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横綱昇進・豊昇龍の素顔 親方は「素直でいい子ですよ。暴力とかは全くないからね」、叔父・朝青龍と距離を置く時期もあった

NEWSポストセブン 2025年2月6日 11時15分

 横綱昇進を果たした豊昇龍だが、これまでは常に「朝青龍の甥」と見られてきた。圧倒的な強さを誇る横綱でありながら“問題児”として角界を去った叔父の存在を乗り越えたからこそ、今の豊昇龍があるはずだ。

 どんなことがあっても力強く立ち向かう──豊昇龍は伝達式の口上で使った「気魄一閃」という言葉に、そんな意味を込めたとしている。初土俵から42場所での横綱昇進は年6場所制のもとで史上6番目の早さだが、道のりは平坦ではなかった。

「豊昇龍の父は5人兄妹の長男で、四男が朝青龍です。豊昇龍は11歳でレスリングを始めてモンゴルの県大会でも優勝。朝青龍の紹介で日体大柏高にレスリング留学した。その後、国技館での相撲観戦をきっかけに相撲部に転部。高3ではインターハイ個人準優勝する実力になった」(担当記者)

 高校卒業後の2017年に立浪部屋に入門した経緯を立浪親方(元小結・旭豊)はこう明かす。

「朝青龍とは親交があったので、甥が相撲留学していることは聞いていた。それで地方大会を見に行った時に声を掛けたんです。朝青龍が背中を押してくれたこともあったが、潜在能力は抜群だった。入門前から朝青龍が“こいつは大関、横綱になれるから”と言っていたが、そのDNAは間違いなかったですね」

 複雑なのは幕内優勝25回を誇る叔父の朝青龍が、トラブルで廃業していることだ。2010年初場所で優勝しながら、場所中に飲酒暴行事件を起こしていたことが発覚。引退を余儀なくされた。土俵でのガッツポーズなどで「横綱の品格」も問われた。

 そうした言動まで叔父に似るのではないかという懸念がついて回った。

 ただ、立浪親方にその懸念をぶつけた際は「勝気な性格は叔父譲りかもしれないが、あくまでも土俵上でのこと。素直でいい子ですよ。暴力とかは全くないからね」と応じていた。立浪部屋に、兄弟子たちが後輩の言動に目を光らせる土壌があったことも大きいだろう。

「週刊ポスト」記者は豊昇龍が初土俵を踏む直前の2017年11月、九州場所の立浪部屋宿舎で稽古まわし姿を見ている。現在は148kgあるが、当時はまだ107kg。プロの激しい稽古に参加できず土俵の外の板壁に背をくっつけて立っている、角界で“かまぼこ”と呼ばれる状態だったが、ちゃんこ場では先輩の明生らへの給仕係を黙々とこなしていた。

「豊昇龍が叔父の影響を受けているのは間違いなく、気合が入った一番では朝青龍が塩を取りにいく時に見せたまわしを叩く気合入れパフォーマンスを真似たりするが、一方で振る舞いは叔父の現役時代を反面教師にしているところもある。外出先で酒を飲まないというのもそのひとつでしょう」(ベテラン記者)

 初土俵から11場所で十両に昇進し、2023年7月場所では初優勝を果たして大関に昇進する。

 昇進後の本誌インタビューで朝青龍が大関を3場所で通過したことを聞くと「みんなすぐに叔父さんと比べるけど、正直嬉しくはないよね」として、こう続けた。

「オレはオレだし、叔父さんはすごい人。比べられる立場にないからね。過去、大関になったのは254人いるが、さらに上の横綱へ昇進できたのは73人だけ。そんな横綱で叔父さんは25回も優勝している。自分と比べるのはまだまだ早いよ。

 ただ、叔父さんからは“次は横綱だな”とプレッシャーをかけられているけどね(苦笑)」

「恩返しができたかな」

 その心中は複雑だったのかもしれない。出世街道を歩むなかで、朝青龍と距離を置く時期もあったのだという。

「もともと朝青龍からトレーニングについてアドバイスを受けていたが、筋トレを重視する豊昇龍との意見の食い違いなどちょっとした考え方の不一致で連絡を取らずに疎遠になった時期があったそうです。初場所で豊昇龍と優勝を争ったカザフスタン出身の金峰山は朝青龍が来日を手引きしましたが、場所中に朝青龍は金峰山のほうに激励の電話を入れていました」(前出・ベテラン記者)

 叔父との関係性も様々な変遷を辿った。それでも、伝達式後の会見では報告の電話を入れたことを明かし、「自分を入門させてくれて、恩返しできたかな」と述べている。

 もちろん、横綱としての真価が問われるのはこれからだ。

 九州場所で13勝の準優勝、初場所は12勝で巴戦の末の優勝での昇進。5日目にひとり横綱の照ノ富士が引退したことと無関係ではないだろう。

「横綱昇進のための臨時理事会招集を要請するのは審判部の判断になるが、審判部の現場からは相手を睨みつける土俵態度やムラがある成績を心配する声があがっていた。それでも高田川審判部長(元関脇・安芸乃島)ら幹部に対応が一任され、八角理事長(元横綱・北勝海)に臨時理事会の開催を要請した。興行の目玉である横綱の空位を避けたい執行部が昇進の意向であることを踏まえた判断とされます」(相撲担当記者)

 横綱として叔父を超える実力と品格を見せられるか、豊昇龍の戦いは次のステージへと移った。

※週刊ポスト2025年2月14・21日号

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