「ただの動物好きの夫婦。悪巧みして不正に金儲けをしたりするような、そんな人ではないですよ」──そう強調するのは、事情を知る地元住民だ。沖縄本島北部に位置する本部半島の沖合に浮かぶ面積0.47平米の小規模離島「水納島」に波紋が広がったのは、1月23日のことだった。
サンゴ礁に囲まれたのどかな島は、遠く離れた東京からもたらされた事件の一報にざわついた。
〈希少種「ビルマホシガメ」の管理費を詐取容疑 サンシャイン水族館の元館長らを書類送検〉(1月23日付産経ニュースより)
全国紙や民放各社が、こんな見出しで報じたのは絶滅危惧種にも指定されている“希少なカメ”を巡る事件だった。
「警視庁は1月23日、ビルマホシガメの飼育数を国に偽って報告して、管理費を騙し取っていたとして、サンシャイン水族館(東京・池袋)の元館長の男性(60)や現役の副館長ら4人を書類送検しました。
そもそもこれらのカメは密輸されたもので、押収後に国が同水族館に管理を委託していました。しかし、水族館は管理を委託されたカメを沖縄県に住む夫婦に無償譲渡したにもかかわらず、2003年以降もカメを飼育しているものとして国に対して虚偽の報告を続けていました」(警視庁担当記者)
20年以上にもわたり、実際とは異なる飼育数を国に報告していたサンシャイン水族館。「元館長らは譲渡した、本当はまだ生きているカメを年単位で少しずつ死んだことにして、水族館の評判を下げないように飼育数の帳尻を合わせていた」(同前)という。
「2003年以降、サンシャイン水族館が不正に得たカメの管理費用は190万円ほどに上ります。元館長らは『他の動物の飼育費に充てた』などと供述し、容疑を認めています」(同前)
甲羅に星のような文様があるように見えることからその名前が付いたこのカメ。国内での流通には厳しいルールがあるが、インターネット上で違法に売買されることもあり、「安い個体で20万円程度、メスでは50万円を超える個体もある」(都内のペットショップ関係者)という。
そして、このカメの譲渡先として名前が上がったのが、前出の水納島でダイビングショップを営む夫婦だった。
「逮捕された夫婦は、ともに50代で島でダイビングショップを営んでいました。実はこの夫妻の妻のほうが、サンシャイン水族館の元職員でした。かつての勤務先の顔なじみの職員を通じて2003年にカメ10匹を譲り受けたことが事件の発端となったのです」(前出の記者)
渦中のビルマホシガメは、ミャンマーや中国などに生息しており、その美しい文様から乱獲が相次ぎ、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定された。2000年以降には、野生下では絶滅したとされる。
夫婦はどんな目的でこの希少ガメを“囲って”いたのだろうか。
「2人とも希少種であることはわかってはいたんだろうけど、こんな大事になるとは思っていなかったはずですよ」と話すのは前出の地元住民だ。
各社の報道によると、当初は10匹だったカメは夫婦のもとで繁殖を続け、数十匹の“大所帯”になるまで増えていたのだという。
「夫婦がカメを飼っていたことは島のみんなが知っていましたよ。そもそも儲けのためにカメを繁殖させて“横流し”していたのであれば、人目につかないようにこっそり飼っているはずですが、そんな素振りはなかった。
ただカメがかわいくて一生懸命育てていたら、思いがけず繁殖したということなんじゃないでしょうかね。あの夫婦は、アヒルやインコなんかもたくさん飼っていましたから。純粋な動物愛が高じて個体数が増えていったんだと思います」(前出の住民)
この住民によると、夫婦は愛情を注いで育てたカメを知人からの求めに応じて譲渡するなどしていたともいう。
「ただ、お金を取ってどうこうということではありません。譲ってほしいという人にはお金を取らずにカメを託していましたから。事件が発覚した経緯? それはわかりませんが、カメを譲った相手から餌代として4万円を渡された、と言っていたことがありましたね。とはいえ、それも『向こうから渡してきた』と言っていましたから、カメで荒稼ぎしてた、なんてことはないと思いますよ。むしろ餌代やなんやらで儲けなんてなかったはずです」(同前)
今回、事件を摘発したのは、警視庁・生活環境課内にある希少な野生動植物の密輸や密売、密猟などの捜査を担当する係だとみられる。この係は、女優の橋本環奈主演でドラマ化もされた「警視庁いきもの係」のモデルになったことでも知られる。
「いわゆる『いきもの係』を含む生活環境課は、啓発の目的もあり、メディア受けしそうな事件を多く扱う部署でもある。もちろん逮捕の罪名となった『種の保存法違反』は、罰則として懲役5年以下、500万円の罰金が科される重罪です。まして、希少動物の保護を率先して範を示すべき水族館関係者が関与していたのは看過できません。ただ、さまざまな条件が重なったためにこれほど大きく報じられてしまったという面もあるような気がします」(前出・警視庁担当記者)
行き過ぎた「動物愛」がもたらす代償は大きかったようだ。