12月8日(日)にスタートする『連続ドラマW 誰かがこの町で』(WOWOW)。佐野広実の小説「誰かがこの町で」を、江口洋介主演でドラマ化。とある新興住宅地をまとめる地区長とその住民たち。地区長と地区の役員たちは「安心安全な町づくり」のために、住人たちに“ルール”を課した。そのルールに異常性を感じたとしても、それを守らない者は町から追い出されるようなシステムが出来上がってしまっていた。それがエスカレートし、“殺人”に加担することになっても、同調圧力によって口をつむんでしまう…。本作は、ある町の集団による同調圧力と忖度の恐怖を描いた、リアリティーのある社会派ミステリー。連続ドラマの主演は4年ぶりとなる江口洋介は、かつて政治家の秘書を務めていたが、裏金づくりに加担したことに罪悪感を抱き、今は法律事務所で手伝いをしている真崎雄一を演じる。そして、蒔田彩珠は18歳まで児童養護施設で育ち、施設を出ると同時に自分の家族の行方を捜し始めた19歳の望月麻希を演じる。『忍びの家 House of Ninjas』で親子役を演じていた二人が再び共演。お互いの印象や本作での役どころ、撮影時のエピソード、見どころなどを語ってもらった。
(取材・文:田中隆信、撮影:中川容邦)
――『忍びの家』で共演されて、今回また共演されましたが。
江口:はい。『忍びの家』では親子役でしたけど、結構特殊な家庭でしたからね(笑)。今回は親子ではないんですが、話が進んでいくうちに“擬似親子”的な関係になっていくので、最初のうちはいい距離感を作りながらだんだんと近づいていくという感じになっています。今作の台本を読んで、“麻希”を彼女が演じると聞いた時に『忍びの家』の時の“目”を思い出して『蒔田さんだったら大丈夫だな』と思って、撮影に入るのを楽しみにしていました。本人はそういうつもりはないと思うんですが、ちょっと陰がある目つきをしているんですよ。今回の“麻希”は結構重い過去を背負っている役なのでプレッシャーもあったと思うけど、ストーリーに沿って彼女も再生していくので、こっちもうまく時間を共有できたなと思います。
蒔田:『忍びの家』の時はアクションがあったり、親子役ということもあって、私の中では“明るい江口さん”という印象でした。でも今回は内容が内容で、すごく役に対して真っ直ぐに没頭されていて、前回とのギャップをすごく感じて、「やっぱりすごい俳優さんだ!」って改めて思いました。
江口:(小声で)もっと言って!(笑)
蒔田:本当に、全然違う江口さんだなって。それと、こんなに早くまた共演させてもらえるとは思っていなかったので、私もすごく撮影を楽しみにしていました。
――今作は、かなりシリアスというか重いテーマの作品になっています。台本を読んだ印象は?
江口:“ある町に起こった集団による同調圧力と忖度の恐怖を描いた社会派ミステリー”という謳い文句の作品ということで、すぐに興味を持ちました。こういう忖度というか、“同調圧力”による集団の事件というのは現実の世界でも多く起こっていると思います。見て見ぬふりをすることから始まってしまうので、最近では映画の題材にも取り上げられることも増えてきているような気がします。こういう作品を見ることで、刺激されて自分の周りを見回したりするような感じにもなると思うんですよ。そんなふうにして自分を保っていく時代が来てるのかなって。WOWOWさんのドラマって、政治や企業をテーマにした社会派作品が多いと思うんですが、この作品は政治ではないけど、より身近なところで起こる問題や事件を取り上げていて、これも社会派ドラマだと思います。
蒔田:一つの町で起きた出来事を取り上げていますけど、町に限らず、マンションとか、どこでも起こり得ることだなって思いますし、実際に程度の差はあっても似たようなことがたくさん起こっているんじゃないかと思いました。なので、こういう世界を想像しにくいということはなかったです。
江口:確かにどこでも起こり得ることだし、リアリティがあって想像することは難しくないよね。僕の場合、撮影で難しかったのは説明台詞が多かったことかな。彼女は説明台詞がないので「いいなぁ」って思ってました(笑)。
蒔田:そうですね。説明が多くて大変そうだなって。“副地区長”とか(笑)。
江口:そうそう。“副地区長”とか言いづらくてしょうがなかった(笑)。刑事ドラマも黒板とかホワイトボードを背にして「被害者は…」とか説明するシーンがあったりしますけど、このドラマは普通の日本家屋で正座しながら説明するので、撮影する前から「これは大変だぞ」って思いました。でも、このドラマ的に説明は重要なので、大きな演技をせずにそれを明確に伝える方がいいなと思ったので、撮影ではそういうスタンスで取り組みました。
蒔田:私が演じる役は、身内がいなくて、だからこそ自分の家族について調べたいという気持ちを持っている子なんですけど、それは今まで演じたことのない役でした。どういう子なのか台本を読みながら色々想像して、“自分の過去について”というところにフォーカスした役作りをしました。
江口:人間形成って、親とか家族の影響が大きいから演じる役の家族構成だったり、両親がどんな人なのかを考えつつ役づくりをしていくけど、それが一切ないっていうのは難しそうだよね。僕もそういう役は演じたことがないから。
蒔田:衣装合わせが大きかったです。着る衣装やメイク、ネイルとか、監督がすごくこだわってくださっていて、見た目から「麻希はどういう人なのか」を監督と一緒に作っていきました。
江口:そこから始まってたんだね。
――江口さんは撮影前に何か準備はされましたか?
江口:台本がしっかりしていたので、そんなに大きな準備はなかったです。気をつけていたのは、さっきも言ったとおり説明台詞が多いというのもありますけど、いくつか長台詞もあるので、それは頭に入れておくように何度も読み返しました。あとは現場に入ってからかな。
蒔田:私も実際に現場に入ってからのほうが大きかったです。最初に撮影したのが、江口さんが演じる真崎さんと会う喫茶店のシーンで。
江口:あのシーン、長かったよね。台本、何ページあったかな?(笑)
蒔田:はい、最初のそのシーンの撮影がすごく大変でした。でも、そのシーンを撮影する中で、キャラクターを掴んでいった感じがありますし、二人の距離感も掴めた気がしました。
江口:うんうん。“大人のこんなところが嫌い”とか“こういうところを見たくない”とか、そういう感じもあのシーンで作られた感じもあったなぁ。俺がわざと手を拭いたおしぼりを乱暴にポーンと置いたりして。そんな細かい部分も意識して撮ったシーンでした。
――シリアスなシーンが多い作品ですが、撮影現場の雰囲気はどうでしたか?
江口:作品自体がすごく重くてしんどいですからね。現場がどういう感じだったのか、気になりますよね(笑)。現場に関しては、和気あいあいとした感じでした。そんなにシリアスになることもなかったです。それぞれの役もありますし、その気持ちを切らさなければ大丈夫だと思っていたので、撮影は楽しかったですね。作品に関しては、第1話、第2話はかなりしんどいので、3話まで見てくれたらそのまま最後まで見てもらえるんじゃないかなと思っています。
蒔田:現場に入るまでは、作品もすごくシリアスで、江口さんも『忍びの家』の時とは違うんだろうなっていう気持ちはありましたけど、現場に行ってみたら、さっきお話しした長いシーンから始まったんですけど、みんなでどうやっていい作品にしていくかということを考えて、一つの方向を見て進んでいる感じだったので、すごく居心地のいい現場でした。
江口:他の共演者の方とも撮影の合間に話をしたりしていましたね。鶴田真由さんは僕と同じでセリフの多い役なので大変そうでしたし、大塚寧々ちゃんも子どもを誘拐されて亡くしていたり、いろいろ大変な役なので苦労してました。僕たちが関わってないシーンもあるので、皆さんに「あのシーンはどんなふうに撮ったの?」って聞いたりしてコミュニケーションを取っていました。
――町側の重要人物を演じる宮川一朗太さんと尾美としのりさんは?
江口:あの二人ね(笑)。
蒔田:怖かったです(笑)。
江口:正統派な顔して怖いのって、一番怖いですからね。
蒔田:私が二人に力づくで抑えられそうになるシーンがあって、その時、しっかりと怖がらせてくれたので、役の気持ちと重なって「一人じゃどうすることもできないんだ」って実感できたんです。ネタバレになるといけないので詳しくは言えないんですけど、そのシーンは大きな“変化”になったので、すごく重要なシーンです。
――集団による“同調圧力”が事件につながっていくことは現実にも起こり得ることとお話しされていましが、実際にそういう状況になったら、ご自身は同調圧力に対してどう対応されますか?
江口:難しいねぇ。“同調”と“みんなで協力し合う”というのは紙一重だなと思うんです。撮影もそうですよね。集団で力を合わせていかないといい撮影ができませんから。芝居なんかも同調ギリギリのところもありますし、普段の生活の中でも、コミュニティーがあれば他の人のことを気にして生活しているわけです。逆に、だんだん付き合いが薄くなるよりは濃くなったほうがいいと思っていたりもするんですよ。僕は東京出身ですけど、地方から出てきた人は「本当に周りの人がうるさくて」って言ったりするじゃないですか。「そういうの、いいじゃん」って僕は思うんですけど、本人にしか分からないことですよね。なので、そこを見極めるのも個人の目線というか、大人の目線が必要なんだなって思います。
蒔田:自分の大切な人のために屈しないというのは大切なことなのかなって思うので、大切な人のために同調圧力に屈しない大人でありたいなとは思いますね。
江口:そういうふうに一人でも自分のために思ってくれてる人がいるっていうのは心強いし、やっぱり嬉しいよね。イジメとかもそうだから。
蒔田:はい。
――再度共演されて、今回のようなプロモーションの取材も一緒に受けたりしてみて、改めてお互いの印象とかの変化とかがあれば。
江口:『忍びの家』の時に、のっけからグッと距離を縮めていったんです。みんなでいても一人の時間を作るタイプだなと思ったので、「電車で来てるの?」って話しかけに行ったりしました。話しかけると自然体で返してくれるんですよ。「はい、電車で来てるんです」って。電車で現場に来てるところも含めて、芸能界の匂いが全然しないというか、女優さんとして「このまま行ってほしいな」って思いました。今回は親子役じゃないからどうなるかなって思ったりもしましたけど、最初に言ったように“陰”のある表現もできるし、日に日に印象が違ってました。今日会った時も変化を感じましたし、今後の成長が本当に楽しみです。
蒔田:『忍びの家』の時とのギャップにびっくりしたんですけど、共通して言えるのは、今回も大変な役ですけど、常に周りの俳優さんたちと、このシーンはどうするかと一緒に考えて、みんなの意見を聞いたりして、気にかけてくださったんです。なので私も自分の意見として「こうしたい」って表現できましたし、それを受け止めてくださったのがうれしかったです。
江口:いやいや(笑)。「じゃあ、ここはこうして」って仕切ったりできるタイプじゃないから。でも、監督もそうだけど、俺たちもその場をどう作るかっていうのも仕事なので、そこで演技として“芝居が乗る”ためにどうするかというのは考えています。あぁ、そういうところを見ててくれてたのは嬉しいなぁ(笑)。
――お二人の共演された『連続ドラマW 誰かがこの町で』の放送開始が楽しみですが、最後にWOWOWのオリジナルドラマのおすすめ作品を教えてください。
江口:僕は『しんがり』(『連続ドラマW しんがり〜山一證券 最後の聖戦〜』)ですね。『なぜ君は絶望と闘えたのか』もいいし、『石つぶて〜外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち〜』もいいけど、『しんがり』が作品的にも一番タフな内容だったので。証券会社が舞台で、「あんな事件あったな」って記憶にはあったんですけど、そこを一回なぞる感じで演じさせてもらいました。これこそWOWOW得意の社会派ドラマという感じですよね。ぜひ見てもらいたいです。今回のドラマもそういう社会派の流れを汲んでいる作品なので、あわせてぜひ(笑)。
蒔田:私は『連続ドラマW 血の轍』です。
江口:これもすごいタイトルだね。
蒔田:私が出演した唯一の連続ドラマWで、10年前で12歳の時でした。このドラマも過去の事件と現在が交錯する作品だったので、これも今回の作品と共通する部分もあるのかなって。このドラマでは事件に直接関係する役ではなかったので、今回、事件と絡める役でうれしいです。
江口:10年前にWOWOWのドラマの撮影現場の雰囲気を体験してたわけだよね。
蒔田:当時、小学生だったということもあって、現場の雰囲気に圧倒されてました(笑)。今回も「WOWOWだからあんなふうに圧倒されるのかな?」なんて思ったりしてたんですけど、あの時とは違う雰囲気で、さっきお話ししていたように現場は和気あいあいとしていたので安心しました(笑)。
江口:『血の轍』、気になるなぁ。ぜひ、これも『誰かがこの町で』とあわせて見てもらいましょう。
蒔田:はい、ぜひ見て見てください(笑)。