まだまだ寒い日が続く2月は、暖かい部屋で読書に勤しむには絶好の時期。おすすめの新刊4冊を紹介する。
『謎の香りはパン屋から』土屋うさぎ/宝島社/1650円
パン屋でアルバイトをしながら漫画家を目指す大学1年生の小春。約束をドタキャンした由貴子、フランスパンに切り込みを入れるナイフを取り落とす紗都美などバイト仲間や、高校生カップルにまつわる謎を解く。真夏にカレーパンを探す善意の1編にはこちらも汗びっしょり。焼きたてのパンの匂いが「日常の謎」と相性抜群。祝・作家デビューの著者は実際漫画家さんとか。
『歪曲済アイラービュ』住野よる/新潮社/1760円
わ、字がちっこい。読書用眼鏡をかけ頑張って読む。同時接続者2桁の底辺ユーチューバー「こなるんの予言ちゃんねる」。世界の滅亡を前に饒舌に喋り続けるが、突然配信がストップ。その理由は続く10編の中の1編で明らかに(女の襲撃)。最初は仕掛けが見えなかったが、読み終えれば、同時接続者達の物語でも。思考速度に追いつくのに必死。饒舌さにめまいを起こす。
『なぜ今、労働組合なのか 働く場所を整えるために必要なこと』藤崎麻里/朝日新書/1045円
労働組合がどう機能し、どんな課題と展望をもつかなどを海外取材も含めクラスター(葡萄の房)状に構成する。通史としての俯瞰図は見えにくいが、育児休業、カスハラ(悪質な顧客クレーム)防止など労働組合のテーマが社会を変えてきたのは実感する。新卒者の3年以内の退職問題。“嫌ならやめればいいと思っていたが、組合がある”という若者の覚醒は新鮮だと思う。
『三流シェフ』三國清三/幻冬舎文庫/737円
四谷の住宅街で隠れ家レストランにならなかった大繁盛店オテル・ドゥ・ミクニ。歩いていて目に留めた洋館のチャイムを押し、「この家を貸してくれませんか」と直談判したエピソードに驚く。即決断の即実行力で切り拓いてきたフレンチ・シェフの道。あまりの無手勝流に読むワクワクが止まらない。今秋8席のカウンター店を開店予定。また、予約の取れないお店になりそう。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年2月13日号