厚生労働省は、3月1日から3月8日までの8日間を「女性の健康週間」と定め、女性の健康づくりに向けた活動を推進しています。
トークイベントの様子(久光製薬提供)
女性の健康週間を前に製薬会社の久光製薬は2024年2月16日、更年期障害についての理解促進を目指したプレスセミナーおよびトークイベントを開催しました。
更年期には、ほてりや発汗をはじめさまざまな症状が現れます。しかし、更年期の症状が出ても我慢したり、市販薬を飲んだりするだけの人が大半を占めており、医療機関を受診している人は40歳代で3.6%、50歳代で9.1%と少ないのが現状です1)。
女性特有の健康問題を専門とする若槻明彦先生(愛知医科大学産婦人科学教室主任教授)は、更年期障害が女性のQOLを低下させるだけではなく、将来の生活習慣病リスクを高める可能性があると警鐘を鳴らしました。
若槻先生(久光製薬提供)
「『更年期障害は我慢すればいずれ治る』と考えて医療機関を受診しない方も少なくない。たしかに症状はしばらくすれば治まるが、更年期障害の原因となっている女性ホルモン(エストロゲン)の低下により、10年、20年後に骨粗しょう症や動脈硬化といった生活習慣病が起こりやすくなることがわかっている」と述べ、更年期障害を適切に治療することが、将来の生活習慣病の予防対策つながるという認識を持つことの大切さを呼びかけました。
そのうえで、更年期障害の治療として用いられるホルモン補充療法について説明しました。ホルモン補充療法には、次のような効果があります。
更年期障害に有効 骨量増加から骨折予防効果を有する 脂質改善効果を有する 皮膚萎縮に有効 睡眠に効果的一方、デメリットも存在します。最も大きなデメリットとして知られているのが乳がん発症増加です。2002年にアメリカで行われた調査で、ホルモン補充療法により骨折の発生率は減少したものの、乳がん、脳卒中、心臓発作の発生率がそれぞれ増加したことがわかりました2)。そのため、「ホルモン補充療法に興味があるけれど、乳がんのリスクが心配」という方もいるのではないでしょうか。
しかし、その後のWHOの追跡調査で、エストロゲン単体であれば乳がんのリスクが増加することはなく、黄体ホルモンが原因であったことがわかっています。
若槻先生は「現在は、黄体ホルモンとして天然型プロゲステロンを用いることで良い成果が出ることがわかってきた。また、皮膚に密着させて用いる経皮製剤であれば、静脈血栓症の増加といった医薬品の服用後に起きる健康上の問題を防ぐことができる。ホルモン補充療法は50歳代あるいは閉経後10年以内の開始が望ましく、経皮製剤、かつ天然型プロゲステロンを選択することでリスクをかなり低減できる。現在ではこれが主流になっている」と説明しました。
更年期症状は我慢せず婦人科を受診 元スピードスケート日本代表の岡崎朋美さんと若槻先生による「更年期をあなたらしく過ごすためにできること」をテーマにしたトークイベントが行われました。
岡崎さん(久光製薬提供)
トークイベントのなかで岡崎さんは自身の経験をもとに若槻先生に更年期障害の症状について質問。若槻先生は、岡崎さんのように運動習慣のある人は症状が軽くすむケースもあるとしたうえで、「エストロゲンは子宮や乳房だけでなく、骨や血管、脳、皮膚など体内のさまざまなところで働いているため、更年期の症状は多様であり、不定愁訴と呼ばれている。また、その後の影響も大きい。女性の健康寿命を延ばす観点からも、50歳くらいでスクリーニングをして、生活習慣の改善や医療機関での治療など適切な対応をとることが重要となる」と解説しました。
岡崎さんは、「更年期の先まで見据えて対応しなければならないことがよくわかった。多くの人はそこまで知らずに我慢していると思うので、症状には個人差があるものの、専門である婦人科の医師に相談すること、お薬による治療ができることなどを伝えていきたい」と話しました。(QLife編集部)
1)厚生労働省:更年期症状・障害に関する意識調査(結果概要). https://www.mhlw.go.jp/content/000969136.pdf(2024年2月22日確認) 2)The Journal of the American Medical Association (JAMA288:321-333,2002)