世界には、「夜尿症(おねしょ)」で悩む子どもとその保護者がたくさんいます。その数は日本で約80万人に上り、アレルギー疾患に次いで多い病気と言われています1)。こうした状況を受けて国際小児禁制学会(ICCS)とヨーロッパ小児泌尿器科学会(ESPU)では、夜尿症は治療可能な疾患であることなどを啓発するため、「世界夜尿症ウィーク」を制定しました。
6月3日から9日までの今年の世界夜尿症ウィークに先立って、製薬会社のフェリング・ファーマ株式会社とキッセイ薬品工業株式会社は2024年4月25日、メディア向け夜尿症啓発セミナーを開催しました。
5歳以降で月1回以上のおねしょが3か月以上続く場合、「夜尿症」と診断され、治療が必要な場合があるとされています1、2)。しかし、小学校低学年の子どもでは、夜尿症があっても受診していないケースが多いことが報告されています3)。
大友先生(フェリング・ファーマ、キッセイ薬品工業提供)
「成長に伴って自然に治る」「医療機関を受診するほどではない」と考える人も少なくないかもしれません。しかし、順天堂大学医学部附属練馬病院小児科診療科長/教授の大友義之先生は、「夜尿症はこどもの自尊心を低下させ4~6)、自信をなくしたり7)、学校生活や友人関係に影響を与えることがある8、9)。子どもにとってトラウマとなる可能性もある」と指摘しました。
また、夜尿症の患児に起こる最も憂慮すべき問題として、「養育者から受ける虐待」を挙げました。2016年にブラジルで行われた調査では、夜尿症患児87人の全員がおねしょが原因で養育者から口頭で叱られ、うち56.7%は強い叱責、56.3%は体罰を受けていたことがわかっています10)。日本でも痛ましい事例が時おり報道されていることを踏まえ、適切な治療が大きな意義を持つことを強調しました。
早期の治療・相談のため教育現場への啓発活動が重要に夜尿症は学校生活や友人関係に影響を及ぼすことがあると指摘されていますが、学校においては宿泊行事などを除いて、夜尿症の子どもへの援助はほとんど行われていないのが現状です。
田村先生(フェリング・ファーマ、キッセイ薬品工業提供)
教育現場で心理職としてカウンセリングなどを行ってきた一般社団法人スクールセーフティネット・リサーチセンター代表理事の田村節子さんは、「夜尿症の患児は不登校の児童・生徒の約2倍に上ると言われている。しかし、『おねしょは病気ではないから家庭で対応すべき』『親の愛情不足が原因ではないか』といった間違った認識があり、学校では援助の対象となっていないことが課題」と話しました。
実際に夜尿症の治療を行った子どもとその親の声を踏まえたうえで、田村さんは「夜尿症が子どもの心に与える影響は大きく、成績不振やいじめなどにつながるケースもある。家庭だけの問題と捉えるのではなく、疾患であるという認識を持ってできるだけ早期に治療や相談につなぐことが必要」と指摘。教育現場に対する啓発の重要性を強調しました。(QLife編集部)
1)日本夜尿症学会: 夜尿症診療ガイドライン2016, 診断と治療社, 2016 2)日本夜尿症学会: 夜尿症診療ガイドライン2021, 診断と治療社, 2021 3)Nishizaki N, et al.: Int J Urol. 30(4): 408-414. 2023 4)Hagglof B, et al.: Scand J Urol Nephrol Suppl. 183: 79-82, 1997 5)Theunis M, et al.: Eur Urol. 41(6): 660-667, 2002 6)Longstaffe S, et al.: Pediatrics. 105(4): 935-940, 2000 7)Jiang K, et al. Neurol India. 66(5): 1359-1364, 2018 8)Hashem M, et al.: Iran J Pediatr. 23(1): 59-64, 2013 9)Jonson Ring I, et al.: Acta Paediatr. 106(5): 806-811, 2017 10)Sa CA, et al.: J Urol. 195:1227‒1230, 2016