九州場所で優勝の琴櫻、準優勝の豊昇龍が1月の初場所では綱取りに挑む。新大関場所で9勝に終わった大の里は一歩後れを取ったが、どう巻き返すか。元NHKアナの相撲ジャーナリスト・杉山邦博氏と漫画家・やくみつる氏が議論を交わした。【前後編の前編】
杉山:九州場所は琴櫻に優勝してほしいと思いながら見ていました。大の里はまだ初土俵から1年半の力士。いくらなんでも相撲の世界っていうのは、そんな浅いものじゃないと思っていました。
やく:琴櫻は早晩横綱になると思っていましたが、ようやくその緒に就いてくれた。豊昇龍も追随しましたが、こちらはまだそこまで信用できない。これで琴櫻と大の里が並んだぐらいの印象ですね。
先場所の大の里は豊昇龍戦のとったりで敗れた一番が痛かった。腰が高いまま勢いに任せて土俵際まで出て逆転された。負けるのはこのパターンという内容だった。綱取りまでに真っ先に修正すべきポイントでしょうね。
杉山:大の里は50年にひとりの力士。今からトントン拍子でいっちゃうと、むしろ将来が心配になります。相手も研究してくるのをどう乗り越えるか。先場所は綱取りへの試金石だったのではないか。
初場所では「横綱・琴櫻」が誕生する可能性が70%くらいと思っている。祖父の初代琴櫻は(1972年の)九州場所で14勝1敗で優勝、翌初場所でも14勝1敗で2場所連続優勝して横綱に昇進した。二代目も九州場所で14勝1敗での優勝。初場所に14勝1敗で優勝でもすれば、もう万々歳ですよ。私は準優勝でも昇進でいいと思う。
琴櫻と大の里が日本人力士として東西の横綱を張る。これが私の夢です。新しい年はぜひぜひそうなってほしい。
やく:10月にはロンドン公演もありますからね。
杉山:横綱土俵入りが欲しいが、照ノ富士がそこまで綱を張れるのか。極めて厳しいと思いますね。
やく:大の里は九州場所で白紙に戻ったとはいえ、25年半ばぐらいに綱取りというストーリーが十分にあると思います。
杉山:初場所で優勝の可能性も大いにありますよ。
やく:綱取りの2大関より大の里のほうが強いんじゃないですかね。
杉山:優勝は誰かって聞かれたら琴櫻だって答えたいが、私は大の里を筆頭に挙げますね。彼は常に負けた相撲に対して反省しながら、次の場所に備えます。人間的に非常に素直で、真面目な男。引いたり叩いたりしない攻めの相撲が評価できる。
九州場所での敗因は相手に研究されたことに加え、相撲がまだまだ甘い。腰も高いし、攻めた時に相手に残されると逆転されることが多い。気持ちのうえで焦りすぎ。
やく:師匠の二所ノ関親方は『強い力士は“いったん止まる力”がある』と言いますね。まさに大の里の直すべきポイントであり、師匠が授けたいと思うポイントと合致している。早い時期に修正されてくるのではないかなと思う。初場所で優勝して、琴櫻や豊昇龍が凡庸な成績に終わった場合、並ぶ、あるいは逆転という感じになってくる。
杉山:琴櫻は次も九州場所のような相撲が取れるのか。それ以前の相撲に戻らないかという不安が若干ある。そう考えると大の里のほうが“伸びしろ”があるからね。
やく:おっしゃる通り。
杉山:でも2025年中に琴櫻と大の里は100%横綱を張ると信じています。
やく:豊昇龍はそのあとから追っかければいいですよ。大きい(横綱)のがドン、ドンといるなかで小兵技能派横綱が待望される。大鵬と柏戸が先に上がって、栃ノ海があとで追っかけたように。
九州場所で豊昇龍の相撲が変わったという声もあったが、そんなに変わっちゃいない。持ち味は二丁気味にグッと踏み込んでの投げ。かつて千代の富士は投げから前ミツを取る相撲に変えて、成績が安定した。そういう劇的な変化があれば横綱候補だが、ブンブン投げているうちは調子に小さな波ができてしまう。
(後編へ続く)
【プロフィール】
杉山邦博(すぎやま・くにひろ)/相撲ジャーナリスト。1930年、福岡県生まれ。1953年に早稲田大学文学部卒業後、NHKに入局し、スポーツ担当アナウンサーとして大相撲報道で長きにわたって活躍。現在、日本福祉大学生涯学習センター名誉センター長、同大学客員教授を務める。
やくみつる/漫画家。1959年、東京都生まれ。漫画家。1981年、漫画『がんばれエガワ君』でデビューし、1996年『文藝春秋漫画賞』を受賞。元日本相撲協会外部委員で、テレビコメンテーターとしても活躍する。
※週刊ポスト2025年1月17・24日号