お正月が過ぎても、まだまだ寒いこの季節。暖かな部屋の中で読書をしてみるのもいいのでは? おすすめの新刊4冊を紹介する。
『王将の前で待つてて』川上弘美/集英社/2145円
俳句を始めて30年、2010年の『機嫌のいい犬』に続く第二句集だ。俳句は詩の一形態。詩人川上弘美さんの特徴は生きモノや食べモノをよく詠むことで、(勝手に)ザトウクヂラ、蛇、出汁と揚げ玉、昼酒などと書き出しながら読んでいたら長いリストになった。題名は「王将の前で待つててななかまど」から。「夕蛾とぶ百円棚に金枝篇」が町の小さな古本屋さんの妖しさ満載で好き。
『皇后は闘うことにした』林真理子/文藝春秋/1870円
著者によれば、梨本宮伊都子妃が娘の縁談に奔走する『李王家の縁談』のスピンオフ作。家格を重んじる皇族や華族の5編の結婚狂騒曲で、いまいましさ(男性)や口惜しさ(女性)が交錯、大日本帝国の裏面史のよう。高円寺の農家で育った皇太子妃(節子、後の貞明皇后)の健やかさ、貞明皇后の秘蔵っ子秩父宮に嫁いだ勢津子妃の魅力など、皇室のトリビアは思った以上に奥深い。
『老いを読む 老いを書く』酒井順子/講談社現代新書/1056円
出版不況の今なぜか“老い本”だけは元気。日本独特の現象とか。そこでおさらいしてみました、書物に見る老いの精神史。古典『方丈記』、戦後のベストセラー『楢山節考』や『恍惚の人』、佐藤愛子や黒柳徹子など老い界の星=老いスターにも触れる。現在世界の超金持ち達の一大テーマは不老不死(マジか!?)。その点日本人は老いと向き合おうとしている。ずっと健全だと思う。
『父のビスコ』平松洋子/小学館文庫/803円
“父の娘”ものかなと思ったら射程はもっと広く、自分の感受性の土壌を掘るかのような随筆だった。具体的に言うと故郷倉敷の風土であり、祖父母や両親など家族の系統樹から滴った時間だ。「ちらし寿司やマカロニグラタンやすき焼き」など「食べ物が、家を動かしていた」。介護施設に持参した鰻重を父上が「柔らかい宝石を食べているようだ」と感激されたのが胸に染みる。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年1月30日号