昨年は前人未到の50本塁打・50盗塁を達成し、初の世界一にも輝いたドジャース・大谷翔平(30)。今年は二度目の右ヒジ手術からの「二刀流」復活に大きな期待がかかる。元メジャーリーガーの岡島秀樹氏とメジャー取材歴50年の福島良一氏が、どんな1年になるかを大予想した。
大谷「二刀流」はどうなる?
岡島:昨年は素晴らしい成績でした。1年間ケガがなければ50本塁打はいけると思っていましたが、盗塁でイチローさんの記録を抜いたのは本当に凄いなと思いましたね。
福島:移籍で環境が大きく変化したのに、2年連続のホームラン王、初の打点王、最終試合に三冠王の可能性まで残していた。50-50を達成してワールドチャンピオンに輝くという大谷選手にとって最高のシーズンでした。
ただ、ワールドシリーズ第2戦で盗塁した時に左肩を脱臼。オフに手術しました。右ピッチャーにとって左肩というのは重要なんでしょうか?
岡島:バランスは大切ですからね。右腕だけで投げられると思うかもしれませんが、左腕がきちんと使えないと微妙なコントロールが悪くなる。バッターとしても、左腕の押し込みがないとボールがあと一息伸びない。リハビリでしっかり治さないといけません。
福島:デーブ・ロバーツ監督は日本での開幕戦(3月18、19日)では二刀流の可能性がゼロに近いと言っている。メジャーでは一度目のヒジの手術後の復帰は成功率90%以上といわれますが、二度目は60~70%に下がるとされます。球団としても慎重になるのでしょう。
岡島:開幕に間に合わせようとか、前半でガンガン投げようとすると、1年もたないリスクが出てくる。長い目で見て二刀流の本格復帰は今年より来年のほうがいいんじゃないかと思っています。今年は長いイニングではなく、試運転の感じで慎重に投げていってほしい。
福島:そのために、ドジャースはオフの補強でア・ナ両リーグでサイ・ヤング賞を受賞した左腕のブレイク・スネルを獲得したり、佐々木朗希選手を獲りにいくなどして投手陣の層を厚くしています。山本由伸選手、大谷選手、タイラー・グラスノーもいて、今年は開幕から6人の先発ローテーションになるでしょう。
岡島:メジャーは中4日が基本ですが、山本君も中4日では投げられない。大谷君も中5日や中6日では難しいから、「2週間に一度」といった登板間隔になるのではないか。佐々木君が加入すれば、大谷君と2人で体調が悪いほうをそうじゃないほうがカバーする体制が作れます。
あとは大谷君が、エンゼルス時代の二刀流のスタイルとどう変えていくかもポイント。当時は先発した翌日にDHで出場するといったフル稼働を続けていたが、後半戦はもたないことが多かったし、体がつったりもしていた。
今のほうが年齢を重ねているので、体力は落ちてきます。メジャーは長距離移動の負担も大きく、20代と30代では負荷が全く違うんです。どう休養するかの見極めが必要。若いうちにいろいろと挑戦してほしいが、休息だけではカバーできない面も出てくると思う。
福島:あと、投手に復帰するなら盗塁も減りますね。
岡島:ケガのリスクがあることは、本人も分かっているはずです。ワールドシリーズでも、別にアウトでいいのにタッチを逃れようと体をひねったりしたから、脱臼につながった。そういうケガは怖いので、今後は意識して抑えていくと思います。
9月以降は先発しない!?
福島:打つほうでは、大谷選手のホームラン数は一昨年が44本、昨年が54本で、このペースでいくと今年は60本超えです。薬物疑惑の時代を除けば、60本打ったのはベーブ・ルース、ロジャー・マリス、アーロン・ジャッジの3人だけ。そこに大谷選手にも加わってほしい。
岡島:たしかに3年連続本塁打王もあり得ると思います。あとはポストシーズンにどれだけ力を残せるか。4月、5月に調子がよくても、ポストシーズンに出てこないと“あの人はどこに行ったの?”と言われるくらい、ファンも9月、10月の試合を重視しますからね。
福島:大谷選手のポストシーズンはどうなると思いますか。
岡島:投手としては、先発をしていないかもしれないですよね。レギュラーシーズンは先発をやって、ある程度の投球回数に達したらそこで投げるのをやめさせると思う。そしてポストシーズンはクローザーをやったり、1イニング限定やイニング最後の打者1人で投げさせるのではないか。
福島:楽しみですね。僕の夢としては、ワールドシリーズ第7戦でリリーフとして最後の1イニングを投げてほしい。2023年WBC決勝がそうでしたし、昨年のワールドシリーズ最終戦も最後に先発のウォーカー・ビューラーが三者凡退に抑えた。大谷選手が投げられる状態なら、世界一の胴上げ投手になれますよ。あとは、松井秀喜さん以来のワールドシリーズMVPも獲ってほしい。
岡島:狙って獲れるものではないですからね……。昨年はフレディ・フリーマンが獲りましたが、MVPを狙うのではなく、チームが勝つために役割を果たそうとして、結果がついてくるものですから。
福島:そこは大舞台に強いMVP男ですから、やってくれるでしょう。今年は投打の二刀流として2ケタ勝利、三冠王、チームの2年連続ワールドチャンピオン、これに加えてレギュラーシーズン、プレーオフ、ワールドシリーズのMVP総なめといきたいですね。
岡島:そこまでのフル回転は流石に来年になるのでは(笑)。ただそれでも大谷君なら……という夢は見てしまいますよね。
【プロフィール】
岡島秀樹(おかじま・ひでき)/1975年、京都府生まれ。元メジャーリーガー。1994年に東山高から巨人に入団。2006年に日本ハムに移籍し同年日本一に。2007年にはレッドソックスで世界一に貢献。2016年に現役引退、現在は野球解説者を務める。
福島良一(ふくしま・よしかず)/1956年、千葉県生まれ。大リーグ評論家。1968年に日米野球を観戦してMLBに魅了され、1973年に初渡米。大リーグ通の第一人者だった故・伊東一雄氏の薫陶を受ける。著書に『もっと知りたい! 大谷翔平』(小学館新書)など。
※週刊ポスト2025年1月17・24日号