東京・秋葉原にあるパソコンショップに大行列ができ、幼稚園や雑居ビルが並ぶ道路は人で埋め尽くされていた。注目の新製品目当てで集まった人たちだったが、店舗側が行列の統制を取れず、現場は大混乱に──。
1月30日の午後3時ごろ、「パソコン工房 秋葉原パーツ館」に集まった人だかりは300~400人。近くで働く30代の男性は「行列ができることはあっても、ここまで人が集まったのは初めて見ました。大きな声で怒鳴り合う人もいました」と振り返る。列の先頭が動き始めると、人の波は大きなうねりとなり、列から押し出された人は近接する千代田区立幼稚園のフェンスに挟まれて身動きが取れなくなっていたという。
集まった人の目当ては、世界的な半導体メーカー「NVIDIA」の最新技術を盛り込んだGPU「RTX5090/5080」。グラフィックボードと呼ばれる、ディスプレイに映像を出力するためのパーツだ。「パソコン工房」での販売価格は、高いモデルで48万~50万円、廉価版でも20万~25万円だという。
30日午後11時に販売解禁となるため、店舗前では同日午後3時からその購入者を決める抽選を実施。RTX5090の在庫10台に対して、先着で100枚の抽選券を配ることにした。しかし、販売前から購入希望者が殺到。想定の3~4倍となる人数が集まったのだ。
店舗関係者は「午後3時までは並ばないようにスタッフ総出でアナウンスしていましたが、次々に人が集まってきてしまい……。9割は外国の方とみられる人でした」と振り返る。午後4時からはRTX5080の抽選を予定していたが、抽選券の配布は急遽中止に。同様の商品はフリマアプリなどで約70万円で出品されている例があり、「判断は難しいが転売目的のいわゆる“転売ヤー”とみられる人も一定数いた」(同前)というのだ。
幼稚園に“不法侵入”まで。壊れた看板は「店側が弁償」に
騒動はそれだけに留まらなかった。別の目撃者は言う。
「人の波に押されて幼稚園のフェンスがゆがんでいました。人混みから抜け出そうと思ったのか、一人の男性がそのフェンスを登り始めちゃって。慌てた幼稚園の職員が“さすまた”を手にして、男性に近づき、園内から出てもらうよう誘導していました」
さらに、幼稚園の看板が半分に折られるなど、混乱が広がった。
千代田区長の樋口高顕氏は今回の事案を受け、Xで「不審者侵入時の訓練通り、園の職員複数名でことにあたり、出口まで誘導、(侵入者は)速やかに退出されています」と投稿。看板についても店側が弁償することになったという。幼稚園側に確認すると、千代田区教育委員会から「区長の公にしている内容がすべてです」と回答があった。
「パソコン工房」を運営するユニットコム(大阪市)は2月3日、ホームページを更新。当日の店頭での抽選販売については〈「新商品発売のお祝いならびに盛り上がり」を目的として、電脳街聖地である秋葉原のリアル店舗にて販売する〉というものだったが、見積もりが甘かったために騒動を招いたとの認識を示した。そのうえで、〈全社を挙げて信頼回復に努めてまいる所存です。誠に申し訳ございません〉と謝罪した。
〈電脳街聖地〉ならではの盛り上がり、では済まない騒動となってしまった。