Infoseek 楽天

韓国機事故で179名が死亡、2人の生存者が座っていた“生還しやすい座席” 相対的には「前方より後方」「窓側より通路側」「非常口付近」

NEWSポストセブン 2025年1月7日 7時15分

 旅行に帰省、出張と、快適な旅には欠かせない旅客機。だが、人類が空を飛ぶことの代償は小さくないのかもしれない。一瞬で数百人もの命を奪いかねない旅客機の事故から、「生還しやすい」座席があるとしたら──。  本来なら旅行に出かける客で賑やかな雰囲気となるはずの年末の空港ロビーに悲痛な叫びがこだまする──。韓国の南西部に位置する務安国際空港は、空港職員や警察官を問いただす人、頭を抱えうなだれる人、慟哭する人たちで埋め尽くされていた。

 12月29日、タイ・バンコク発の済州航空の旅客機が着陸に失敗し、滑走路を越えてコンクリート壁に激突。直後に機体は爆発、炎上し、乗客乗員181人のうち179人が死亡するという韓国の旅客機事故で最大の被害となった。事故機には、クリスマスと年末の連休を利用してバンコクへのパッケージ旅行に参加した人も多く搭乗しており、帰国後は穏やかな年末を過ごすはずだった。  

 文部科学省が1983~2002年に日本国内で起きた事故の統計を解析した調査によれば、旅客機事故で死亡する確率は0.002%。一方、自動車事故で死亡する確率は0.2%で100倍ほどの差がある。厳しく訓練されたプロが運航し、何重にも安全対策が施された旅客機での旅は、数ある交通機関でもトップクラスに安全、ということになる。

 現在、事故の原因として指摘されているのが、鳥と衝突する「バードストライク」だ。航空評論家の青木謙知さんが解説する。
「上空にいる時点で機体の片側のエンジンから出火しているように見えるので、バードストライクが起きた可能性はあります。しかし、旅客機のエンジンは2台あり、1台が破損しても、パイロットは残る1台のエンジンで安全に着陸できるよう訓練を積んでいるので、バードストライクだけが事故の原因とはいえません。

 映像では減速するためのフラップや車輪が出ておらず、それらの装置にトラブルがあった可能性も考えられる。事故原因の詳細はフライトレコーダーの解析を待つしかない状況です」

 一命を取り留めた2人は、いずれも乗員だった。
「乗客サービスを行っていた2人の生存者は機体最後部から救助され、事故発生時、後方にある簡易キッチンの座席に座っていたそうです。衝突の衝撃で尾翼を含む機体最後部が偶然にも切り離される形になり、爆発に巻き込まれずに済んだので、奇跡的に助かったと推測されています」(在韓ジャーナリスト)
 今回の生存者が機体最後方から出たことは偶然ではない。これまでも事故発生時、どこの座席に座っていたかが、生死を分けた例がある。

 どの航空会社でもファーストクラスやビジネスクラスなどの上級シートは前方に設けられており、これは乗降しやすく、エンジンから遠いので、騒音や揺れが少ないためだが、事故が起きた場合、前方座席の生存率は高いとはいえない。1985年に御巣鷹山で起きた日航ジャンボ機墜落事故での死者は520人。4人の生存者がいたが、すべて後方座席に座っていた乗客だった。

 2014年、台湾の澎湖島で起きた復興航空機墜落事故では乗客乗員58人のうち48人が死亡した。生存者10人中7人が後方座席の乗客で、1~6列目までの前方座席に生存者はいなかった。このように、実際の事故のケースでみると後方座席が助かるケースが多いようだ。これにはいくつかの理由が考えられる。

「航空機事故が起きるのは離陸時が8.5%、着陸時が53%というデータがあります。どちらかというと、着陸時は機首から突っ込むケースが、離陸時は機体後方をひきずるケースが多い。機首から突っ込めば当然、機体前方の方が先に衝撃を受けます。その分機体後方にかかるダメージが小さくなるので後方の方が機体の損壊が小さいといわれています。そのため、相対的に機体前方の座席の被害が多いのかもしれません」(航空ジャーナリスト)

 米誌『ポピュラーメカニクス』と『タイム』が米国家運輸安全委員会のデータを基に2007年に行った調査によれば、1971年以降に発生した旅客機事故の座席別の生存率は、後方座席が69%、中央座席が56%、前方座席が49%で、座席の位置によって20%もの開きがある。

 実機を使った大掛かりな実証実験も行われている。2012年に米映像配信大手「ディスカバリーチャンネル」が墜落事故の再現実験を実施。本物の旅客機を砂漠地帯に墜落させ、その衝撃度を調べたのだ。地球上に何もせずいるときに体にかかる重力は1Gと定義されている。実験では前方座席に置かれたダミー人形には即死レベルの12Gがかかって機首は粉々。中央座席は8Gでこちらも即死か重傷相当。後方座席だけが生存可能性のある6Gという結果になった。 

 こう聞くと後ろの方に座りたくなるが、年末年始やお盆などの繁忙期は自由に座席を選べないことも。やはり避けるべきは、前方座席なのだろうか。運輸事故調査システムの構築に寄与した、関西大学名誉教授の安部誠治さんが語る。

「どんな事故が起こるかによって生存率が高い席は変わります。御巣鷹山のように機首から突っ込んだ場合は後方座席の人が助かる可能性が高い一方で、滑走路に後方がぶつかる『尻もち事故』のように、機体後方が破壊される事故もある。ただ、強いて言えば、後方座席の方が生き残りやすいというのはあるかもしれません。また、窓側より通路側の方が身動きを取りやすく逃げやすいので、迷ったら通路側を選ぶといいかもしれません」

 非常時に乗員の手伝いを求められるが、足が伸ばせるなどの理由で選ばれる非常口席も安全性は高い。英グリニッジ大学が2011年に、105件の旅客機事故の座席表を分析し、2000人超の生存者から話を聞いてまとめた研究によれば、最も生存率が高かったのは、早めに脱出できるという理由で、非常口のすぐ隣かその前後1列にいた乗客だったという。非常口の前後5列以内は生存率が上がるとも報告されている。

 もしものときの生存率を高めたい人は、「後方座席、通路側、非常口付近」を選んでみてはどうだろうか。
※女性セブン2025年1月16・23日号

この記事の関連ニュース