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【潜入】和田毅氏“引退直後の左腕塾”に大竹耕太郎、小島和哉ら、若手投手が続々参加 受け継がれる“和田イズム”

NEWSポストセブン 2025年1月23日 7時15分

 日本球界でホークス一筋を貫き、昨年限りで現役を退いた左腕・和田毅氏(43)は、今年もグラウンドに立っていた。球団の垣根を越えて慕われる和田が後輩たちに遺すものとは──。スポーツライターの田中周治氏がレポートする。

「久しぶりに落ち着いた正月でした。おせちをつつきながら、箱根駅伝を見たりして。家族とゆっくり過ごしました」

 そう語るのは、2024年の日本シリーズ終了直後の11月に、現役引退を電撃発表した元福岡ソフトバンクホークスの和田毅だ。

 1月10日、うっすらと雪が降り積もる長崎ビッグNスタジアムに和田の姿はあった。現役を引退した今年も、2019年から同地で続けるキャンプ前の自主トレ“和田塾”を開催している。和田の現役時代の背番号にちなんで「チーム21」と名付けたこの自主トレには、球界の若手左腕たちが、チームの垣根を越えて参加志願してきた。

「僕が引退を発表する前に、何人かの選手から『来年もお願いします』と言われていたんです。1人や2人なら訳を話して断ろうと思ったんですけど、10人近くが参加を希望してくれたので、最後の自主トレを行なうことにしました」

 主な参加メンバーは、2年連続で二桁勝利をあげている阪神・大竹耕太郎やロッテ・小島和哉のほか、ドラフト1位入団でローテーションを守っている楽天・早川隆久、西武・隅田知一郎など。和田の母校・早大野球部出身の後輩たちを中心に、今年も期待のサウスポーが集った。

 トレーニングメニューは例年通り、和田が決めていたが、本人はフル参加することはなく、練習用具の準備から練習のフィードバック用動画撮影まで、裏方に回るシーンが多かった。

 取材日の1月10日も、選手たちの誰よりも先にグラウンドに出て、1人で黙々と雪かきをする姿があった。

「後輩たちのために」という姿勢が印象的で、改めて「現役を引退したんだな」と思わされる。

引退の決め手はひざ痛とぎっくり腰

 筆者は昨季開幕直前にも、本誌で和田に密着した。調整の遅れがあると明かしながらも、開幕に照準を合わせる自信をのぞかせていた。

「オフにふくらはぎを痛めて自主トレ中に走り込みができなかった。その調整遅れが響き、本拠地開幕戦の先発に指名してもらったにもかかわらず、その役目を果たせませんでした。ちょうどポストさんの取材を受けたころは、指のまめに苦しめられていて……」

 5月にシーズン初登板を果たし、2勝をマークしたが、本調子には程遠かった。7月に二軍調整となり、そのタイミングでひざ痛が発症。さらには人生初のぎっくり腰にも見舞われた。

「本当に体が悲鳴を上げていたんでしょう。心技体のうち、技術面ではまだ通用する自信があったし、続ける気力もあった。でも体が限界。ただ、物理的に無理なところまで頑張れたので、そういう意味ではやり切った気持ちが強いです」

 第二の人生に注目が集まるが、和田は「やりたいことはいっぱいある」と目を輝かせる。

「とにかく今は知見を広めたいですね。YouTubeチャンネルも開設してみたいし、多くの人と知り合う機会を増やしたい。僕は野球の世界しか知りませんから、学びの場を増やしたいです」

 球界からは「将来的に指導者の道に」という声が上がるだろう。だが、本人は「現在の僕にはまだ無理」と言い切る。

「コーチング学もそうだし、人に何かを伝えるということを根本から学ばないと。興味はありますけど、そのためにも僕自身が成長しないといけない。指導者はそうなってからの話ですね」

自主トレに睡眠セミナー

 松坂世代の中で、和田は常に同世代と比較され、他選手の輝きに埋もれることもあった。しかし、考える力と練習に打ち込むことを武器に、世代最後の現役として生き残った。その姿勢は引退してからも変わらない。

「もちろん仕事一辺倒の生活にしたくはありません。妻と温泉や海外旅行にも行きたいし、おいしいものを食べに行ったりしたい。とにかくやりたいことが山ほどあります」

 今回の自主トレでは、睡眠の専門家を招いてセミナーが開催された。自主トレメニューに座学を取り入れるのは、いかにも和田らしいチョイスだ。

「強制するわけではありませんが、この長崎での自主トレが来年以降も続いてくれたらな、と思います。だから今回は、これまで僕が手配していた練習場やホテル、食事の手配などの引き継ぎというか、『もし彼らが続けるようならよろしくお願いします』という顔つなぎの意味もあったんです。

 年齢的に中心になるのは大竹と小島の2人かな。彼らが中心になってくれたら嬉しいですね」

 考えるサウスポー。練習の天才。和田イズムは受け継がれていく。

【プロフィール】
和田毅(わだ・つよし)/1981年2月21日生まれ、山形県出身。早大時代に江川卓氏の持つ奪三振記録(443)を更新する476奪三振をマーク。2002年ドラフトで福岡ダイエーホークス入団し、2024年11月に現役引退を表明。プロ生涯成績は、日米通算165勝94敗。

取材・文/田中周治 撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2025年1月31日号

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