2024シーズンは前人未到の「50本塁打、50盗塁」を達成し、DHではメジャー史上初となるシーズンMVPを獲得したドジャースの大谷翔平(30)。今シーズン期待されるのは、マウンドで躍動する姿だ。2度の肘の手術を経た大谷はどんな新しい投球スタイルを見せてくれるのか。
2023年9月に受けた2回目の右肘の手術から約1年半──ドジャース・大谷翔平(30)が、投打の二刀流をついに復活させる。
脱臼で痛めた左肩を2024年11月に手術した影響で、3月に日本で開催される開幕シリーズでは打者に専念する見込みだ。デーブ・ロバーツ監督も「5月まで投げさせないつもり」と明言。二刀流の解禁は6月以降と見られる。
1月7日には、大谷がロス近郊のマラナサ高校で投球する動画をドジャースの専門メディア「ドジャース・ネーション」がSNS上にアップ。2歩ほど勢いをつけて右腕を思いっきり振って投げ込むなど、投手復活に向けて順調にリハビリを続けているように見える。
日本スポーツ協会公認スポーツドクターで、古川整形外科医院院長の古川泰三氏が解説する。
「手術でメスを入れた部分は正常な筋肉も変性する可能性があります。1回目よりも2回目のほうがより厳しいトレーニングを積むことになる。その一方で、リハビリによる全身コンディション(柔軟性、筋力など)の改善やフォームの矯正によりパフォーマンスが上がるケースも少なくありません」
1983年当時タブーとされた右肘のトミー・ジョン手術を受けた村田兆治氏(故人)も、かつて「週刊ポスト」の取材にこう語っていた。
「靱帯がもう一度切れたらどうしようという不安が常につきまといましたが、投げる時に肘が下がらないように意識したり、肘の角度を注意して投げることでフォームがよくなった。投げ方が改善されて球速が速くなったと感じたこともあります」
1回目の右肘靭帯移植手術で投球内容が一変
2018年オフに1回目の右肘靭帯移植手術を受けた大谷は、2021年に投手として復活すると投球内容が一変した。
「ストレート中心でスプリットを武器に三振の山を築いていたのが、手術後は“魔球”と称されたスライダー系の球である『スイーパー』を中心にカットボール、シンカー、カーブ、スプリットなど多種多彩な変化球を武器にするようになりました。そのうえ変化球の球速が伸び、与四死球率が下がるなど、投手としてステップアップした姿を見せた」(メジャー担当記者)
2度目の右肘靭帯の修復手術を経て、規格外のユニコーンにどのような進化が期待されるのか。
1990年と1994年に渡米して軟骨除去手術とトミー・ジョン手術を受けた経験を持つ元阪神の中込伸氏はこう言う。
「私の場合、真っすぐ(直球)を投げようとすると、肘が伸びて手術部が痛みました。それで肘を少し抜き(前に出し)ながら投げるようになって偶然“真っスラ”が生まれた。カットボールほど曲がらず、打者は真っすぐだと思って振ってくるので芯を外して詰まってくれました。
また、僕は手術前までインステップしてスライダーを強引に投げていました。大谷君のスイーパーも同様の投げ方に見えます。右打者の背中から球が来るように見えて効果がありましたが、肘への負担も大きい。大谷君も負担を考えてインステップはしなくなるんじゃないか。そうなると、同じスライダーでもフォームが違って打者には違った球種に映るはず。さらに肘の負担が軽いカーブなどの球種をうまく組み込むのではないか」
以前とは違った変化の“新スイーパー”を軸として新たな組み立てが期待されるというのだ。
打者専念が投球にプラス
昨年打者に専念したことが投球にプラスに働くという見方もある。
投手から野手、その後さらに投手へと再転向しして「松井秀喜キラー」として活躍した元阪神の遠山奨志氏はこう言う。
「リハビリの動画を見る限り、順調な回復に見えます。野手から投手に再転向する時、1年かけて野手から投手の身体に変えました。野手は強い筋力を、投手は繊細で柔らかい筋力を必要とする。そのためトレーニングも違いますが、大谷君の場合は制球力より腕の振りで投げていた投手で、それも右投げ左打ちと元々バランスよく筋肉が鍛えられている。
そのうえ昨季は、打撃だけでなく走塁に力を入れた。足腰の筋力や瞬発力を鍛えたため、投手に必要な下半身の安定と蹴りの強さでプラスアルファが出てくるのではないか」
ヤクルト時代の3度のトミー・ジョン手術を含め9度もメスを入れた館山昌平氏(現マルハン北日本カンパニー硬式野球部監督)は、自身の経験を踏まえこう語った。
「手術によって肘だけでなく体自体も変わります。術後の自分を受け入れ、その時の年齢やチームに求められることを考えながら、新しいプレースタイルで取り組んできた。大谷君も2度目の手術でどのようなパフォーマンスができるかワクワクしているのではないか。どのような投球になるのか楽しみです」
これまで数々の試練を乗り越えてきた大谷は、さらに進化を遂げた姿を見せてくれるに違いない。
取材・文/鵜飼克郎
※週刊ポスト2025年1月31日号