トレンディドラマの女王として一世を風靡した名女優・浅野ゆう子と、ソウルフルな歌声で「クレージーケンバンド」を率いるミュージシャン・横山剣。今なお第一線で活躍を続ける同い年の2人には、意外な接点があった。約半世紀の空白を経て、照れ臭くも甘酸っぱく語り合う、お互いの現在・過去・未来──。【前後編の前編】
男女の会話は停学処分
横山:僕と浅野さんが、こうして面と向かって会話するのは初めて。ドキドキします(笑)。
浅野:もちろん、横山剣さんのご活躍は存じ上げていましたが、堀越高校(東京都中野区)の同級生だったとは! まったく知りませんでした。
横山:同級生とはいえ、僕と浅野さんはコースが異なりました。浅野さんは芸能人の通うDコース、僕は大学進学を前提としたAコース。
浅野:じゃあ、向学心にあふれてたんですね。
横山:いや。実は僕、作曲家になりたくて、堀越のDコースに通えば業界に伝手ができるんじゃないかと考えたものの、どこか事務所に所属していないと、あのコースには入れないという……。
浅野:そうでしたか。
横山:でも、とりあえず、入学すりゃ何とかなるかと思いまして。簿記とか苦手だから、就職を目指すBコースだと苦労しそうだし。それゆえ、消去法でAコースを選んだだけなんですよ(笑)。
浅野:コースが違うと、交流はなかったですね。
横山:それどころか、一般コースですら男子と女子が会話したら停学処分。芸能コースの女子となんて絶対接触禁止(笑)。
浅野:校則が非常に厳しい学校でしたよね。
横山:そうそう、浅野さんと同学年の芸能人といえば、僕がいた頃は、リリーズのおふたりや荒川務さんがいらっしゃいましたね。
浅野:それから、下澤廣之君。当時、ジャパンアクションクラブで修業を積んでいた彼は、卒業後に真田広之と改名し、ご存じの通り、『SHOGUN 将軍』で今年のゴールデングローブ賞を獲得した世界的な俳優でいらっしゃいます。
横山:僕らよりも下の代となると、中学校にはジャニーズ事務所の2人組であるリトル・ギャング、それから……藤谷美和子さんがいましたっけ。
浅野:川崎麻世君も、中学に在学していましたよ。
横山:そんな堀越時代、浅野さんは中学2年、13歳にして『とびだせ初恋』で歌手デビューを果たしたんですよね。“ジャンプするカモシカ”というキャッチフレーズを覚えています。
浅野:当時の芸能界では、中学生でデビューするケースが珍しくありませんでした。森昌子さん、桜田淳子さん、山口百恵さんの“花の中三トリオ”も大人気でしたしね。
横山:芸能コースの生徒は、仕事の都合で早退することが多かったですね。
浅野:校門を出る時は、いったん振り返って一礼しなければならない。そんな校則がありました。
横山:浅野さんが頭を下げている様子、教室の窓から見えましたよ(笑)。
浅野:私も郷ひろみさんと、野口五郎さんが一礼しているところを目撃したことがあります。
カミソリ入りの手紙
横山:浅野さんは中2の時、区立中から堀越中に転校したんですよね。
浅野:堀越に転入して1年間ぐらいは、事務所の方に「仕事の都合で早退します」という書類を書いてもらって、真面目に提出していたんですよ。
横山:そういう手続きが必要だったんですね。
浅野:けれど、2年目ともなると、自分で勝手に書類を出して、そのまま新宿に行って遊んだりもしてました(笑)。
横山:不良ですね(笑)。新宿というと、どんなところで遊んでました?
浅野:紀伊國屋書店の裏に、アドホックっていうビルがあったじゃないですか。あそこのサンリオショップに行って、キティちゃんのグッズをじーっと眺めてましたね。
横山:かわいい!
浅野:それから、シェーキーズでピザを食べて。そんな女子高生でした。
横山:当時、流行っていた歌舞伎町のディスコなんかには、足を運んだりしなかったんですか。
浅野:プライベートで通うことはありませんでしたけど、新曲のキャンペーンでは、当たり前のように深夜のディスコに出演していましたよ。まだ高校生だったのに(笑)。
横山:さすがディスコ歌謡の女王! 浅野さんが高1の4月にリリースした『セクシー・バスストップ』は筒美京平さんがジャック・ダイアモンドなる外国人風の変名で作曲した珠玉の名曲です。
浅野:おかげさまで、私の人生で最も売れたシングルとなっております(笑)。オリコンでは12位まで上昇いたしました。
横山:しかし、このレコードのジャケット、何でまた、写真じゃなくってイラストなんですか。当時の浅野さんといったら、10代とは思えない、抜群にセクシーなビジュアルが売りだったはずなのに。
浅野:女性の反感を買うことを恐れたんでしょうか。「髪を切れ」と命じられたのも、この頃でした。
横山:突然短髪に変えたので、驚きましたよ。
浅野:見た目が大人びていたからか、テレビなどで男性アイドルと並ぶと、その方のファンたちが嫌悪感を催すらしいんです。よく、カミソリ入りの手紙とか来てましたよ。
横山:それで、フォトジェニックなルックスをアピールしない戦略が取られたと。謎が解けました。
浅野:この年、立て続けに発売された『セクシー・バスストップ』『ハッスルジェット』『ムーンライト・タクシー』は、ディスコサウンド3部作と呼ばれました。すべて作曲は筒美京平先生、そして、ジャケットはいずれもイラストでした(笑)。
横山:浅野さんのダンサブルなナンバー、本当に素敵ですよね。
浅野:まあ、じっくりバラードを歌って、聴いていただくタイプじゃありませんでしたから(笑)。
(後編へ続く)
【プロフィール】
浅野ゆう子(あさの・ゆうこ)/1960年、兵庫県生まれ。1974年に『とびだせ初恋』で歌手デビュー。同年のドラマ「太陽にほえろ!」で俳優デビュー。1980~1990年代のトレンディドラマのブームを担い、1995年に公開の映画「藏」では第19回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。主な出演作はドラマ「君の瞳をタイホする!」、「大奥」、大河ドラマ「功名が辻」など多数。
横山剣(よこやま・けん)/1960年、神奈川県生まれ。1981年にクールスRCのヴォーカル兼コンポーザーに抜擢されデビュー。1997年春、地元本牧にてクレイジーケンバンド(CKB)を結成。これまでに数多くのアーティストにも楽曲を提供し、自他共に認める東洋一のサウンドマシーンとして活躍。ニューアルバム『火星』が発売中。火星ツアーで精力的に全国行脚中。
構成/下井草秀 撮影/朝岡吾郎
※週刊ポスト2025年1月31日号