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八角理事長が初場所中に語っていた“横綱空位”への危機感 豊昇龍らに叱咤激励「本来は照ノ富士を倒して上がってきてほしかった」

NEWSポストセブン 2025年1月29日 7時15分

 初場所に進退を懸けて臨んだ横綱・照ノ富士は4日目で2敗を喫し、翌日に引退を表明。照ノ富士引退後の角界を担っていくべき大関の琴櫻、大の里、そして初場所で優勝して横綱昇進を決めた豊昇龍に、相撲協会トップの八角理事長(元横綱・北勝海)は何を思うのか──。

 照ノ富士の引退を受け、メディアは一斉に「横綱が『空位』となれば32年ぶり」と報じた。

 前回の「空位」は、まさに八角理事長自身が1992年5月場所で現役を引退したことで生じた。翌年1月場所後に曙が昇進するまで、4場所にわたり横綱不在が続いた。

 本誌・週刊ポスト記者が当時の思いを八角理事長に尋ねると、間髪を入れず「申し訳なかったですよ」と応じた。

「ボロボロになって、“弱い横綱”と言われようとも、最後までやらなければならないと思っていた。どんなことをしても引退しちゃダメだと。誰かが(横綱に)上がってきてから辞めようと思っていたが、体も気持ちももたなかった。辞める前の春巡業では(当時大関の)小錦関から“辞めないでよ”と言われた。グッときたし、“頑張るよ”とは言った。でも、頑張ったけどダメだった」

 膝の故障など満身創痍の照ノ富士が置かれた状況とも重なる。その引退までに大関陣が横綱昇進を果たせなかったことには、「もっと早く(横綱に)上がっていないとダメだよ」と喝を入れた。

「横綱は休場が多かったわけだし、チャンスはいくらでもあった。これまでは横綱が弱くなってくると次の横綱が上がってきたが、それがうまくいっていないよね」

 取材は初場所9日目というタイミングだったが、「3人の大関に頑張ってもらうしかない」と叱咤激励の言葉を続けた。

 昨年11月の九州場所では悲願の初優勝を果たし、綱取りが期待された大関・琴櫻は2日目から5連敗。早々に昇進は絶望的となった。

「琴櫻については隣にいる師匠に聞いてよ」

 そう水を向けられた佐渡ヶ嶽親方(元関脇・琴ノ若)は「見えないプレッシャーでしょうね。本人とも話したんですが、“土俵に上がった時、組んだらこうしないといけないとか思うのに、体が動かないんです”と言っていた」と説明。

 その話を受け、八角理事長はこう指摘した。

「真面目なんだよ。それに大胆さがない。考えないでも体が動くくらい稽古をやらないといけない。やはり、稽古が足りないということ」

 自身の横綱昇進時は「10勝するまで(綱取りは)考えないでおこうと思っていた」のだといい、「そう考えていると結構勝ってしまうんだよね」と振り返るのだった。

 初土俵から所要9場所で大関昇進を果たした大の里については、「まだ上がったばかりの“新弟子”ですからね」と評す。

「この世界に入って1年とか2年でしょう? 本人もワケが分からないまま大関に上がっていると思う。まだまだこの世界に馴染んでないよ。色んな習慣も含めてこの世界に馴染んでくると、相撲内容も変わってくる。

 今は止まらないでずっと圧力をかけてやっているじゃない。“止まる相撲”を見てみたいなと思っている。そういう相撲でも勝っていかないと横綱は難しい。止まらないところも、いいところではあるけどね」

 大の里の進化には師匠である二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)の指導も重要かと問うと、「これは本人の感性だからね」と答えた。

「強引にいって突き落とされることもある。それを恐れると出足がなくなる。難しいところ。相撲の怖さが分からないから勝っていたところもある。九州場所で9番しか勝てなかったのは、横綱に上がるための勉強の場所だったんじゃないか」

立ち合いの「重さ」が必要

 九州場所で準優勝した豊昇龍は9日目で3敗を喫した。星勘定は満足のいくものではないはずだが、八角理事長は「負けたけどいい相撲を取っていますよ」と評価した。

「土俵を見ていると、ただ勝っているというんじゃなくて、強いなという感じがするじゃないですか。そういう相撲を取っていれば、いつか(横綱に)上がれますよ」

 実際、この取材後に白星を重ねて横綱昇進を果たしたわけだが、豊昇龍の課題についてはこう指摘していた。

「もっと立ち合いの重さが必要だよね。頭からいくのと同じ出足があれば、千代の富士さんのように胸から当たっても強い相撲は取れる。今の豊昇龍は頭からいってるじゃない。それは重さがないから。出足があれば胸からいけるようになり、もっと相撲に余裕が出ます」

 取材時点で豊昇龍の昇進については場所が終わってからの話であり審判部の考え次第としながらも、“優勝すれば昇進という話ではない?”という質問には「そりゃそうでしょう」と即答した。

「優勝ラインが下がっての優勝もあるし、たまたま勝ったとか、不戦勝があったとかもある。本来は横綱の照ノ富士を倒して上がってきてほしかった。そういう意味では、照ノ富士には最後まで相撲を取り続けてほしかったね」

 星勘定はもちろんのこと、相撲内容も問われるのが「横綱」だ。来場所以降、琴櫻、大の里、そして豊昇龍は、期待に応える活躍を見せられるか。

※週刊ポスト2025年2月7日号

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