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【万博まで約2か月・現地ルポ】路上喫煙禁止条例施行の大阪市「喫煙可能な場所を300か所確保」方針で大騒動 「本当にここに必要か?」「鍵が開かない」…問題が続々噴出

NEWSポストセブン 2025年2月10日 7時15分

 1月27日、大阪市で「路上喫煙禁止条例」が施行された。4月の大阪・関西万博の開幕をにらんだ施策で、市は条例施行までに喫煙所の整備を進めてきたが、現場では様々な問題が噴出していた。

 条例施行に先立つ1月24日、横山英幸市長は定例会見で、「喫煙可能な場所を1月27日時点で約300か所確保いたしております」と胸を張った。

 もともと大阪市では御堂筋など6つのエリアが路上喫煙禁止で、それが市内全域に拡大された。違反した場合は過料1000円が徴収される。大阪・関西万博に向けて“クリーンな都市”を打ち出す狙いとされる。

 横山市長が「約300か所を確保」とする内訳は「指定喫煙所」と「情報提供喫煙所」に大別される。指定喫煙所は市が設置・運営するものと民間業者が整備費の補助を受けるなどして運営するものがあり、情報提供喫煙所は条件を満たした飲食店や商業施設を指す。

 だが、現地取材では問題点が浮き彫りになった。

 まず、「本当にここに必要か?」と疑問を感じる指定喫煙所の存在だ。

 旧淀川の河川敷で9.5ヘクタールという広大な敷地の城北公園(旭区)。その一角の公衆トイレ横に、貨物コンテナのような喫煙ブースが設置されている。室内はエアコンが稼働し、灰皿が2つ。

 立派な設備だが、平日の昼間は人の往来がほとんどない──昼過ぎにブース内を確認すると、灰皿に吸い殻が3本あるのみ。約1時間、現地で観察を続けても使用者は1人も確認できなかった。

 公園のベンチに座っていた初老男性はこう話す。

「土日は家族連れも見るけど、それでも閑散とした公園ですよ。朝6時からのラジオ体操は50人ほど集まるけど、喫煙所が開くのは朝7時から。利用価値がなくて、みんな空き缶が置かれたベンチで吸ってますよ」

 生野区の桃谷公園など他にも同様の事例がある。

“数字稼ぎ”の疑念

 一方、乗降客の多い駅周辺など、喫煙所が必要と考えられる場所では整備が進んでいない。

 典型例が中央区の地下鉄「谷町四丁目」駅だ。谷町線と中央線が乗り入れる同駅は、1日の乗降者数が約9万1000人。9号出入り口からすぐのNHK大阪放送局内には地域の歴史を再現した博物館があり外国人観光客も多い。

 9号出入り口前の歴史博物館前広場を施行直前に訪れると、ベンチに座る数人の会社員グループがいずれもタバコを吸っている。ベンチの下には20本以上の吸い殻が散乱していた。喫煙中の男性は「喫煙所があればそこで吸うんだけどね……新しい条例だと、ここでもダメになるの?」と口にした。施行後はこの広場での喫煙も1000円の過料徴収の対象となる。

 こうした“ミスマッチ”の多発について大阪市環境局事業部事業管理課の路上喫煙対策担当にぶつけると、こう説明した。

「設置にあたり、地元に精通する各区役所にお願いして(場所の)選定をしていただいた。どうしても公用地で建てられる場所が少なく、住宅地の設置も地元の反対でなかなか難しい。基本的に駅前など人が多いところを選ぶ基準がありますが、必ずしもそうできていない可能性はあります。

(谷町四丁目の駅前など)路上喫煙やポイ捨てが多い場所に置けたらベストなんですが、様々な事情がある。あの周辺は史跡の関係があって簡単にはつくれないんです」

 一方、民間業者の指定喫煙所で目立つのが「パチンコ店」だ。北区では市のホームページに記載された指定喫煙所31か所のうち12か所がパチンコ店の店内にある。

 リストによれば新御堂筋の高架横にある同じビルに6つも指定喫煙所がある。現地を訪れると、そのうち5か所は遊戯台のあるフロアに行かないと使えない。店舗から出てきた男性は、「市はタバコのついでにパチンコも打ってほしいんかな」と笑ったが、1月中旬時点で市のHPに載る指定喫煙所のうち、ざっと約120か所がパチンコ店内だ。これは“数字稼ぎ”ではないのか。

 前出の市の担当者は当初目標とした140か所の設置をクリアしたと強調。全体の半数近くがパチンコ店内のものだと問うと「パチンコ店の喫煙所は目標の140か所(達成のカウント)に含めていません」と説明した。

 パチンコをしない喫煙者にとってわざわざ入るのは煩わしいはずだが、一応、誰でも利用可能ではある。さらに問題なのは、“入れない指定喫煙所”が存在することだ。

 東成区のある指定喫煙所は、月~金曜の10~18時に使用できると市のHPに記載があるが、条例がスタートした1月27日に訪れるとドアが施錠されて部屋の中は真っ暗。入り口にはスマホからメールアドレスを登録して解錠する手順が貼り出されているものの、その通りにやっても途中でエラーが表示されてしまう。

 市の補助を受けながら使用できない状態であれば、不正受給の疑念さえ浮上する。前出の市の担当者に問うとこう答えた。

「利用時間内に使えないといった苦情が入れば、申請者には声をかけます。(民間の指定喫煙所は)整備に上限1000万円の補助金が出る。鍵がかかって使えないのは問題。すぐ調査して注意します」

 整備したとアピールする喫煙所のチェックが後回しになっていることを窺わせる事例だ。市は条例施行後の実態は今後、検証するとしたが、2月市議会で令和7年度予算を確保しなければ、速やかな追加整備は難しい。

「予算の話はできないが、まずは検証。喫煙所がもっと必要という結論が出れば、整備を進める。周知広報が必要ならそれをやる。喫煙所を増やすことありきではなく、路上喫煙をなくす対策を考えることになる」(同前)

 横山市長は会見で「喫煙者と非喫煙者が共存できる環境整備に取り組む」としたが、その言葉通りになるのか、注視する必要がありそうだ。

※週刊ポスト2025年2月14・21日号

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