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冬場の馬体重増はレースに影響するのか、蛯名正義・調教師が解説「多少のプラス体重は気にしない。減っているよりはずっといい」

NEWSポストセブン 2025年1月18日 16時15分

 1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、騎手と競走馬の体重管理についてお届けする。

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 2025年もすでに競馬が5日間行なわれましたが、馬券でのスタートダッシュはできましたか。僕らはジョッキーの時もそうでしたが、12月に1年間積み上げた成績がリセットされ、みなゼロからのスタートになるので、とにかく早く勝ちたいという思いでした。ジョッキー時代は2つ勝つとホッとしましたが、調教師になってからは1つ勝つのがとにかく大変だというのを実感しています。

 僕がジョッキーになった40年ほど前の真冬は美浦でも朝マイナス10℃ぐらいのときもありましたが、いまは冷え込んでもマイナス5℃ぐらいでしょうか。この仕事を長くやっていて思うのは道具や用具の軽量化。昔は防寒のための軽い衣類なども充実していなくて苦労しました。ジョッキーは体重管理が大切だからよけい実感します。鞍やブーツは合成皮革になったし、鐙も昔は鉄だったけれど、今は様々な素材で作られています。腹帯なんかもだいぶ軽くなりました。

 週末の競馬が終わると気が緩んで、月曜日や火曜日はどうしても体重が増えるものです。軽い素材が出てくると、さらに楽をしがちになる。それまで51キロに落とさなければいけなかったのが52キロでもよくなったりしましたが、そう思うと、すぐ54キロまで増えてしまいますね。僕自身は減量で苦労したことはあまりないけれど、競馬の日までに適正体重に持っていくことは騎手として最も大事な責務です。

 寒くなってくると人間は体が縮こまって動きが鈍くなりますよね。馬の筋肉も気温が低くなると多少硬くなります。運動前には少し長く体をほぐすようにはしますが、夏場よりずっと元気。馬房では暖房なども必要ありません。

 冬競馬では夏に比べると出走馬の体重がプラスの馬が目立ちますよね。寒くなると水を飲む量が減るし、汗もかかなくなるので、その分食欲が増すのかもしれません。プラス10キロとか発表されると「太いんじゃないか」なんて思ったりしたことはありませんか? もちろん馬もアスリートなので、太すぎると力を発揮できないことがありますが、もともとの体重が人間の10倍近くある動物です。馬体重の増減を予想のファクターにするファンもいるでしょうが、普通の調教ができてさえいれば、陣営で多少のプラス体重を気にすることはありません。減っているよりはずっといいと思っています。

 心配なのは飼い葉を食べなくなること。親が子供に言うように「これは栄養があるから食べなさい」と言っても、それこそ馬の耳に念仏ですからね。馬によっては好き嫌いがあるし、季節によって飼い葉の味が違うともいわれています。その馬がおいしいと思う草を選ぶといいのかもしれません。

 人間もお腹がすくとイライラしますよね。馬だって同じ。お気に入りの飼い葉がないと、ぐれて人間の言うことを聞かなくなるかもしれない(笑)。満足に食べられれば精神的にも安定して、「仕方ねえなあ」と思いながらも、しっかり走ってくれるのではないでしょうか。

【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。

※週刊ポスト2025年1月31日号

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