1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、デビュー戦「出走」についてお届けする。
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1月13日、中京競馬場で管理する3歳牝馬プリムツァールがデビューしました。
この馬は当初、昨年12月22日の中山競馬場芝1600mでデビューさせたいと思っていました。しかし、フルゲート16頭のところに40頭ほどが出走を表明。こういうレースでは、まず出馬投票してきた馬を一斉に抽選して5頭の出走が決定するのですが、プリムツァールは当選せず。それ以外の出走枠は前の週以前に出馬投票をしたのに除外になった馬が優先。該当する馬が15頭ほどもいたので、最初の抽選に当たらない限り出走はかないません。デビュー予定を今年1月6日の中山芝1600mに変更しました。
ところがこのレースでは出走表明馬はさらに増えて50頭近く。プリムツァールは1度除外されましたが、他にも除外された馬が20頭ほど。さらにその中に2度除外された馬もいて、一斉抽選の次はそちらが優先。次の1度除外された馬同士の抽選でも外れてしまいました。
さらに1週延ばすことになりましたが、この週中山には芝1600mの新馬戦が組まれておらず、中京でのデビューになりました。すでに2度除外されていたので、出走できるとわかっていましたし、輸送も問題ないだろうという判断でした。
レースでは好位で折り合いをつけ、直線では外に出して理想的な伸びでしたが、内にいた勝ち馬にあと1歩及ばず2着でした。もちろん除外されることを想定して調整していましたが、一斉抽選で当たった時のことも考えておかなければならない。そういう意味で、微妙に2度除外された影響があったかもしれません。この時期の新馬戦の難しいところです。
デビューに向けては万全の態勢を整えますが、なかなか早い時期には仕上がらない馬もいます。それでもいつまでも待っているわけにはいきません。多くの馬は3歳春のクラシックへの参戦が目標。そのことを考えるとこの時期までにはデビューさせたいところです。しかも賞金が未勝利戦よりも高額な新馬戦が行なわれるのは2月いっぱい。「新馬勝ち」というのはやはり馬にとって勲章です。
ただし、ここまで新馬戦に出走するハードルが高いと、今後は未勝利戦でデビューさせることも多くなります。こちらはまず前走で5着以内に入った馬、その次に未出走馬に優先出走権が与えられます。「経験馬相手では厳しい」と言われますが、競馬場の雰囲気やゲートの出、レースでの馬込みの捌き方などは経験が生きるかもしれないけれど、考え方を変えれば、レースでの経験を積むことや、仕上がり過ぎにならないようにするなど悪い面ばかりではないかと思いますし、能力があれば克服することもできます。今年から初出走で未勝利戦に勝つと、新馬戦と同じ賞金になったのも魅力のひとつですね。
蛯名厩舎でも1月25、26日に未勝利戦で3頭をデビューさせました。そのうちの1頭ラブリージャブリーは中団につけて流れに乗り、直線では大外に出して、1番人気馬に競り勝ってくれました。着差以上に強い競馬で、これからが楽しみです。
【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー?2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。
※週刊ポスト2025年2月14・21日号