初場所に進退を懸けて出場した横綱・照ノ富士。4日目まで2勝2敗の成績で、5日目となる1月16日から休場に。膝の痛みや持病の糖尿病に苦しみ、今回は3場所ぶりの出場に踏み切ったが、横綱在位21場所で13度目の休場となり、引退に追い込まれた。
今場所は初日に若隆景に敗れると、2日目の国技館にはドルジハンド夫人、長男・照務甚(テムジン)君、母・オヨンエルデネさんを招待した。負ければ引退の可能性があったということだろうが、2日目は勝利。打ち出し後、照ノ富士は「今場所は自分のなかでやれることをやって、“ダメだったら”という思いがあったので、ひとつ、自信になりました。今場所で自分のすべてを出し切ってやりたいなと思っているので、後先を考えずにやりたいなと考えています」と答えていた。
現役引退の瀬戸際にあった照ノ富士だが、初日の懸賞本数は照ノ富士対若隆景の結びの一番が60本とダントツだった。琴櫻戦が32本、大の里戦が24本、豊昇龍戦が18本だった。相撲担当記者が言う。
「結びの横綱戦に懸賞を集めるのは角界の常識だが、横綱の復帰場所とはいえあまりに偏り過ぎでしょう。次の横綱候補が3人も出てきて、もはや御役御免ということにさえ見える。餞別の意味をあったかもしれませんが……。とにかく、60本(手取り180万円)も懸賞金がつけば対戦相手が燃えるのは間違いない。その懸賞金の割り振りからして、今場所は照ノ富士引退のカウントダウンが始まっている状況でした」
これまで相撲協会は、ひとり横綱の後継者が出てこないこともあってか、休場続きの照ノ富士に引退を強く迫れずにきた。加えて照ノ富士サイドも引退後の年寄株問題があって引き際を延ばしてきたとされる。ただ、少しずつ状況は変わっていたようだ。若手親方が言う。
「初場所は琴櫻と豊昇龍の綱取りでしたが、今場所で横綱が誕生しない場合でも、遠からず“怪物”と称される大関・大の里が綱を張るでしょう。協会側も照ノ富士引退による横綱不在は長期化しないと踏んでいる。また、照ノ富士のほうでも7月に定年退職となる伊勢ヶ濱親方(元横綱・旭富士)の後継者となる目処がついた。部屋の宝富士がもつ年寄株『桐山』を利用してバトンタッチするようです。
もちろん37歳の宝富士自身の引退が迫っているが、『桐山』を同郷(青森県)の阿武咲(廃業)に一時的に貸してやりたいと師匠に相談したところ、即却下されたという。照ノ富士は横綱経験者の特権で5年間は現役四股名で親方として残ることができるが、それでは伊勢ヶ濱親方と名跡交換して部屋を継ぐことができない。名跡交換すれば伊勢ヶ濱親方は『桐山』を襲名して再雇用の参与とし協会に残れる。そのうえで、宝富士が引退する時点で退職する見通しとされます」
そうして引退へのレールが敷かれるなか、今場所は照ノ富士がどこまで大関陣の「壁」になれるかが注目されていた。
「照ノ富士は2年で9場所も休場しながら、皆勤した3場所ではすべて優勝している。実力は確かながら、満身創痍の戦いを続けてきた。その照ノ富士が横綱の器と期待するのが大の里です。直近の巡業や稽古総見でも稽古をつけている。
今場所は大の里にとっての壁として立ちはだかり、綱の重みを伝えたいという思いがあったとされます。まさに“最後の大仕事”でした。照ノ富士が終盤の大関陣との対戦まで土俵に立ち続ければ優勝争いは混沌とすると見られていたわけですが、現実には黒星を重ねて途中休場となってしまいました」(前出・若手親方)
休場で現役続行の徳俵に足がかかった照ノ富士は、そのまま引退に追い込まれた。これによって今場所に綱取りの可能性が残る豊昇龍の昇進のハードルは下がるのだろうか。
※週刊ポスト2025年1月31日号