「Fuck You!!」──1月7日、東京都・豊洲市場場内でこんな怒号が響き渡った。日本の食卓を支えている豊洲市場では、日々めまぐるしく売り買いがなされ、忙しさのピークに達した市場内では時に競り人同士で言い争う姿も見られる。しかし、この日はいつもと様子が違っていたようだ。豊洲市場に勤めるスタッフがこう明かす。
「実はこの日、アメリカからアントニー・ブリンケン米国国務長官が来日していて、たくさんのSPを引き連れ、小池百合子東京都知事とともに豊洲市場内にある寿司店を訪れていたんです。今回は豊洲市場視察というより、以前、ブリンケン氏がその寿司店を訪れた際、その味にいたく感動し、その味が忘れられなかったため今回もお忍びで来ていたそうです。
厳重な警備体制が敷かれていたので目立っていて、市場で働くスタッフが大勢、道路を挟んだ店前に集まって人だかりができていました。すると突然、赤いパーカーを着て、フードを目深にかぶった1人の男がスマホで動画を回しながらSPらに近づき、『ブリンケン!FUCK YOU!!』と叫び、中指を突き立てたんです。ブリンケン氏の近くまで詰め寄ったため、SPに咎められたそのスタッフは、何度か叫んだ後にガッツポーズを決め、足早にその場を立ち去っていました」
周囲も当初は合いの手を入れていたが……
その男は一体、何者なのか。このスタッフが続ける。
「豊洲市場内にある青果の卸売会社で働くスタッフです。築地から豊洲市場に移転する前から働いていて、勤続年数も長い。見た目とは裏腹に、仕事では無口で真面目な様子だったので、市場内では『まさかあの人が?』とみんな驚いています。不謹慎ですけど……、最初はその社員の行動を周囲も笑って見ていたんです。
『あれ、◯社のアイツじゃない?』『やるな!』なんて声も上がっていました。その後、スタッフは道路を横切り走って逃げたためSPに追いかけられたんですが、あろうことか会社の車に乗って逃走したんです。市場内は大騒ぎでした。SPや周りにいた東京都の職員らはカンカンで、『あのスタッフはどこの会社の誰なんだ!』と、犯人探しが始まったんです。笑って見ていた人々も、『あいつ、やっちゃったね……』『ウチの会社じゃなくてよかった』と、胸を撫で下ろしていました」(同前)
その後、叫んだ男性は特定され、働いていた青果卸売社長は多くの東京都職員に囲まれて、叱責を受けたという。その日のうちに男は豊洲市場場内入場禁止処分となり、実質的に“クビ”を宣告されたという。
「心配した別のスタッフが、青果の卸売会社の社長に『あれどうなったの?大丈夫?』と、電話をかけたそうです。すると『それどころじゃないんだよ!』とだけ言われ、電話は切られたそうです」
「事実確認中です」
この男性にはどんな処分が下ったのか。東京都の中央卸売市場管理部広報組織担当課はこう回答した。
「1月7日、小池知事とブリンケン国務長官が豊洲市場を訪問した目的、またこれは事実であるか小池知事がどのような対応をしたかを含めて視察については豊洲市場を所管管理するこちらの担当課では把握はしておりませんが、7日にブリンケン国務長官が豊洲市場の5街区にある『大和寿司』を訪れて食事をしたということは把握しております。
その際に小池知事が同席していたのかまでは承知しておりません。ブリンケン国務長官に対する暴言があったかどうか事実確認中です。個人に対する場内入場禁止の処分を含めて、処分したか否かに関して中央卸売市場からの回答は控えております」
男性が勤務していたとされる会社の社長に電話で話を聞くと、「ちょっとわからないですけど、ちょっと今忙しい時間帯なんで……」とだけコメントがあった。
突然、米国国務長官に対して暴言を吐いたこの男、その胸の内には一体どのような思いがあったのだろうか。