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《事故物件のリアル》「変色した血痕、体毛の塊…犬たちが死に物狂いで争った痕跡」ブリーダーの部屋で起きた“凄惨すぎる事件”

NEWSポストセブン 2025年2月12日 16時13分

「事故物件」──前居住者の不自然な死や、特殊清掃が必要になった死亡事故などが発生した賃貸物件は、賃貸不動産管理業界において珍しくない。その判断基準は明確には定められていないが、なかには死亡事故以外の“特殊な事案”により、物件の所有者が自主的に貸し出しを止めるケースもあるという。

 そうした“いわくつき”の物件を多数見てきたのは、賃貸不動産管理会社に15年間勤務した児玉和俊氏。著書『告知事項あり。その事故物件で起きること』(イマジカインフォス)では驚くべき実体験を綴っている。本記事では4階建マンションのオーナー・石嶺さんが所有する物件の地下室に、犬専門のブリーダーが入居した時の“ある事件”を振り返る。

 起業して奮闘していたブリーダーだったが、徐々に家賃を滞納するように。滞納が3か月を超えると、訴訟を見越した督促をしなくてはならない。連絡すると滞納の3か月分を約束通り払ってくれ、次の3か月間も問題はなかった。しかしその裏で部屋に起きていた「異変」とは──。同書より一部抜粋してお届けする。【前後編の前編】

* * *

 しかし4か月目。状況が一変します。また滞納が始まったのです。そして最悪なことにブリーダーさんとの連絡が一切取れなくなりました。嫌な予感がします。私は物件の地下室に向かう途中で石嶺さんと合流します。

「いつから連絡が取れなくなったの?」

 石嶺さんからの質問です。

「ブリーダーさんに連絡がつかないことがわかったのは今日です。連絡自体ここ数か月間取っていません。家賃も普通に振り込まれていたので。久しぶりに今月分の振り込みがなく滞納が始まってしまったので連絡したところ、電話がつながらないことがわかりました」

「ブリーダーの関連会社や関係者との連絡は」

「全部つながりません。そのため、早急な現場確認が必要となりました」

「そういうことね」

 どうやら石嶺さんは状況を正確に把握してくださったようです。現場に到着。インターホンを押しましたが反応がありません。

「電気が止まってるみたいだね」

 石嶺さんが言います。確かに電気が通っていないようです。

「ブリーダーさん。いますか? ブリーダーさん……」

 ドンドンとドアを叩きながら呼びますがこの掛け声にも反応はありません。

「扉を開けます」

 私は持参した鍵を使用し地下室の扉を開けました。そしてその扉の先では信じられない惨状が広がっていたのです。

目の前に広がった「凄惨な光景」

 用意されていたエサも水も尽きている室内。塊になっている体毛が大量に散乱している中で餓死している犬たち。しかも正常な姿をしていない死骸もゴロゴロと転がっています。

「なんなんだ、この状況は……。児玉さん」

「そんな、なんでこんなことに……」

「これは、生き残るために共食いをした後なんじゃないか? 児玉さん」

「…………」

 石嶺さんのおっしゃったことと同じことを私も感じていました。他にも、黒く変色した血痕が室内や床のそこかしこに広がっており、それに合わせるように、壁の至る所にも変色した血痕が線を引いて付着していました。水と食料がなくなる中で、数十頭の犬たちが死に物狂いで争い、また部屋から出るために血だらけになりながら壁を蹴り、走り回っていた様子が容易に想像できました。

「ブリーダーはどこに行ったんだ。こんな残酷なことをして……」

「まさか、家賃を自動で振り込むようにして時間を稼いでいた? その状況で犬たちを置いて自分だけ夜逃げしたのか?」

 後にわかることですが、この予想は当たってしまいます。結論としてブリーダーは犬たちを置いて夜逃げしたのです。自動入金を利用して時間稼ぎをしながら。結局、ブリーダーがどこに行ったのかは探し当てることはできませんでした。

 それから1カ月後。

「児玉さん。この部屋は管理実務上ではどのような扱いになる?」

「事故物件」になるのか、ならないのか

 部屋の特殊清掃が完了したタイミングで、その確認のためにマンションの地下室に2人で集合しました。その際に石嶺さんから投げられたのがこの質問です。

「管理実務上は、人が亡くなったわけではないので事故物件とはなりません。しかし、あの惨状です。事故物件でないとはいえ、余計なトラブルを避けるという意味でも次の入居者さんにはこの部屋で何があったのかを告知するのがいいと考えます」

「なるほどな……。しかし、私もその通りだと思う。人が亡くなったわけではないから事故物件でないと世間では言うのかもしれないが、私から言わせれば、あの惨状が起きたこの部屋は事故物件だよ。間違いなくね」

 石嶺さんの目はあの日の光景を思い出すかのように遠くを見ていました。怒りの感情を含みながら。

 特殊清掃の確認完了後、地下室はしっかりとリフォームも実施され、とても綺麗になりました。部屋はすぐにでも使用できる状態です。しかし、現在でもその部屋は利用されておらず、開かずの間となっています。石嶺さんからの強い希望による貸し止めです。

「あの惨状を見てしまったからには、とても人に貸すことはできない」

 あの日の惨状と、石嶺さんの言葉が、ずっと……私の頭から離れません……。

(後編に続く)

●著者プロフィール
児玉和俊(こだま・かずとし):
1979年生まれ。株式会社カチモード代表取締役社長。2007年から15年間、賃貸不動産管理業界で会社員として勤務し、7,000室以上の不動産管理に関わる。2022年12月、「物件で死亡事故が起きた際に、所有者や管理会社を支援するため、事故物件の“オバケ調査”を行う会社」として株式会社カチモードを起業。宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、相続支援コンサルタントなど、取得資格多数。テレビやYouTubeなど、メディア出演実績多数。

 

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