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「東大卒という肩書があっても恐ろしいほどESが通らない」東大法学部卒YouTuberが「既卒2年目」で挑んだ就活の誤算

NEWSポストセブン 2025年1月13日 15時59分

 キャリア官僚、総合商社、外資系コンサル……。東大生の卒業後の進路といえば、華々しい就職先を思い浮かべるだろう。就職では苦労とは無縁のイメージの東大生だが、それはあくまで「新卒一括採用」での話のようだ。卒業後に正社員として勤務したことのない「既卒」では事情が異なり、たとえ“東大卒”であっても、エントリーシートが通らず苦戦を強いられることがあるのだという。なぜ選考を通過できないのか。

 昨年発売された『ヤバイ東大解剖録』(KADOKAWA)で、富山県トップの公立進学校から東大法学部という経歴を生かし「東大のリアル」を描いた、チャンネル登録者数50万超えYouTuber・チェリー東大あきぴで氏が、自身の経験から「既卒就活」の現実を赤裸々に明かす。(同書より一部抜粋して再構成)【全3回の第3回。第1回を読む】

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 僕は2020年に東大を卒業したのだが、実際に就活を始めたのは2022年5月で、2023年の新卒枠として就活をはじめた。

 なぜ就活をはじめるのが遅くなったのかというと、それは僕が「俳優」を目指していたからだ。以前から演劇というものに触れる機会が多く、ゆくゆくはそれを仕事にしていきたいと、学生時代からやんわり思っていた。

 そこで縁あって、僕は大学4年から3年間とある劇団のお世話になることになった。しかし、既卒2年目が終わる時点で、これから演劇で食えていくビジョンがまったく見えず、たまに会う大学同期との格差や社会からの孤立感、いろいろなものが僕の神経をすり減らしていき、これ以上僕に演劇を続ける元気はなくなっていった。気がつけばいつも就活サイトを開いていた。

 こうして後ろ向きな気持ちではじまった就活だったが、真っ先に困ったのはエントリーシート。東大なのに、これが恐ろしいほど通らないのだ。

 確か30~40社ほど出して通過率は20~30%だった。最初は片っ端から大手企業にエントリーシートを出しまくっていた。それ以外に保険として地元で幅をきかせている地方銀行や電力会社なんかも受けた。エントリーシートなんて落ちたことがないという東大の同期の話はチラホラ聞いていたので、いくら既卒といえども大丈夫だろうと高を括っていたが、それは完全に誤算だった。

 結果的に大企業も地元からも完全に見捨てられた。なぜこんなにもエントリーシートが通らなかったのか。その理由は簡単、「既卒差別」だ。

 そもそもたくさん同レベル大学の優秀な新卒が応募してくる大企業が、わざわざ既卒、しかも3年目の東大を取る理由がなかった。

 そして、地元の企業も東大とはいえ、卒業してから2年も経っているヤバイやつを雇いたいと思うほど革新的な風土はなかった。

 新卒であれば通ったであろうエントリーシートの段階で、僕はことごとく落ちていった。

 浪人や留年と違って、既卒だけが就活市場でヤバイやつ認定を受ける。どこにも就職が決まらないほど難がある人なのかな、卒業してからプラプラ遊んでいた怠惰な人なのかな。そういった印象を企業に与えてしまうからだ。

 しかし、僕は大学を卒業してから2年間決して遊んでいたわけではない。なんなら、人一倍努力をしていた。しかし、その努力は決して企業から認められるものではなかった。いや、それどころか、その努力は存在すらしないものにしなければならなかった。

 就活でよく聞かれることといえば「学生時代に頑張ったこと」だ。だが、僕は勉強・部活・バイト、どれも月並み。そんな僕の中で最も力を入れたと自信を持って言えるのが「演劇」だった。そのため、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)はそれについて話そうとした。目標は「役者」、頑張ったことは「演劇」、これで行こう。しかし、これが全然ダメだった。

 そもそも僕が役者の道を諦め、就活をしている時点で目標を達成できていない。だから、努力の信憑性すらなかった。途中でガクチカ上での目標を下げ「いい舞台をつくること」に切り替えたが、これも芸術特有の曖昧さが仇となり、僕の言語化能力では定量的に説明することができなかった。

 たまたま通った面接でも、演劇について興味を持って触れられることはほとんどなかった。それどころか、「やるべきことから逃げていただけじゃない?」と何処の馬の骨ともわからんガタイだけ一丁前の体育会野郎に一蹴された。「やるべきこと」ってなんだよ、お前がつくった檻の世界に僕を閉じ込めるなよ。自分からその檻の世界に入ろうとしている僕にそんなことを言う資格はなく、お得意の愛想笑いでその場を凌ぎ、結局不採用をいただいた。

 僕が既卒になってまでやってきた努力なんて企業からすればゴミクズ同然だった。就活には「就活向きの努力」が必要、それを痛いほど感じた。

 そこからは大企業という目標を下げ、ガクチカも定量的に説明しやすい受験勉強にした。就活では、僕が人生を賭けて挑んできた演劇は黙殺しなければいけなかった。

 もちろん、面接では卒業してからの2年間のことについて聞かれた際には正直に言った。しかし、企業側も特にそれ以上掘り下げることはなく、大学時代の勉強や部活のことについて触れていった。

 そして、僕の気持ちを押し殺せば押し殺すほど、今までのことが嘘のようにエントリーシートや面接に通っていった。大企業では受験勉強を出しても全員がそれを引っ提げている前提なのであまり刺さらないだろうが、準大手や中小レベルであればこれが意外とブッ刺さったのだ。

 しかし、好調になっていく結果とは裏腹に、僕の中では就活に対しての不信感が募るばかりだった。既卒差別、おあつらえ向きの努力。煮え切らない気持ちだけが腹の中で渦巻き合い、今も消化できないまま僕の就活は幕を閉じた。

 とまあこんなところだ。いろいろ大変なことも多かったが、結果として3社内定をいただいた。しかし、結局今はネットで恥を晒している学歴ピエロを演じている。

 内定した会社に東大の底辺として入社するべきだったか、YouTubeの修羅の道を貫くべきだったか、今でもどちらが正解だったかわからなくなるときがある。とはいえ、YouTubeを選んだおかげか、今、拙著を手に取って読んでくれる人がいるという、前者の選択では成し得ないことを達成できた。少なくとも後者の選択肢は不正解ではなかったのかもしれない。

 本当に最後まで読んでくれてありがとう。そして、僕の選択を少しでも認めてくれてありがとう。引き続きあきぴでを、そして東大をよろしくお願いいたします。

(了。第1回を読む)

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