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《驚異の出生率2.95》岡山の小さな町で次々と子どもが産まれる秘密 経済支援だけではない「究極の少子化対策」とは

NEWSポストセブン 2025年2月8日 11時13分

 日本はこのまま“消滅”への一途を辿り続けるのだろうか──2024年の日本人の出生数が、70万人を下回る見込みだ。この値は2046年に達すると予測されていたものであり、想定を20年以上も上回るハイスピードで少子化が進行していることになる。民間の有識者グループ「人口戦略会議」 が公表したレポートによると、2050年までに20代から30代の女性が半減し、最終的には“消滅”する可能性があるとした自治体は全体の4割にあたる744にのぼるとされる。

 全国の自治体が存亡をかけ、頭を悩ませている。しかしそんな中で“希望の星”として、ある小さな町が注目を集めている。岡山県の北東部、鳥取県との県境にある「奈義町」だ。

 この町の2019年の出生率は2.95。2019年の全国平均が1.36であることを考えれば、驚異的な値である。2022年には2.21に減少したものの、同年の全国平均1.26と比べると、圧倒的に高い水準を維持し続けている。どうして、この町ではこれほど多くの子どもが生まれるのか。その秘密を探るため、NEWSポストセブン取材班は奈義町を訪れた。【前後編の前編】

人口5560人の町が選んだ道

 奈義町は人口5560人、世帯数2438世帯の小さな町だ。周囲を山々に囲まれ、のどかな田園風景が広がる。この町も長年、人口減少の危機にさらされてきた。近隣で写真館を営む男性が語る。

「写真館を営んで49年になりますが、開業当初から人口減少を肌で感じていました。子どもが減れば、小学校の卒業アルバムを作ることもできなくなる。他の地域では、後継者不足や客の減少で店を畳んだ写真館もあります。数年前まで、この町も人口減少におびえていました」

 そんな流れを変えるきっかけになったのが、2012年に町が打ち出した「子育て応援宣言」だ。奈義町情報企画課の井戸課長が語る。

「奈義町は2002年、全国的に進められた『平成の大合併』の流れの中で、住民投票を実施し、その結果、『他の地域と合併しない』という決断を下しました。しかし独立した町として生き残るためには、人口を維持しなければなりません。

 子どもが生まれなければ、町は消滅してしまいます。スーパーも病院もなくなり、高齢者にとっても住みにくい場所になってしまう。だからこそ、町全体で子どもを育てる環境をつくろうと決めたのです」

 その取り組みは徐々に効果を発揮し、いまや奈義町は国内で数少ない、高出生率を誇る自治体となった。前出の写真館店主はこう言って微笑んだ。

「2024年には、3つの幼稚園と保育園を統合した『なぎっ子こども園』ができました。通っている園児はなんと200人もいるんですよ。だから行事などでの撮影機会もたくさんあります。ここ数年は町の人口減少が止まり、横ばいになっている印象です。町の政策には本当に感謝しています」

大充実の子育て支援の全貌

 奈義町が実施する子育て支援は、他の自治体とは一線を画している。

《在宅育児支援として、月額15000円を支給》《町内の子ども園・小中学校の給食費を完全無償化》《小中学校の教育教材費の無償化》《高校生には年額24万円を3年間支給》

 こうした経済的な支援策が、子育て世代の負担を大きく軽減しているのは間違いない。しかし奈義町が力を入れているのは、経済支援だけに留まらない。

「お金の支援だけでは、ママさんは2人目、3人目を産もうとは思わないんです。大切なのは、精神的な支え。子育てで孤独を感じさせないことなんです」

 そう語るのは、産前から就学前くらいまでの子育てを支援する町営施設『なぎチャイルドホーム』の職員だ。同施設は親子が自由に集える場。ここで親同士が交流し、情報交換をしながら、育児の悩みを分かち合うことができるのだ。

 2児の母である利用者が口を開く。

「家にずっといると、どうしても孤独を感じてしまう。でもここに来れば、ママ友ができるし、子どもも同年代の友達と遊べるんです。週に5回通うこともあるくらい(笑)。ここでの交流が、私にとっても子どもにとっても、大きな支えになっています」

 経済的支援に加えて、子育てしやすい環境づくりを行うことが、2人目、3人目の誕生につながり、高い出生率の要因となっていようだ。

 これらの取り組みは全国的に注目され、日本全国からの行政視察が絶えない。2023年には当時の岸田元首相も視察に訪れている。

 全国的にも注目を集める奈義町の子育て支援だが、これらを整備する財源はどう確保しているのか。そして未来への展望は──。

(後編に続く)

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