2023年7月、札幌・繁華街ススキノのホテルで男性会社員(62=当時)が殺害され、遺体から頭部が持ち去られた事件。逮捕された親子3人のうち、父親である田村修被告(61)の裁判員裁判が1月14日より札幌地裁で開かれた。
娘の田村瑠奈被告(30)は、殺人や死体損壊などの罪に問われている。修被告は、瑠奈被告が被害男性Aさんに会いに行くときの送迎や、ノコギリや手袋といった物品の購入、遺体の頭部を損壊する際の撮影などに関与し、殺人ほう助や死体損壊ほう助などの罪に問われている。
修被告は現在保釈中のため、入廷した際も手錠と腰縄はつけられていなかった。
争点は大きくふたつあるようだ。裁判を傍聴したジャーナリストの高橋ユキ氏が解説する。
「まずひとつは、『修被告は、瑠奈被告による殺害・損壊計画を知っていたのか?』ということです。もうひとつは、『修被告の行為は、瑠奈被告による死体遺棄・死体損壊のほう助にあたるか?』で、その前提として、『瑠奈被告による遺体の頭部隠匿は死体遺棄にあたるか?』も問題となっています」(高橋氏、以下同)
事件発生の約2か月前、2023年5月、瑠奈被告は初めて行ったクラブでAさんと出会い、肉体関係を持ったもののトラブルになったという。その後、瑠奈被告はAさんを「獲物」や「鹿」と呼び、修被告と一緒に彼を探した。6月18日未明、ススキノのクラブでAさんが見つかり、瑠奈被告は彼と7月1日にまた会う約束をした。
「6月18日の午後1時過ぎ、瑠奈被告は、母親を介して、修被告に“ディスカッション”を求めたそうです。浩子被告が『いろいろなことについてのディスカッションだったり、買い物かもしれません』と修被告にLINEを送っています。翌19日、修被告は瑠奈被告と一緒に量販店でノコギリや手袋などを購入し、この日以降もハイター、キャリーケース、折りたたみナイフなど事件の際に使われた物品を購入しています。
検察官は、この“ディスカッション”というのはAさん殺害に関するものだとして、修被告は殺害計画を事前に認識していたと主張しています」
瑠奈被告は、自宅に持ち帰ったAさんの頭部を損壊する様子を修被告に撮影させた。また、Aさんの眼球や舌が入った瓶を見せられた際、修被告は、「すごいね」と返したという。検察側は、「(修被告は)瑠奈被告の行為を直接的にも心理的にも手助けした」と指摘している。
「無罪」主張の背景は
一方で、弁護側は、修被告は殺害計画を事前に把握していなかったとして、以下のように無罪を主張している。
「物品購入時に殺害計画は知らなかった。修被告と瑠奈被告は量販店でよく買い物をしており、化粧品や雑貨、日用品、お菓子など20点以上買うことが珍しくない。修被告は特に何も言うことなく、瑠奈被告がどんどんカゴに入れる」(弁護側の主張)
弁護側の観点では、自宅に頭部があると知りながら生活をしていたことは死体遺棄ほう助にあたらず、撮影も死体損壊ほう助にあたらないという。
「(両親は)遠くないうちに逮捕されると気づき、わずかな時間をこれまで通りに過ごすことに決めた。修被告が自宅に遺体があるまま生活していたことは、死体遺棄ほう助にあたらない。瑠奈被告が頭部を持ち込んだ時点で、犯罪は終了している。また、撮影自体も死体損壊ほう助にあたらない。撮影までに瑠奈被告はいくつも損壊行為をしており、撮影中、修被告は一言も瑠奈被告に声をかけておらず頭部にも触れていない、物理的にも心理的にも(死体損壊を)促進させたと言えない」(弁護側の主張)
ノコギリやナイフなどの物品を購入した際、修被告は、それらが犯行に使用するものだと知っていたのか。ひいては、殺害計画を事前に把握していたのか。そして、撮影行為は“遺体損壊をほう助した”と言えるのか。いずれ裁判で決着がつくだろう。