「あと100日後に閉店します」────11月29日、人気ラーメン店にそう書かれたポスターが掲示された。そのラーメン店とは浅草の「鬼そば藤谷」。店主は著名人の“アゴものまね”で知られるお笑い芸人・HEY!たくちゃんだ。2024年4月には1か月限定で米国にも出店した人気店に何が起きたのか。HEY!たくちゃん本人に緊急インタビューした。
* * *
店を訪れると厨房からHEY!たくちゃん本人が顔を出し、「いらっしゃいませ!」と、元気よく迎えてくれた。表情は明るく、閉店を決定しているとは思えない。記者が閉店の理由を尋ねると、浅草に移転する前の「渋谷店の火事」について話し始めた。
「2023年の9月に渋谷店で近隣店舗の出火が飛び火して火災が起きたんです。その時、自分はちょうど用事があり銀行にいたんですね。店のスタッフから連絡があり、『店が燃えてます!』と言われて、慌てて店に戻りました。ビルのてっぺんからすさまじい火が出ていて、頭が真っ白になった。その様子は一瞬、映画のワンシーンのように見えましたね」
1階から出た火災はダクトを通じて屋上まで燃え上がり、彼の店のある5階も被害を受けた。奇しくも、同店はオープンから12年目を迎えたばかりだった。
「火災が起こったのは、ちょうど12周年イベントのラーメンを作っていた時でした。それが、火事の影響でスープに煤が入ってしまい、すべてダメになってしまいました。これまでラーメン屋はひとつのドラマだと思ってやっていましたが、渋谷でやるのはもう厳しいなと悟った。自分の中でのドラマは終わりました。気持ちを切り替えて新しい場所を探し始めたところ、たまたま浅草に閉店したうどん屋があるというお話があり、火事が起こった3日後には物件を見に行きました」
そこからすぐに移転を決め、2023年12月には営業を再開。インバウンドで観光客も増え、観光地である浅草の同店には連日客が殺到していたそうだ。そんななか、なぜ閉店することを決めたのか。
「店の選び方は、結婚相手を選ぶようなものだと思っているんです。物件を見た瞬間にいいなと感じ、この空間とともに過ごしたいと思い、家賃は高かったですがすぐに1年契約を結んだ。ですが、インバウンドや物価高の影響で仕方ないとは思うんですが、物件を更新する時、驚くほど高額な金額が提示されてしまって……。ラーメンの値上げも頭をよぎりましたが、これ以上お客さんに負担はかけられない。具体的な家賃は言えませんが、これはちょっと厳しいな、と。ですが、火事になった後ここでやれたことに関しては、浅草には感謝の気持ちしかないです」
「日本らしさ」を勉強しなおす
こう話し、コップの水をグイっと飲み干した彼の目は、ニューヨークで開催されたラーメン大会で3連覇を達成した時に贈られたトロフィーに向けられていた。
「(2024年)10月に行なわれた大つけ麺博の日本一決定戦で、自分の店は10位と上位に上がらなかったことも理由の1つです。芸能で自分の仕事が減った経験から、物事の引き潮の考えを判断する嗅覚には自信があるんです。ニューヨークで3回チャンピオンになったけど、それが日本では活かせていないとも思っていました。そこで、日本で店をやるという土台をしっかりしたい、一度ゼロにして建て直していこうと決めました。詳しいことが決まったら、自分のYouTubeチャンネルで伝えていく予定です」
今後のラーメン店再開の予定については口をつぐんだものの、彼のビジョンは明確に決まっているようだ。
「もう一度日本らしさを勉強しなおして、またニューヨークにそれを持っていく。そうすれば5年後にはすごいことになるんじゃないかなと思っています。自分は今、43歳。人生のピークを50歳にすると決めているので、今ここで躓いている場合じゃないですよ」
アゴものまねでブレイクした彼は今後、誰にもマネできないことを成し遂げるべく、前に進む決意を固めている。
◆取材・文/佐藤ちひろ(ライター)