寒波のために40年ぶりの屋内開催となるなど、各国の駐米大使ではなく首脳や外相らを招待するなど異例ずくめだったドナルド・トランプ大統領就任式。臨床心理士の岡村美奈さんが、前回の赤ではなく紫のネクタイで登場したトランプ大統領の変化について分析する。
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「就任初日だけは、独裁者になる」と公言していたトランプ氏、米国の第47代大統領就任式に着用していたのは、2017年の就任式でつけていたトレードマークの鮮やかな赤のネクタイではなく、紫色に見えるネクタイだった。
その言葉通りに力を誇示するため、積極的で活動的でエネルギッシュ、強い政治家をイメージさせる赤いネクタイをするかと思ったが、選んだ色は重厚感で落ち着いた印象を与える紫色でスーツは濃紺。共和党の赤と民主党の青の融和をイメージさせる狙いがあったのではと分析するメディアもあるが、就任式に出席していたアマゾンのジェフ・ベゾス氏やメタのマーク・ザッカーバーグ氏も同様の紫色。彼らがこの色を選んだのは、どちらの党も敵にせず政治的中立の立場を取りたかったからかもしれない。
前回の就任式で、トランプ氏が選んだのは鮮やかな赤のネクタイ。米国民にはこの時まだトランプ氏がどのような大統領になるのか、何をするのか、できるのかが未知数だった。米国を再び強い国にするとしたトランプ氏は、赤いネクタイで公約を実現させる強いリーダーの誕生を印象づけたかった。だが今回、米国民はトランプ氏がどんな人物か、どういうやり方をするのかなどを熟知していた。トランプ氏が再び赤いネクタイで登場する必要はなかったのだ。
代わりに選んだのが紫色のネクタイ。紫はトランプ氏が頻繁に身に着ける赤と青を混ぜた色。赤による情熱と青からくる冷静さを内に秘めていることをイメージさせる。二度目の就任式は悠々と登場し、緊張している様子はない。就任演説でも述べたように暗殺未遂を免れて「アメリカを再び偉大にするため神に救われた」大統領として、紫色のイメージからくる重々しさや高貴さ、上品さ、厳粛さをアピールしたかったのだろう。
話は逸れるが今回、トランプファミリーのファッションも変わった。前回、米国の著名デザイナー、ラルフ・ローレンによる空色のボレロスーツを着用していたメラニア夫人は、トランプ氏と同じ濃紺のコートドレスに首元まで波打つように襟があるアイボリーのブラウス、ツバのある濃紺と白のボーダーハットに濃紺のピンヒールだった。新鮮で爽やかで希望を感じさせる空色と柔らかなラインの美しいデザインで、優しく親しみのあるファーストレディーの誕生を印象づけた前回とは反対に、落ち着いて安定したイメージの濃紺にカチッとしたデザインは、上品でシックだがクールで毅然とした印象に。さらに帽子のツバで目元が隠されていたため、ミステリアスで近寄りがたさが強調された。
前回、特別補佐官に任命され注目を浴びたトランプ氏の長女イヴァンカ氏は、今回、深緑のスーツに同色のベレー帽を着用。前回はフレッシュさやスタートをイメージさせる真っ白のパンツスーツで、政権への意気込みなどが感じられたが、今回は穏やかさや安定感、バランスをイメージさせる色を選んだ。新政権ではホワイトハウス入りしないというイヴァンカ氏だけに、政治とは距離をとった立ち位置の心境が服装の色に投影されていたのかもしれない。
話をトランプ氏に戻そう。前日に行われた凱旋集会で「明日から歴史的なスピードと強さで行動し、私たちの国が直面する危機を解決する」と述べたトランプ氏は、就任直後から「パリ協定離脱」「恩赦」「南部国境に非常事態宣発令」「WHO脱退」と次々と大統領令にサイン。就任初日、公言通りの独裁者ぶりを発揮。その言葉に呼応するように、米実業家のイーロン・マスク氏は就任イベントで「ナチス式敬礼」と言われるポーズを行い物議を醸した。
トランプ氏がネクタイに選んだ紫という色は、上品で高貴で権力の象徴でもありカリスマが好む色でもあるが、下品や不安、不安定や孤独というネガティブなイメージもある。第2次トランプ政権が始まった米国はどこに向かっていくのだろう。