連日、満員御礼が続く両国国技館。番狂わせ続きで大きな盛り上がりを見せる土俵上の取組だけでなく、国技館を訪れる観客にとっては館内の売店などの存在も楽しみになっている。ただ、そうした館内の光景には少しずつ変化が見られる。
「スイーツ親方のパン屋さんはどこに行ったか知りませんか」
1年ぶりに国技館の相撲観戦に来たという老夫婦にこう尋ねられた。スイーツ親方というのは、元横綱・大乃国の芝田山親方のこと。国技館の1階エントランスホールの一角で芝田山親方が開いていたパン屋のことを尋ねているのだ。
たしかに1年前にはパン屋が存在していた。スイーツ好きで知られる芝田山親方がプロデュースするパンが本場所中限定で販売されていたのだ。相撲担当記者が言う。
「パン屋がスタートしたのは2021年5月場所。横綱食パン(500円)、スイーツパンメープル(600円)、スイーツパンあずき(600円)が定番で、平日は180個、土日は300個の限定販売をしたところ、連日完売という大人気企画となった。平日10食限定のスイーツ食パン(800円)、季節のパン紅いもアップル(600円)などの限定品も大人気だった。
芝田山親方は自らがエプロンをして3~4時間は店頭に立った。サブレのつかみ取りコーナーを担当し、ファンサービスに徹していた。親方が店頭に立つとパンを買った人が記念写真を撮るため、長い行列ができていた」
ところが、昨年の5月場所で突然閉店に。冒頭の老夫婦のように、今もスイーツ親方のパン屋を楽しみに来る人も少なくないが、パン屋があった場所には相撲ガチャが並べられている。
八角理事長(元横綱・北勝海)にスイーツ親方のパン屋がなくなった理由を聞くと「ガチャが人気あるんだよ」と一笑に付したが、相撲ジャーナリストはこう続けた。
「閉鎖の背景には協会内の勢力図の変化があるといわれる。昨年3月に八角理事長の再選後の新体制の職務分掌で、芝田山親方は総合企画部長兼広報部長から教習所所長に異動した。芝田山親方が要職から外れたことも関係しての閉鎖とも言われています」
「これは仕方がないことだよ」
パン屋がなくなって半年以上が過ぎたが、やっとの思いで手に入れたチケットで相撲観戦に来たファンにとっては寝耳に水。冒頭の老夫婦のように、スイーツ親方のパン屋を楽しみ観戦に来るファンもいるのだ。そのことを芝田山親方本人に伝えると、こう返答があった。
「いろいろあって(パン屋は)やめちゃったんだよ。広報部を外れて、教習所担当になったのでね。毎日店頭に立って大変だったか? そりゃ大変だったよ。あれはコロナ感染拡大で入場者が制限されて館内飲食ができなくなった際に、当時広報部に所属していた高崎親方(元幕内・金開山)の発案で出店することになった。コロナで大変な時期になんとかつなぐことができた。よかったと思っているよ。楽しみにしていたのに……と言われたりもするけど、これは仕方がないことだよ」
そう笑顔で答えるのみだった。再開を願うファンの声が届くことはあるのだろうか。