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《トランプ政権発足を10倍面白く読む!》政権中枢に「カトリック信徒」、史上初の同性愛者閣僚も 多様性が導くのは強いアメリカか、それともカオスか

NEWSポストセブン 2025年1月20日 7時15分

 第二次トランプ政権が始動する。中国への関税引き上げなど「対外強硬派」を掲げる大統領を支える閣僚もまた“強硬派”とされる人物がずらりと並ぶ。だが、彼らをひと括りに見てしまうと、真の姿を見誤るかもしれない。彼らの経歴、過去の発言を見るとトランプ大統領の“懐の深さ”も窺えるのだ。トランプ大統領をいまさら聞けない常識から、知っていれば“通ぶれる”ネタなどをわかりやすく解説する『ビッグコミックオリジナル』で好評連載中のジャーナリスト小川寛大氏による『アメリカ大統領選を10倍面白く読む!』を公開する。

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 1月20日にアメリカ合衆国大統領へ正式就任したドナルド・トランプ。そんな彼を支える政権の閣僚たちの顔ぶれもトランプ同様にいろいろ個性的だ。

 例えばトランプの持つ“過激右派”のイメージそのままにとでもいうのか、彼の外交政策をいろいろと方向づけることにもなるのだろうマイク・ハッカビー(駐イスラエル大使)やエリス・ステファニク(国連大使)らは、音に聞こえた親イスラエルのタカ派である。特にハッカビーなどは「パレスチナ人などというものは存在しない」といったことを公言する人物で、いったいトランプ政権が本格稼働し始めたら、ガザ情勢はどうなってしまうのかと心配する人々も多い。

 そうした懸念は実にもっともなものだし、トランプ政権がある種の強硬タカ派的な姿勢をいろいろと見せながら運営されていくのだろうことも、疑いの余地がない。しかし、その閣僚内定者らの顔ぶれをよく見ていくと、「おやっ?」と思わされるような面々がいることも、また事実なのだ。

 例えばトランプ政権で副大統領を務めるのは、J・D・バンス(共和党上院議員)。また、政権の要とも言える存在感を持つ国務長官ポストには、マルコ・ルビオ(同)が就く。この2人もアメリカ政界ではごく普通に“ゴリゴリの右派”として知られる人物なのだが、実はもう一つの共通点が「カトリック信徒であること」だ。

アメリカ社会における「保守派」とは

 そもそも“保守派”とはどういう考え方をしている人たちのことを指す語なのかの定義は、国によっていろいろと異なる。しかし保守派とはおおむね、それぞれの国の社会的な成功者や上流階級たちによって支えられてきた思想だという傾向はある。そういう観点から言うと、アメリカの保守とはまず「WASP(ワスプ)」によって支えられてきたものだという、一般的なイメージがある。WASPとはすなわち、W=ホワイト(白人)、AS=アングロ・サクソン(イギリス系)、P=プロテスタント信徒という意味だ。この3つを兼ね備えた人たちこそが、確かにアメリカ社会のエリート層を長く形成してきた事実がある。

 アメリカは、王様のいない共和政国家として建国された。よってアメリカ国民は、まさに「歴史上、最も偉大な大統領」と言われるエイブラハム・リンカーンのように、貧しい生まれであっても懸命に勉強して肉体労働などに励み、誰にも縛られない自由の精神とともに成り上がっていく、セルフ・メイドマン(独立独行の人)の生き方を、最も尊い人間精神のありようとして称揚してきた。

 ところがその観点からすると、カトリック教会とは結局、バチカンのローマ教皇という“絶対君主”の強力な権威の下に存在する宗教であり、そうした教えは人間の自由な精神を損なうという、一種の陰謀論にも似た考え方が、アメリカの保守層の間には伝統的に存在してきた。白人至上主義団体・KKKの名前はよく知られたものだと思うが、彼らは実は黒人の抑圧とともに、カトリック信徒への攻撃も昔から行なってきた団体で、このように実はアメリカには根強い“カトリック嫌悪”の感情がある。

 しかし前述したように、トランプはやがて発足する自身の政権の重要なスタッフに、バンスとルビオという、2人のカトリック信徒を起用しているのである。特にバンスはベストセラーになった自叙伝『ヒルビリー・エレジー』において、自身はスコッツ=アイリッシュ(アイルランドの北東部に住む人々)にルーツのある人間で、すなわちアングロ・サクソンではないと語り、「私は白人にはちがいないが、自分がアメリカ北東部のいわゆる『WASP』に属する人間だと思ったことはない」と言い切っている。

 また、彼ら以外にトランプ政権の重要閣僚に内定した人々の顔ぶれをながめると、例えば司法長官に指名されたパム・ボンディはイタリア系で、サイエントロジーとの関係を取りざたされている人物である。さらにこれも重要閣僚である財務長官に就くスコット・ベッセントは、自分がゲイであると公言している人物。彼が実際に就任すれば、アメリカ史上初の同性愛者(を公表している人物として)の財務長官となる。

多様性は器の大きさか、それともカオスか…

 このように、トランプ政権に名を連ねる人々の顔を見ていくと、意外な“多様性”があったりもするのである。無論、これら閣僚ポスト内定者らは別にリベラル派というわけではなく、トランプの政策に少なくとも総論では賛成の立場を表明しているからこそ、その政権スタッフに抜擢された人々だ。しかしトランプ本人も含め、彼らは右派やタカ派ではあっても、実はWASP的な“伝統保守”とは、少し色合いが違うというのも事実なのである。

 例えば先述したように、今後のトランプ政権は特に中東政策について、親イスラエルのタカ派的姿勢で突っ走るのではないかという懸念が広がっている。しかし、トランプは実際の選挙戦では、よく言えば柔軟、悪く言えば二枚舌的に国内のイスラム系移民に対しても支持を訴えるような動きを見せていた。その選挙戦略を担当したのが、トランプ政権の中東担当上級顧問に内定しているレバノン系アメリカ人実業家のマサド・ブーロスという人物なのだが、実は彼はトランプの次女の義父である。トランプとは、実はこうしたウィングの広さも持っている男だったりもする。

 こうした、ある種の野放図さ、奔放さが、トランプという男の持ち味であろうことは確かで、ゆえにその手腕に期待するというトランプ支持者はアメリカに数多い。しかし一方、こうした次期トランプ政権の“多種多様さ”は、実際のところただのカオスを招くものでしかなく、トランプ政権が本格稼働したら、何の戦略性もなく迷走し、国際社会をおかしな方向に導いていくだけではないかといった懸念を表明する向きもある。そういう意味では、「何をしでかしてくるかわからない」という思いを常に見る者に抱かせたトランプの選挙活動同様、彼の率いていく政権もまた、よくも悪くも「何が出てくるかわからないもの」になっていく可能性は、強いのだろう。

(了。次回掲載1月21日予定)

※『ビッグコミックオリジナル』(小社刊)1月20日号より一部改稿

◆?小川寛大(おがわ・かんだい)/ジャーナリスト。1979年熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。2015年、季刊誌『宗教問題』編集長に。2011年より〈全日本南北戦争フォーラム〉事務局長も務め、「人類史上最も偉い人はリンカーン!」が持論。著書に『池田大作と創価学会』(文藝春秋)、『南北戦争』(中央公論新社)、近刊『南北戦争英雄伝 分断のアメリカを戦った男たち』(中公新書ラクレ)など。

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