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《中居正広引退騒動を過熱させたSNS社会》タレントたちの「中居さんはいい人」主張も誹謗中傷の材料に 加害者にならないためにどうすべきか

NEWSポストセブン 2025年2月6日 16時15分

 今芸能界といえば、元SMAPの中居正広の引退とそれに関連したフジテレビを巻き込む女性トラブルの話題一色だ。SNSにはさまざまな情報が飛び交っている。芸能界を含む社会の闇が暴かれる一方で、匿名性によるマイナスの影響も大きいSNS。有名人批評などに定評のあるライター・仁科友里さんが中居引退騒動をふまえて、誹謗中傷の被害者が生まれる理由と誹謗中傷する側にならないための心得について提唱する。

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 性的トラブルに関して、被害者に誹謗中傷がなされるケースは後をたちません。そこで、今回はSNS社会と性的トラブルについて考えてみたいと思います。

被害女性に根拠のない批判

 まず、ひとつめの理由として考えられるのが、性的トラブルのニュースをうけとめるこちら側の法的な知識にバラつきがあるからではないでしょうか。昨年12月19日発売『女性セブン』によると、中居さんと被害を受けた女性との間で示談が成立し、解決金として9000万を支払ったそうだと報じられました。中居さんの代理人によると、すでに解決しているとトラブルを認めたものの、守秘義務があるので詳細は明かせないこと、被害を受けた女性に対して過度の取材をしないなどの配慮を求めています。これを受けて、女性に対して寄せられたのが「大金をせしめたあげく、守秘義務違反をしてバラした」とまるで被害女性がお金目当てで計画的に中居さんを陥れたという書き込みが見受けられたのでした。また、今年の1月に中居さんが引退したこともあって「示談金を払ったのに、なぜ引退しなければいけなかったのか」と、中居さんの払い損であるかのように解釈している人もいました。

 多くの専門家が、示談とは当事者間の契約であり、被害者の口から事件を漏らされる心配がなくなるものの、示談の前に経緯を聞いていた家族や友人などの関係者を拘束するものではないと解説しています。つまり、示談したからといって「すべてチャラになる」わけではありませんし、被害者の女性は守秘義務に違反していないと言えるわけです。

誹謗中傷とSNS社会

 法律の知識がないが故に被害者を叩いていた人は、専門家の解説を読めば誹謗中傷をやめるでしょう。しかし、やめられない人もいるのです。誹謗中傷をする人にとって、好都合な環境がSNSです。SNSでは自分と似た属性の人や同じ考えの人をフォローすることが多いため、自分と同じ考えばかりが集まり、自分の思考が正当化されていくエコーチェンバー現象が起きやすいと言われています。ですから、「大金をせしめ、守秘義務違反をした」と思う人には、上述したような正しい法律の知識は届かず、同じように「守秘義務違反だ!金をもらった後にバラしたのだ!」という意見ばかりが集まります。そのため、ますます自説に自信を持ち、自分に都合のいい情報だけを信じてしまうのではないでしょうか。

 また、Yahoo!ニュースを見ていて思うのですが、コメントを読んでいると、記事とまるで関係ない話をしていたり、記事に書いてあることを理解していない人が多いことに気づかされます。これはどういうことかというと、記事の内容をろくすっぽ読まずに、タイトルだけで見て、自分の言いたいことを書く人が増えているということだと思います。そういう「面倒くさいから読みたくないけど、書きたい(何か言いたい)人」にとって最高のトピックとは、人気芸能人たちの発言だと思うのです。

芸能界からは中居を擁護する声も

 山里亮太さんは1月24日放送「DayDay.」(日本テレビ系)において、中居さん引退のニュースに触れ、「こうやって、人が人生を終わらせられるっていうのは、すごく怖いことなだって言う風に思っていて」と週刊誌報道により、中居さんの芸能人人生が「終わらせられた」ことに納得がいっていないようです。中居さんはトラブルについて当初から認めていましたし、引退も中居さんが決めたことですから、「週刊誌のせい」とは言い切れないと私は思いますが、加えて「僕が世話になった中居さん、僕が見てきた中居さんだけで言うと、そのコメントの中にある『全責任を背負う』っていう言葉、ほんとに我々はいろんなところでその姿を見てきた身としては(後略)」と、責任感の強かった中居さんに思いを馳せたのでした。

 1月26日放送「上沼・高田のクギヅケ!」(読売テレビ)に出演したタレント・ゆきぽよさんも中居さんとの共演を振り返り、「私も中居さんとバラエティーで何度か共演させていただいたんですけど。私の知ってる中居さんは、すごい紳士的で私とか演者さんだけじゃなくって、私のヘアメイクさん、スタイリストさん、マネージャーさん、全員スタッフ1人1人に分け隔てなく気配りしてくれる人だったから」「高級お寿司。うにとかいくらとか入ったお寿司を、演者だけじゃなくスタッフ全員分、差し入れしてくれて」と、中居さんの豪快かつ綿密な気配りを明かしていました。

 責任感が強く、スターでありながら下の人にも気配りを忘れないというのは、典型的スター像と言えますし、後輩に尊敬されていたことがよくわかります。しかし、私は「中居さんはいい人だった」というエピソードが流布されることで、被害者である女性への誹謗中傷が再燃する可能性があることを危惧するのです。「いい人だったのに、もう見られない。被害女性のせいだ」と暴走する人が絶対に出てこないとは言い切れないからです。もちろん、それらの発言を元に誹謗中傷をする人が悪いわけで、中居さんへの思いを語るタレント側に非はありません。

 私たちは自分の目で見て物事を判断していると思っていますが、実は多くのバイアス(思い込み)を持っています。そのうちの一つが“権威バイアス”と呼ばれるもので、これは権威あるものを無条件に「正しい」と高評価してしまうことを指します。

 具体例を挙げると、肩書や権威のある人の発言は100%正しいと思いこんでしまったり、人気芸能人が宣伝する商品を高く評価してしまうことを言うそうです。ですから、大スターである中居さんと、顔を出せない被害女性を比べると、明らかに女性のほうが分が悪いと言えるでしょう。女性に対し「たんまり示談金をもらったんだから、むしろトクした」と被害を矮小化して叩いている人もいますが、こういう人は「強い人に弱い自分」がいないか考えてみてほしいところです。なぜなら、一般的に性加害の多くは立場の強い人が弱い人にするもので、このバイアスの強さが性加害もしくは被害の遠因となる可能性があるからです。

「ウソをついたら、終わり」

 #MeToo運動に見られるように性被害の問題を打ち明け、連帯することができるようになったのは、SNSのおかげです。その一方で、被害者をさらに追い詰める誹謗中傷がなされていることも事実です。

 それでは、私たちはどうすべきなのか。その答えは、当時NMB48のメンバーだった渋谷凪咲さんの至言にあるような気がします。2021年9月11日放送「令和の正解リアクション」(TBS系)に出演した渋谷さんは「令和の時代にウソついたら、終わりです」とリアクションの極意を語っていました。これに尽きると思うのです。

 正しいと胸を張って言えること、はっきりしないことをSNSに書かない。誰のウソも暴かれる時代ということを忘れてはいけません。多くの泣き寝入りを強いられたであろう女性のためにも、SNSは慎重に使いたいところです。

◇仁科友里/フリーライター。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ』(主婦と生活社)。

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