アメリカの映画スタジオ、サーチライト・ピクチャーズが2024年で創立30周年を迎えた。メジャースタジオの一つ、20世紀フォックス(現:20世紀スタジオ)が、「低予算ながらも価値ある作品を個性あふれるフィルムメーカーたちと生み出す」ことを目的に、1994年に“FOXサーチライト・ピクチャーズ”を設立。2019年にウォルト・ディズニー・スタジオの傘下となり、2020年から現在の社名に変更された。明確な理念のもとに製作、あるいは配給(買い付け)される作品は、映画ファンをうならせる良質ぞろいで知られ、5度のアカデミー賞作品賞に輝いた実績を誇る。今回は、サーチライトという名前どおりに光を当てたフィルムメーカーの才覚があふれた作品を5つ紹介したい。
●フル・モンティ(1997年)
イギリス映画の本作はサーチライトが買い付け、北米などでの配給を手掛けて大ヒットしたことにより、サーチライトの名を広く知らしめたともいわれる記念すべき一作。かつて鉄鋼業で栄えていたイギリス北部のまちを舞台に、不況のあおりで失業した中年男性が、クセ者ぞろいの仲間たちと男性ストリップに挑む姿を描く。ユーモアたっぷりでいて、労働者たちの厳しい現実や夫婦問題、ジェンダーなど社会的テーマを深淵に映し出している。第70回アカデミー賞では作品賞や監督賞(ピーター・カッタネオ)などにノミネートされるも、大作『タイタニック』が席巻したこともあって作曲賞(ミュージカル/コメディ)のみの受賞だったが、第51回英国アカデミー賞では作品賞、主演男優賞(ロバート・カーライル)、助演男優賞(トム・ウィルキンソン)、観客賞を受賞。
●JUNO/ジュノ(2007年)
『ゴーストバスターズ』(1984年)のアイバン・ライトマン監督の息子ジェイソン・ライトマンが、サーチライトの元で長編監督デビューした『サンキュー・スモーキング』(2005年)に続いてメガホンを取った。主人公は、予期せぬ妊娠をした16歳の女子高生ジュノ(エレン・ペイジ※2020年にエリオット・ペイジに改名)。養子に出すことを決意し、出産するまでが描かれていくなかで戸惑いや悩みに直面しつつも、おしゃべりなジュノにリードされて全体のトーンは軽やかだ。製作費は推定750万ドルとまさに低予算で、最初の劇場公開上映館も少なかったが、口コミで広まってヒット。北米エリアでの公開当時、サーチライトの最高興行収入を記録したといわれる。第80回アカデミー賞で脚本賞を受賞。
●ダージリン急行(2007年)
ポップな色使い、細部まで選び抜かれた美術、シンメトリー(左右対称)の構図など、これぞという作家性でファンが多いウェス・アンダーソン監督は、サーチライトとタッグを組む常連の一人。そのタッグ1作目が本作となる。1年前の父の死をきっかけに絶交していた3兄弟が、再び絆を取り戻そうとインド北西部を走るダージリン急行で旅することに。それぞれ問題を抱えて大人になりきれない3人は衝突しながら旅が続く。独特の笑いのセンスとインドの美しい風景に包まれるなか、兄弟が持つ11個ものトランクが印象的。数の多さもだが、実はハイブランドの特注品というおしゃれさ。そして物語の重要なポイントでもあるという、小道具に意味を持たせた監督の世界を堪能できる。
●(500)日のサマー(2009年)
長くミュージックビデオを手掛けていたマーク・ウェブ監督は、長編映画初挑戦の本作で高い評価を得て、製作費も莫大なメジャースタジオによる『アメイジング・スパイダーマン』(2012年)の監督に抜擢されるにいたった。物語は、地味な毎日を送る青年に訪れた恋。運命の恋を信じる彼と、信じない彼女の紆余曲折を、出会って488日の冒頭から始まって時間を行きつ戻りつしながら描いていくスタイルながら、見る者を置いてきぼりにせず心情を伝える構成が見事だ。
●女王陛下のお気に入り(2018年)
サーチライト配給による、鬼才ヨルゴス・ランティモス監督が18世紀初頭のイングランドを舞台に女王と彼女に仕える2人の女性の攻防を描いた歴史ドラマ。愛、嫉妬、陰謀…、豪華絢爛な宮廷で繰り広げられる鬼才と呼ばれる所以の強烈さ。監督が本作の撮影方法を紹介した特別映像で「超広角レンズの映像がいびつな世界観を引き立てる」と語ったこだわりも見どころだ。女王を演じたオリヴィア・コールマンが第91回アカデミー賞で主演女優賞を受賞。なお、監督は本作で2番手だったエマ・ストーンを主演に迎えた次作『哀れなるものたち』(2023年、こちらもサーチライト配給)でも2024年の第96回アカデミー賞を賑わせ、エマは主演女優賞を獲得した。
(文・神野栄子)