2023年7月、札幌・繁華街ススキノのホテルで男性会社員Aさん(62=当時)が殺害され、頭部を持ち去られた事件。1月14日から父親で医師・田村修被告(61)の裁判員裁判が開かれている。2日目の審理では証拠調べが本格化した。
検察はAさんとホテルに入った娘・田村瑠奈被告(30)が撮影したビデオカメラの映像を証拠として提出。瑠奈被告は殺人や死体損壊などの罪に問われている。この映像には、ホテルの浴室でAさんを拘束し、ナイフで刺し殺害、さらに遺体を解体する犯行の一部始終が収められていた。
法廷のモニターに映像こそ流れなかったものの、傍聴人にも映像の内容がわかるよう検察がひとつひとつ言葉で読み上げた。瑠奈被告がAさんを殺害したのち、その遺体を損壊し終えるまでの約1時間22分の“戦慄の犯行動画”の内容とは──裁判を傍聴したジャーナリスト・高橋ユキ氏のメモから、ホテル内で起きた出来事をお伝えする。(注:生々しい犯行の態様が描写されています。苦手な方はご注意ください)
リアルすぎる読み上げ内容
浴室でAさんの右頸部を2秒のあいだに9回刺し、殺害した瑠奈被告。動かなくなったAさんの後ろから両肩を押すと、遺体は前のめりに浴槽に倒れこみ、「ゴンゴンゴゴン」という音が鳴り響く。
※以下、各項目の冒頭の数字は、犯行が起きた2023年7月1日深夜から2日未明にかけての「撮影時刻(撮影開始からの経過時間)」で表記。また行動主体は瑠奈被告。詳細が聞き取りにくかった部分は「?」と記載。
23:14:59(03:14) 6秒、血のついたナイフをシャワーで洗う
23:16:10(04:25) 25秒、浴槽方向にシャワーをかける
23:18:39(06:54) 2分、浴室全体にシャワーをかける。6秒、レインコート上から自分にシャワー
23:24:16(12:31) Aさんの倒れている浴槽にインスタントカメラを向けて撮影しようとする
23:26:12(14:27) 浴槽方向に背を向けインスタントカメラを持ち上げ、浴槽に向け、自分を撮影する
23:27:40(15:55) ノコギリを手に持つ
23:28:25(16:40) 浴槽からAさんを引き上げようとする
23:28:39(16:54) Aさんが持ち上がらず、浴槽内に落とし「ゴン」という大きな音とともに「嘘でしょ」と声を発する
23:33:19(21:34) Aさんの首をノコギリで切る
「ドンドンドン」「キンッ」「ゴン」生々しい犯行音
23:40:51(29:06) 切断したAさんの頭部を両手で持つ
23:40:58(29:13) Aさんの頭部を浴室床に置く
23:42:19(30:34) 22秒、ノコギリをタオルのようなもので拭く
23:43:56(32:11) 血のついた結束バンドを持つ
23:50:48(39:03) 左手に被害者の携帯電話を持ち、右手に金槌を持つ
23:50:51(39:06) 携帯電話を金槌で叩く。ドンドンドン、と何度も叩く音
23:59:46(48:01) 黒いキャリーケースからキャリー型リュックを取り出す
・7月2日
0:00:43(48:58) 黒いキャリーケースを浴室に運び込む
0:01:03(49:18) 浴室内でキャリーケースを開き、そのまま浴室の床に置く
0:01:23(49:38) 浴槽に水かお湯を溜めはじめる
0:02:07(50:22) 浴槽に近づく。ガタガタと音がする。そのあと手に手錠を持つ
0:04:04(52:19) 浴槽の縁に右足を乗せ、右足で踏ん張り、浴槽からAさんの腕を引っ張る動作を繰り返す。その際「チャポン」と音がする
0:04:52(53:07) 浴槽内でAさんの腕を引っ張るのをやめる
0:05:16(53:31) 26秒にわたりカビハイターを壁や浴槽内に何度も吹きかける
0:05:54(54:09) タオルのようなものを持ち、2分7秒にわたり浴室の壁を拭く
0:09:32(57:47) 浴槽に水かお湯を溜めた後、再びAさんの腕を持ち引っ張る。浮力を利用して身体を引き出す。「チャプチャプ」「ジャババー」という音ののち「ゴン」という音
0:10:39(58:54) 被害者の足を持ち遺体の胴体をキャリーケースに入れようとする。
0:11:04(59:19) 遺体の足を持ち、胴体部分をキャリーケースに入れようとしたが「入らない」と言う
0:11:43(59:58) 「はあ、はあ、はあ、はあ」と息をきらす
0:13:02(01:01:17) 1分3秒にわたりカビハイターを浴室壁や浴槽に何度も吹きかける
0:14:44(01:02:59) しゃがみ込んだ後「がさがさ」という音と「キン」という金属音
0:16:25(01:04:40) ガムテープを手に取り、何かに貼る
返り血を洗い流す瑠奈被告
0:18:??(01:06:15) 2分42秒にわたりカビハイターを浴室壁や浴槽内に何度も吹きかける
0:24:27(01:12:42) キャリーケースを閉める。「ジージー」という音
0:26:31(01:14:46) 58秒にわたりキャリーケースや浴槽方向にシャワーをかける
0:28:16(01:16:31) 風呂桶を使い51秒にわたり壁に水かお湯をかける
0:28:18(01:16:33) 浴室壁面に付着した血を左手で拭う
0:30:14(01:18:29) 風呂桶を使い1分37秒にわたり壁に水かお湯をかける。その後、30秒のあいだ、レインコート上から自分にシャワーをかける
0:31:01(01:19:16) 1分55秒にわたりカビハイターを浴槽方向に何度も吹きかける
0:33:41(01:21:56) キャリーケースを持ち上げようとする
0:33:44(01:21:59) キャリーケースを持ち上げ、「はあ、はあ、はあ、はあ」と息をきらす
0:34:01(01:22:16) カメラを手に取り撮影終了
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瑠奈被告は、浴槽にお湯か水を溜めて浮力を利用して引っ張り上げた後、遺体をすべてキャリーケースに入れて持ち出そうとしたとみられている。しかし入らなかったため、頭部だけを持ち帰って首から下は放置したようだ。
憲法82条で定められた、裁判の公開原則。数多くの凶悪事件の中でも、この日の法廷で繰り広げられた検察官による読み上げは歴史に残るものになるだろう。
◆取材/高橋ユキ(ジャーナリスト)