今年7月に惜しまれつつ宝塚歌劇団を退団した月城かなとが、退団後初めてのコンサート「月城かなと1st Concert『de ja Vu』
」を開催する。インタビュー前編では、「コンサートで自身が変わっていく過程を楽しんでいただけたら」と考えたという月城が、退団から数カ月を経た今の思いや、コンサートに向けて準備していることなどを聞いた。
そして、後半では、表現者としての考え方や、どんな意識で月組を率いていたか、また、Rakuten TVで配信している宝塚歌劇団の作品から、おすすめ作品をセレクトしてもらい、それぞれのセレクト理由や思い出を語ってもらった。
(文・写真:岩村美佳)
――宝塚を退団されてからどんな風に過ごされていますか?
時間に余裕ができたので、自分のやってみたいことができるのは、すごくありがたいなと思っていますが、自分自身の中身は変わらず過ごしていると思います。コンサートで歌う曲や発声のお稽古をしたり、撮影のお仕事をしたりして過ごしています。コンサートがどんな内容なのか、曲目を見るだけでは盛りだくさんで分からないところがあるので、私も楽しみにしています。
―コンサートのタイトルに込められた思いなどありましたら、教えてください。
港ゆりか先生からタイトルを『de ja Vu』にしてはどうかとご提案いただきました。そこに込められた本当の意味みたいなものはまだ先生の頭の中にあって、コンサートの稽古をしていくうちに私たち出演者も分かってくると思います。懐かしく感じることや、経験したような気がするとか、いろんな意味がある言葉なので、コンサートのどの部分でそれを感じていただけるかは、観てくださる方それぞれだと思います。何かちょっと懐かしい気持ちになるとか、期待していた以上のものがそこにあるというのも、もしかしたら『de ja Vu』かもしれませんし、いろんな意味のタイトルかなと想像しています。
―退団から4か月ほどでのコンサート開催で、ファンの皆様と再会する場になると思いますが、お気持ちなど伺えますでしょうか。
コンサートの企画があり、開催時期を考えた時に、「退団後なるべく早いタイミングでコンサートをできませんか」と希望しました。退団して、私という人間がどんどん変わっていくので、その過程を楽しんでいただけるコンサートになったらと思ったんです。何をもって女性とするかというのもありますが、「女性になりました」というのをプレゼンするのも、「男役のままです」というのを見せるのも何か違うなと。根本の「私」という人間が宝塚を退団して、いろんなことを感じて、今こういう段階ですというところを見せられるコンサートになればなと思いました。あまり時間が経ちすぎると、すごく変わった姿をもしかしたら期待されるかもしれないとも思いましたので。そんなに変わらないであろう、なるべく早いタイミングで皆様にお会いできたらと思いました。
―今日お会いして、すごく柔らかい雰囲気になられているなと感じました。コンサートにもそういったお心の内が出るのかなと想像します。
そうですね。でも、曲などによって変えられるようにはいたいと思います。「私はこうなりました」と一色で見せるのではなくて、曲や場面によって全然違う、それが「あ!de ja Vu!」と思ってもらえれば嬉しいです。
―男役から女性へ、さらに個人として変化していく途中を見せたいということですが、今はどのような心境というか、どの地点でしょうか?
女性になると言っても、宝塚時代も自分は男だと思って生きていたわけじゃないので、多分中身の部分はそんなに変わらないんですよね。今、女性らしさや男性らしさが、そんなにはっきり分かれていないようにも思います。私自身は変わらないと言いつつも、いろんな経験をして、いろんな考え方が今後増えていくと思うんです。それを今回だけに限らず、今後皆さまの前に立ち続ける限りは、こういう場が続いていけばいいなと。それを「男役からちょっと女性になったね」とか、そういうことではない、私のどんな引き出しが増えて、どういう風に感じるようになったのかということを、一緒に楽しみにしていただけるようなきっかけになればいいなと思います。
―成長していく過程ということですね。
そうですね。人として成長していく過程を、これからもファンの方に一緒に楽しみにしていただきたいと思い、このタイミングにしました。今、実際に過ごしてみても、自分が何か大きく別の人間になるという感覚はまったくなくて。でも、毎日違う方とお仕事する上でいろいろ感じることや、こういう風に皆さん毎日お仕事されているんだとか、新しい発見がたくさんあって。日々の中でも、昼間に歩くとこんなに暑いんだとか、そういう本当に小さいことを感じて、そうしたら、次は昼間の曲を歌う時に感じることが全然違うかもしれないじゃないですか。そういう感じですね。根本は変わらず、そこにいろんな新しい要素がくっついていくというのを一緒に感じてもらえれば嬉しいですし、そういう機会がこれからも続いていけばいいなと思います。その第一段階という感じです。
―構成・演出・振付は港さんが担当されますが、港さんから言われた言葉や、相談したことなどがあれば、教えてください。
港先生は本当に快く受けてくださって、先生が創る世界観満載のコンサートになっていると思います。自分で考えるのもひとつの方法かなとは思いますが、可能性が狭まってしまうでしょうし、港先生が創る世界観を存分に楽しみたいと思ったので、演出に関してはお任せしています。先生が宝塚で私を担当してくださった時に、宝塚という制約の中でできなかったもの、その枠を超えたものを一緒に作りたいと思います。お稽古が始まってみて、実際どうなっているのか、ダンサーの方やコーラスの方に出ていただいて、その方たちとどうやって場面を作っていけるのか、すごく楽しみにしています。構成に関しても、先生がいつもノートを持って、それに書き留めていらっしゃるんですよ。お話したことと言えば、好きな色や、どんな曲が好きかというくらいで、それを元に先生が考えてくださったので、楽しみにしている段階です。
―港さんの素晴らしいと感じているところなどお聞かせください。
宝塚では3回ほどご一緒していますが、本当にその時々で、それがお芝居中のナンバーなのか、ダンスナンバーなのかでも全然違った振付をされますが、いつも歌詞に必ず寄り添ってくださるんです。私が歌っている歌詞やその場面で誰かが歌っている歌詞に必ず合った振りを付けてくださるので、気持ちの流れが途切れることなく演じられるというか、逆にその振りに助けられて、その歌詞の意味が自分の中でよく理解できたりするような印象があります。
―月城さんの意見やこだわりポイントで、今回のコンサートに反映されていることがありましたら、教えてください。
今年の初めにニューヨークに行ったのですが、その時に観たミュージカルをものすごく好きになったので、可能だったら、少しだけでもその曲を歌えませんかということだけはリクエストしました。メドレーの中にちょっと入れていただけたので、すごく嬉しいです。ただ、日本では上演されていない作品なので、聴いた瞬間にこの曲だとは分からないと思いますが、すごく素敵な曲なので、コンサートのメンバーで歌えることが嬉しいです。ダンサーもシンガーも、メンバー全員で作れる曲があるのは嬉しいですね。その曲を楽しみにしてほしいです。
―退団前にはコンサートを上演されましたが、コンサートとショーの表現の違いみたいなものはお感じになっていますか?
退団前のコンサートの時は、一曲一曲の世界観や色が違ってはっきりしていたので、曲ごとに自分をどんどん変えていく感じでしたが、ショーよりも一曲一曲が長いから、濃く作れる楽しさがあって、そういう意味ではコンサートもショーもあまり変わらないかなと思います。ただ、コンサートはお客さまに世界観を感じてもらえる時間が長いからこそ、曲の中で、一色ではなくいろんな表現を込められるイメージです。
―コンサート開催と、事務所所属とを一緒に発表されましたが、その時の反響などをご覧になっていましたか?
ちょっとずつ……(照)。
―皆さんが楽しみにされていましたね。
なるべく発表を近づけたかったんですよね。どっちかだけ先に出ても、「えっ?」となる時期が長いかなと思いましたので、なるべく近い時期に楽しみにできる話題が出たほうがいいんじゃないかと、いろいろ考えました。どん!どん!と出ても、え!?え!?となるかなって(笑)。なるべく時期を寄せて出したほうが「ああ、楽しみ!」と皆さまの気持ちを揺さぶらずに済むかなと思って一緒にしたのですが、結果喜んでいただけたならよかったですし、退団してから早いタイミングで皆さんにまた会えるのは嬉しいです。
―歌のお稽古をされているとのことですが、宝塚時代の男役とは違う曲にも挑戦されるということでしょうか?
そうですね。宝塚は基本的に私に合わせた音域で曲を作ってくださいますが、既存の曲に自分の声を合わせていくみたいな作業が、これから必要になってくると思うので、声の幅をもう少し広げたいなと思って取り組んでいます。宝塚の曲を歌うにしても、同じように歌っては面白くないかなと思うので、知っている曲だけれど、新しい曲のように聴こえたらいいなと思い、発声の勉強をしています。
―これまでの男役として歌うのとは、違う方向性で歌と向き合っていると思いますが、何か違いを感じますか?
今回、音楽に玉麻尚一先生が入っていらっしゃって、玉麻先生の曲はいつもその世界観がすごいんですよね。「こんなメロディなんだ」みたいに新鮮なことが多いので、自分の声というよりも、玉麻先生の編曲に驚いています。玉麻先生はいろんな楽器が聴こえてくるような稽古音源を作ってくださるんです。それを聴いて、自分がイメージを膨らませて、「この曲だったらこの声がいいんじゃないか」と、曲ごとに合わせた声が出せるように、想像しながら作っているという感じです。宝塚時代にも何度かご一緒しましたが、同じ宝塚の曲でも玉麻先生の編曲では、全然違ったような曲になったので、それを楽しみにしていただきたいなと思います。アレンジがすごいので、同じようには歌えないようになっています。
―スペシャルゲストに横田明紀男さんと川井郁子さんがご出演とのことで、かなり大人な雰囲気になるのではないかと想像しますが、お名前を聞かれた時はどんな印象でしたか?
本当にご一緒できるだけでとても嬉しいです。それぞれの道のスペシャリストですから、その世界観に自分が入れることがありがたいです。私も聴くだけでも大満足ですが、今回はこのお二方の奏でる音楽と一緒に歌うこともあるかと思います。今までひとつの楽器と一緒に歌うことは、ピアノ以外ではあまりなかったのですが、ヴァイオリンとギターと歌がどういう風にコラボしていくのか。お人柄が演奏に表れている方々だと思うのですが、出会えることも嬉しいですし、演奏者の方と一緒にひとつのものを創る事ができるのは、とても貴重な体験だなと楽しみです。
―お稽古に向けて、一番楽しみにしているところを教えてください。
今までは決まったメンバーの中でお仕事をしていましたが、新しい出会いがあるということと、その方たちとどんな関係を作っていけるのかということがすごく楽しみです。長い期間を一緒にいられるというのは、こういう生もののお稽古ならではと思いますので、初めましての方と一緒にお仕事するのが、今はとても楽しみです。
―今回KAATでの公演がありますが、主演で立たれたことはなかったですよね。
神奈川県民ホールには全国ツアーで伺ったことがありますが、KAATには出演したこともなかったですし、観に行ったのも1回だけなんです。すごく音響がいいイメージがあります。KAATは会場が縦に長いですが、そういう空間で歌えるのもまた楽しみです。横浜ということも嬉しいですしね。
―横浜は月城さんのご出身地で、凱旋公演になりますね。
関西生活があまりに長すぎて、凱旋と言っていいのだろうかという感じですが、横浜の皆さんが喜んでくださったら、覚えていてもらえたら嬉しいです。
―ファンの皆さんが横浜にいらっしゃるかと思います。横浜の楽しみ方のおすすめなど伺えますか?
でも、横浜は広いですから。「これが月城さんの地元かぁ……」ってなると、ちょっとお洒落すぎるんですよね。横浜ってほとんど山だから(笑)。あの海辺の洒落た感じは……でも、そう思ってもらえたらいいかな(笑)。この街で生まれ育ったんだと、海風を浴びながら思ってもらえたらいいかなと思います。
―イルミネーションも綺麗な時期かもしれないですね。
そうですね! コスモワールドの遊園地のあたりや、大さん橋も綺麗だと思いますので、ぜひ行ってみてほしいです。
―『de ja Vu』を楽しみにしている皆様に、メッセージをお願いいたします。
私が宝塚を辞めて、日々どんなことを感じているのかということを、歌や表現にいろいろと込めて、尚且つ大事にしたいところや、皆さまと共有したい思いが変わらずあるということを、また感じてもらえるコンサートになればいいなと思いますので、いろんなところで、いろんな意味で『de ja Vu』を感じてもらえたらいいなと思います。
ーさらに、Rakuten TVでは『de ja Vu』が配信されますので、配信でご覧いただく皆様にもメッセージをお願い致します。
会場に来られなかった方に観ていただけるのがとても嬉しいです。やはり少しでも多くの方に観ていただきたいので、こういう機会があることはすごく嬉しいです。そして、今まで私を知らなかった方にもぜひ観ていただきたいなと思っています。
等身大の今の私をそのまま表現するというよりも、この『de ja Vu』という作品をお見せするつもりでいますから、「この人のことを知らない」というより、「どんな作品なんだろう」と少しでも思ってくださる方がいらっしゃったら、楽しんでもらえる構成と世界観だと思いますので、ぜひいろんな方に観ていただきたいです。もちろん私のことを知ってくださっている方にも、宝塚時代とものすごく人が変わってしまうわけではないですし、いい意味で根っこは変わらないなとか、いろんなことに挑戦しているなと観ていただける作品になると思いますので、ぜひたくさんの方にご覧いただきたいです。
●「月城かなと1st Concert『de ja Vu』」配信詳細
ライブ配信日時
11月30日(土) 配信開始:16:00 / 開演予定:16:30(アフタートークショー付き)
12月1日(日) 配信開始:12:00 / 開演予定:12:30(大千穐楽)
視聴チケット販売期間
11月9日(土)10:00〜各回開演30分後まで
視聴チケット販売価格
視聴チケット:各4,500円(税込、手数料別)
視聴チケット(公演プログラム郵送サービス付き):各7,000円(税込、手数料別)※送料別途必要
ヘアメイク:山本浩未
スタイリスト:青木千加子
イヤーカフ(左上)¥15,730、(左下)¥220,000、(右耳)¥94,600、バングル¥2,090,000、リング(人差し指)¥38,500、(中指)¥44,000/すべてジョージ ジェンセン(ジョージ ジェンセン ジャパン 0120-637-146)