですかね。
田原:この国を良くしたいと思って、ちゃんと命を張ってそれをやっていくことで身についていくんだよ。
※文中一部敬称略
(前編から読む)
【プロフィール】
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。ジャーナリスト。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所、東京12チャンネル(現・テレビ東京)を経て、1977年、フリージャーナリストに。『日本の政治 田中角栄・角栄以後』、『さらば総理 歴代宰相通信簿』など著書多数。
古市憲寿(ふるいち・のりとし)/1985年、東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員、日本大学藝術学部客員教授。著書に『絶望の国の幸福な若者たち』『保育園義務教育化』など、小説に『平成くん、さようなら』『ヒノマル』など。新著は『昭和100年』。
※週刊ポスト2025年1月17・24日号