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蛯名正義・調教師が解説する馬の食と体調 「パドックで毛艶がピカピカに輝いているような馬は、きっちり食べて、よく消化吸収されている」との判断も

NEWSポストセブン 2025年2月1日 7時15分

 1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、競走馬の毛艶と食事についてお届けする。

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 牧場などに見学に行ったことがある人は分かると思いますが、馬は地面に生えている草を食べている時間が多い。トレセンでも馬が空腹になる時間をなるべくつくらないということは皆さんもご存じだと思います。食べ終わって飼い葉桶が空になったら、牧草を馬房の中に入れておきます。馬は腸が長い動物なので、空腹時間が長くなると体に負担がかかってしまうのです。

 朝早めに運動する馬には終わってから食べさせ、少し遅い時間に運動させる馬は、運動前に軽く食べさせます。

 人間はバランスよく食べないと体によくない、朝昼晩ちゃんとメリハリつけなければならないなどとよく言われますよね。馬は基本的に草食動物なので外敵に狙われないように自分の安全を考えながら、必要に応じて食べているのだと思います。なかにはお腹がすくと寝藁まで食べてしまう馬はいるので、そういう馬に対しては人間のコントロールが必要です。好き嫌いがある馬もいるので、サプリメントなどでバランスを取ることもあります。でも、とにかく食べる量が多すぎて、とんでもなく太くなってしまうことは少ないですね。まれにいますけど(笑)。

 パドックなどで見た時、毛艶がピカピカに輝いているような馬は、しっかり食べていてそれがよく消化され、吸収されて体調がいいからということが多いように思います。飼い葉が食べられなくなって、エネルギーが蓄積できていないと、自分の体を寒さから守るために冬毛が伸びることがあるようです。見た目もボサボサした感じなのですが、やはり体調も今一つということが考えられますが、これも一概には言えませんね。

 これは個体差があって、冬毛が伸びている=走らないということではないですよ、念のため。毛艶がいいというのはあくまで馬の体調を見るファクターの一つです。昔にくらべると、栄養価の高いものを与えることが多いので、冬毛が伸びている馬は減ったと思います。

 気をつけているのは水ですね。この季節は、夏にくらべると飲む量は減りますが、脱水症状に陥らないように、適量を飲んでいるかのチェックは必要です。冬はあまり汗をかかないので、水はあまり必要がなさそうです。人間だって涼しいとあまり水分を摂らなくなると思いますが、乾燥しているから喉がカラカラになるでしょう。水分が足りないと便秘の原因になることもあります。馬にとって便秘は病気、命にかかわります。夜は厩舎に人がいなくなりますが、飲みたい時にしっかり飲めるようになっています。

 冬場は、暑さが厳しい夏にはできないようなしっかりした調教ができます。運動をしても汗をあまりかかないし、その後しっかり食べてくれれば体重も維持しやすくなります。トレセンではもちろん、体調が悪くない馬は放牧先でもしっかり鍛えてもらうようなプログラムを考えてもらっています。プロ野球選手が、シーズン前の自主トレやキャンプで体づくりをするのと同じですかね。

 成長の時期というのは人間も馬もそれぞれ違うけれど、冬場の調教の効果がその半年後ぐらいに現われてくるような気がします。秋競馬で放牧から戻ってきた馬に対し「夏を越えて逞しくなった」と言うことがあります。冬場のトレーニングが活きて身になってきているとうれしいですね。

【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。

※週刊ポスト2025年2月7日号

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