吉本新喜劇の看板座員である島田珠代さん(54)は、駆け出しだった20代の頃、「恋愛したら芸事の勘が鈍くなる」と思い込んでいたという。新喜劇のメンバーの言葉を通して考えが変わった珠代さんは、その後、2度の離婚を経験。現在は事実婚状態の新たなパートナーがいて、「彼が新たな島田珠代の境地を見出してくれた」と語る。珠代さんは、今や社会問題にもなっている“セックスレス”にも関わる持論を赤裸々に語った。(取材・文/河合桃子)【全3回中の第3回。第1回から読む】
現在のパートナーである「ひろしさん」と出会ったのは、今から約9年前のこと。交際を始めてからは7年になるという。年は珠代さんより3歳年上だが、その性格は真逆だという。珠代さんが感情を露わに愛情表現や嫉妬心を見せるのに対し、ひろしさんは物静かなタイプで感情を押し殺すような性格だという。
「それでいて、かなり変わった潔癖症なんです。電磁波を気にしてスマホは持たずにガラケーなんですが、開いた状態でサランラップを巻いてジップロックに入れて使っています。また、妙に国産にこだわり、日本製ではないパジャマを買い与えた時は”3回洗ってから着る”と言い出したり。だからと言ってはなんですが……キスはもちろん体の関係も、交際早々からしたがりませんでした。もちろん最初のうちは“なんで? どうして?”と喧嘩してたし、受け入れられませんでした。だって、女じゃなくなってしまったような気がして……」
同じような状況にある女性は、多くがこうした心理状態になるだろう。当初は複雑な思いを抱えた珠代さんだったが、7年という交際期間を経て、現在ではその考え方を克服できたという。
「ひろしさんはこう言ってくれたんです。『それだけが愛の示し方じゃない。あなたを愛してるのは間違いないこと。僕は初めて女性に対し“自分の死に場所”を見ることができた。つまり、あなたと死ぬまで添い遂げたい』って。私の中で、愛の示し方のひとつに“行為”は欠かせないものであったけど、相手の愛の示し方がそうでないとなれば、それは受け入れるのもまた愛なのではと……。そう思えた時、私はいい意味で“女でも何者でもない島田珠代だ”っていう気持ちが生まれたんです」
更年期を乗り越えた「原動力」
その「島田珠代だって気持ちが生まれた」は、こう言い換えることもできる。
「言ってみたら“行為がない=女として見られてないような気がするモヤモヤ”は、ただの女側の勝手なプライドに過ぎないと思えたんです。女でもなく、ただの島田珠代だという思いに達せたのは、悟りの境地と同じで自分を楽にするものでした。“行為”がないがゆえのプライドの喪失は、生きていく上で枷に過ぎないし、その執着が自分を苦しめていると。そう吹っ切れて生まれたのが“おばちゃんダンス”です」
“おばちゃんダンス”とは2020年7月に放送された『かまいたちの机上の空論城』(関西テレビ)の「1日に100ツイートをしろ」という企画に挑戦した際に披露したギャグだ。およそ70本アップした動画のうちのひとつで、111万回再生されて反響を呼んだ。
「事前の準備はせずにノープランで企画に挑戦したので、もう大変で大変で。ネタ作りが過酷すぎて、寝る時間を削って思いついたのが、朝5時の“おばちゃんダンス”。あの動画のカーテンの外、うすら明るいじゃないですか? あれ、寝ずに70本動画を撮りまくり続けた果ての朝の5時ですから。もう、女も何もかも離脱したその先の境地ですよ。やっぱり私の芸事は、方程式も何もなく、切羽詰まった後に出てくる症状みたいなもんなんだなと改めて思いました(笑)」
そんな珠代さんも、54歳。更年期障害の症状などはないのか。そんな素朴な質問をぶつけてみた。
「まあ日々、抗えない気持ち的な浮き沈みはもちろんありますけどね……。たぶん更年期的な症状で一番辛かったのは、娘と離れていた40代後半ですね。毎晩のように、娘のことを思い出しては涙を流し、憂鬱な気持ちに包まれました。幸いにも体の火照りや発汗、動悸といった症状はありませんでしたが、とにかく気持ちが落ち込んでいました。でもそんな時でも、舞台に上がっている時だけはそのような気持ちを忘れられたし、舞台に出ることが生き続ける気力にもなっていました。舞台に助けられて更年期の一番辛かった時期も乗り越えられたと言っても過言ではありません」
最後に、今後の珠代姉さんの野望についても聞いた。
「とにかく、今後もより多くのお客さんを笑いで幸せにしたいというのが私の野望ですね。皆さんをいっぱい笑わせて、できれば悩み事も忘れさせたい。見に来て下さった方に、今の私の悩み事なんてちっぽけだわと思ってもらいたいですね。そのために今日も、関節が外れるくらい大股開きで、パンティーテックスも元気で踊り続けたいですね」
自分が一番辛かった時、「救ってくれたのが舞台だった」と珠代さんは言う。自分も辛い時期を経験したことで「舞台でみんなに元気を届けたい」と言う。涙あり、笑いありの島田珠代さんの舞台での輝きを、今後も見届けたい。【了。第1回から読む】