2023年7月、札幌市・ススキノのホテルで頭部を切断された男性の遺体が発見された事件。逮捕された親子3人のうち、殺人ほう助や死体損壊ほう助などの罪に問われている父・田村修被告(61)の裁判員裁判が、1月14日から札幌地裁で行われている。
1月29日、30日の公判には、死体損壊ほう助などの罪に問われている母・田村浩子被告(62)も証人として出廷し、弁護側の尋問に答えた。語られた家族関係、事件の様子は、想像を大きく超える壮絶なものであった。ライターの普通氏が、浩子被告の主張を振り返りレポートする。【前後編の前編】
呼び慣れた口調で「シンシアさん」
娘の田村瑠奈被告(30)は小学生のころは友人はいたものの、保健室登校をするなど徐々に不登校になっていた。その後はフリースクールに通うなどしたが、18歳のころには家に引きこもってしまい、外出は親の付き添いなしにはできなくなった。
昨年より行なわれている浩子被告の公判でも度々、検察側は親子関係について「瑠奈ファースト」と表現。報道でもこの言葉が多用され、両親とも娘に絶対的に逆らえない関係性であった印象が広まっている。
浩子被告は今回の尋問で、「(しつけは)普通にしていたと思う」、「人に迷惑かけないよう注意していた」などと明かしている。しかし、瑠奈被告が不登校になって以降、どのように接し、関わってきたかは詳細には語られなかった。
瑠奈被告が18歳のときに、この一家に大きな転機が訪れる。瑠奈被告が「田村瑠奈は死んだ。魂はない。身体は私だが入っているのはシンシア、ルルーだ」と、自身に複数の人格があることを主張をしたのだ。これを受けて両親は、その時々の人格の呼び名を間違えないよう瑠奈被告を「お嬢さん」と呼ぶことに。こうした家族の異常性が傍聴席にも伝わる場面があった。
弁護人「異なる人格は、名前だけが違うのですか? 他に違うものがありますか」
浩子被告「口調や態度も少しずつ違います」
弁護人「“シンシア”という人格の特徴を教えてください」
浩子被告「“シンシアさん”はリーダー的存在で……」
一人娘に宿っているという別の人格に、呼び慣れた口調で「さん」づけで話す浩子被告。18歳から12年間、これらの人格とどのように接してきたのか、母親に染みついた“感覚”に思わず身震いした。
浩子被告「夫(修被告)が精神科医なので、よほどなら病院に連れて行くだろうと。日常生活には支障がなかったので、何か対応が悪ければ言われると思っていた」
しかし、その後の証言から、決して支障がないとは思えない一家の日常が明らかになる。
浩子被告が法廷で流した“涙”
事件当時、昼夜逆転の生活を送っていた瑠奈被告。一人で外出できないため、深夜であっても修被告が瑠奈被告の望む場所に車で向かった。修被告は、昼は精神科医として働くなかでの“付き添い”だったが、引きこもりが続いた瑠奈被告の前向きな行動として浩子被告は「仕方ない」と思っていたという。
瑠奈被告は所有物への異常な執着を見せていた。瑠奈被告の物に少しでも触れると怒られるため、家は物で溢れゴミ屋敷のように。浩子被告のスペースは自身の寝床が僅かに確保されているだけで、修被告のスペースはなく毎晩ネットカフェなどを使用していた。
平均10万円ほどするドールを100体以上集めており、そのほか、神様を祀る儀式用ナイフ、ドールの撮影用ボードを作成するベニヤ板とそれを切断するノコギリなど多数購入していた。これは事件に使われたエタノールや刃物類にあらかじめ馴染みがあり(エタノールはドールのメンテナンス用)、購入は事件の手助けでないとする修被告側の主張に繋がっている。
そして、瑠奈被告は過去に2度自殺未遂を行っていたという。16歳、18歳になる誕生日の前日のことだった。それ以外でも毎年のように、誕生日を迎えたくないとわめき、身体に傷をつけていたという。誕生日の前日以外にも、首筋、腕など自傷行為を行っていたとされる瑠奈被告。当時を振り返る証言の中で、浩子被告から思わず感情が溢れた。
浩子被告「他によく切っていたのは……(言葉に詰まり、少し涙声になりながら)口の端から耳にかけて傷をつけていました」
異様すぎる事件ながら、その証言全体の中で言葉を詰まらせる機会はほぼなかった浩子被告。愛する一人娘の顔を自ら傷つける様子を涙ながらに語る姿は、傍からは異常と思える生活を続ける中でも、親としての愛情を感じずにはいられなかった。
娘についての夫婦の「不穏なLINEやり取り」
2023年5月28日、浩子被告は修被告から、瑠奈被告がクラブで意気投合した男性とカラオケに行ったとの連絡を受けた。それに対し、浩子被告は「すごい」と返信。普段引きこもっている瑠奈被告が、行動を起こしたことに「画期的だ」と感じたという。この男性こそ、この事件の被害者であった。
当初は喜んでいた浩子被告であったが、家に帰った瑠奈被告から聞かされた話に愕然とする。連れて行かれたのはホテルで、経験がなかった瑠奈被告は逃げ方もわからず、結局初めての性行為を了承した。しかし、数度の性行為の中で、約束していた避妊具が装着されなかったことがあり、レイプされた思いであることを聞かされた(父・修被告は昨年10月の公判で、この日の娘について「おそらくそう(初体験)だと思う」と供述している)。
その後、一週間ほどで瑠奈被告は被害者を探すと言い始める。しかしそのころには、当日の怒りはなく、避妊具をしなかったことへの謝罪を求めるのと、次は自分が主導でSMプレイをしたいとの思いに変化したのだという。
そして再会した被害者に、瑠奈被告は手をかけたのであった——後編記事では、事件当日の瑠奈被告の様子や、自宅の浴室で起きていた出来事について詳報する。
(後編につづく)
◆取材・文/普通(ライター)