Infoseek 楽天

ラーメン店長射殺から宅配ヒットマンまで事件多発の「山口組分裂抗争10年」、収束には一方的な「抗争終結宣言」しかない【溝口敦氏×鈴木智彦氏が予測】

NEWSポストセブン 2025年1月10日 7時15分

 司忍組長率いる六代目山口組から神戸山口組(井上邦雄組長)が分裂、さらにその神戸山口組から絆會(織田絆誠会長)、池田組(池田孝志組長)が分派し、勃発から10年を迎えた今も抗争は収束していない。果たして今年、決着がつくのか。ジャーナリストの溝口敦氏とフリーライターの鈴木智彦氏が対談した。

会津小鉄を独立組織としておくメリット

鈴木:昨年は抗争事件に大きな動きがあった1年でした。まずは昨年2月、絆會のナンバー2である金澤成樹若頭が仙台市で逮捕されました。

溝口:逃亡中にあれだけ多くの事件を起こし、防犯カメラ映像にも姿を晒していたからね。

鈴木:金澤若頭は2020年9月にかつての配下を銃撃してから逃亡生活を続け、その間、ラーメン屋店長をしていた六代目山口組三次団体組長を射殺するなど、2つの殺人事件を起こしたと見られています。若頭という前線指揮官とはいえ、なぜひとりで複数を殺したのか。暴力団抗争では、一人殺せば無期懲役なので、極刑もあり得るのに。

溝口:自発的な行動でしょう。彼は10代から絆會の会長である織田絆誠に心酔し、織田一門のトップという自負があった。織田に言われるまでもなく、逃亡中も時間を無駄にせず、行動したほうがいいと判断したはずです。

鈴木:たしかに二度の殺しは、実質、「死んでこい」という命令に近い。高圧的に命令されて従うとは考えにくい。

溝口:織田が“あご”で使って、「お前が殺れ」と命令したなんてことはないですよ。

鈴木:9月9日には、同じく六代目山口組と抗争中である宮崎県の池田組志龍会本部に、宅配業者を装ったヒットマンが来訪、応対に出た幹部を射殺しました。実行犯は会津小鉄にいた幹部です。

 会津小鉄は京都の老舗独立組織ですが、折しもその直後の9月30日、六代目山口組直参で、淡海一家の高山誠賢総長が、会津小鉄の八代目を継承しました。

溝口:誰が見たって山口組が会津小鉄を実質傘下に収めているわけだけど、独立組織という建前は守っている。山一抗争(注:1984年、竹中正久組長が四代目を襲名したことに反発した反竹中派が「一和会」を結成。竹中組長は一和会に殺害され、山口組の報復が激化。1989年の一和会解散まで双方で25人の死者を出した)の終結で仲裁してくれた恩義があるし、何より会津小鉄は昔からの名門として通っている。今の山口組は、清水の次郎長で知られる清水一家さえ傘下に持つヤクザブランドのコレクターだけど、吸収はあまりに露骨だという判断じゃないか。

鈴木:山口組には警察の風当たりが強い。会津小鉄を形の上だけでも独立組織としておくのが最適解かもしれません。今の暴力団はほとんど事件を起こさない。でも、これらの事件を見ると、暴力団員の反社会性と暴力性は変わっておらず、上に立つ人間次第なんだなと。

溝口:そういう側面はあるね。かつて自他共に認める武闘派である竹中武(四代目山口組・竹中正久組長の弟で二代目竹中組組長)は「喧嘩に必要ならマシンガンでもヘリコプターでも買ってやる」と言ってたし。喧嘩太郎と言われた中野太郎(五代目山口組若頭補佐)の口癖は「殺してしまえ!」だった。

抗争終結宣言を出すべき理由

鈴木:10年目を迎えた山口組の分裂抗争は、今年もずるずると収束せず進むでしょうか?

溝口:前々から言っているんだけど、六代目山口組は一方的に抗争終結宣言を出すべきです。田岡一雄三代目時代の山口組は、1970年代の大阪戦争の時、当時若頭だった山本健一が中心となって抗争終結宣言を出し、メディアを呼んで記者会見をしています。

鈴木:なるほど。常に答えは歴史の中にあるわけですね。山口組の分裂抗争の前に勃発し、足かけ8年間続いた九州・道仁会の分裂抗争でも、割って出た側の九州誠道会(現・浪川会)が一方的に抗争終結宣言を出しましたが、道仁会はそれを無視して抗争を続行した。でも、主導権を握る六代目山口組なら抗争を実質的に終結できる。

溝口:警察は“偽装終結宣言”だと決めつけ、ナンバー2の高山清司若頭や、実質ナンバー3の竹内照明・三代目弘道会会長のところに「どうなってるんだ」と聞きに来るでしょう。

「これ以上世間を騒がせるわけにもいかないし、こうするしかないでしょう」と彼らは説明するはずです。そうして警察側は井上(邦雄・神戸山口組組長)に会って「抗争終結宣言を出すみたいですよ。どうでしょう」と訊く。井上は「勝手にやりゃあいいんだ」と言うしかない。

鈴木:そうなれば確実に次の局面に展開します。問題は山口組内部のタカ派でしょうか。

溝口:仮にも山口組に反旗を翻し、「逆盃(ぎゃくさかずき)」をした大罪人を許すのかという声が起き、障害になるかもしれない。だがもはや分裂抗争の間、配下たちは何度も逆盃を行ない、組織を超えて移籍しているわけで、組長との疑似親子関係を表わす「盃」はもはや実質を失っている。盃の神聖さなんて、ヤクザ当人たちがみじんも信じていません。

鈴木:山口組にとっての脅威は神戸山口組より警察です。警察は山口組を壊滅させるつもりなんでしょうか?

いまやトクリュウの時代

溝口:警察はどこまでやるのか……それはわかんないね。しかしヤクザはもはや終わっている。オワコンです。警察が目の敵にして叩く理由がよくわからない。

鈴木:昨年、強盗事件を頻発させた闇バイトとトクリュウを見てもわかりますよね。

溝口:トクリュウって、つまり半グレだからね。トクリュウが詐欺を働きました。この金は暴力団の資金源になっている恐れがあります……警察の言い分を無批判に繰り返す。それが今の新聞やテレビのジャーナリズムだよ。

鈴木:稲川会碑文谷一家は事務所前に「昨今、闇バイト、オレオレ詐欺、強盗等多発しておりますが それらの者、組織、団体には碑文谷一家の縄張りに於いて、当家は断固たる処置を取ります(品川区、大田区、世田谷区一部、目黒区一部)」という告知を出しました。

溝口:そもそもトクリュウというか半グレたちは、暴力団になるのは馬鹿らしいと思ってる人種です。ヤクザを哀れんでも、貧乏暮らしのヤクザに憧れなんかない。

鈴木:半グレって、ヤクザになれなかった中途半端な人間ではなく、ヤクザの進化形と考えたほうが実情に近いような気がしています。実際に半グレのボスたちに会うと迫力に圧倒されます。昔のヤクザのように、配下に20代、30代の若い衆がたくさんいて懐かしいです。

溝口:トクリュウのほうがどう見たって頭がいいですよ。新しいシノギを思いつくだけでも明白です。でも警察は馬鹿のひとつ覚えのように「暴力団の資金源になる恐れがある」と付け加える。それを記者クラブが垂れ流し、ヤクザは反社の王という虚像ができあがる。

鈴木:暴力団やトクリュウを見ると「時代は変わる。変化に対応できない者は滅びる」という陳腐で、ありきたりな結論になる。ただしその結論は、弱肉強食の世界だけに痛切で、強烈に伝わります。

溝口:山口組は戦う相手を間違えていたということだね。

【プロフィール】
溝口敦(みぞぐち・あつし)/1942年、東京浅草生まれ。ジャーナリスト。早稲田大学政経学部卒。『食肉の帝王』で講談社ノンフィクション大賞を受賞。『暴力団』『続・暴力団』(ともに新潮社)、『ヤクザ崩壊 侵食される六代目山口組』(講談社+α文庫)など著書多数。

鈴木智彦(すずき・ともひこ)/1966年、北海道生まれ。フリーライター。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『サカナとヤクザ』『ヤクザときどきピアノ』など。

※週刊ポスト2024年1月17・24日号

この記事の関連ニュース