史実に基づいた作品や、時代小説を原作にした現代にも通じる“人情”溢れた作品など、いろんなタイプの作品が存在し、今なお人気の高い“時代劇”。あまたの時代劇作品の中から、映画史に名を刻むマスターピースをピックアップして紹介。
●たそがれ清兵衛(2002年)
時代小説の第一人者、藤沢周平の作品を「男はつらいよ」シリーズや『幸福の黄色いハンカチ』などを手がけた山田洋次監督が、構想に10年以上、時代考証に一年以上を費やし、満を持して挑んだ作品。主演はハリウッドで活躍する真田広之、ヒロイン役を宮沢りえが演じ、そして世界的舞踏家の田中泯が敵役として出演。時代は幕末、庄内・海坂藩の下級藩士・井口清兵衛(真田)は、妻に先立たれ、幼い二人の娘と年老いた母の世話、借金返済の内職のために、御蔵役の勤めを終えるとすぐに帰宅することから“たそがれ清兵衛”と呼ばれていた。思いを寄せていた幼なじみの朋江(宮沢)を酒乱の夫・甲田から救ったことで、剣の腕が立つことを知られ、藩命により上意討ちの手に選ばれた。人を斬ることを断りたい清兵衛だったが藩命には逆らえず、朋江に思いを打ち明け、藩随一の一刀流の使い手で、謀反の切腹を不服として立てこもる余吾(田中)と対決する。息の詰まるような対決シーンが見どころなのはもちろんだが、当時の下級武士と家族の姿を丁寧に描かれているところもこの作品の魅力になっており、作品としても高い評価を得て、第76回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートもされた。
●武士の一分(2006年)
『たそがれ清兵衛』『隠し剣 鬼の爪』に続く、山田洋次監督による時代劇三部作の完結編。役目のために失明した下級武士を支える妻と仲間、そして一分を通すため復讐に挑む侍の姿を描いた作品となっている。主人公の武士・新之丞を木村拓哉が演じ、妻・加世を檀れいが演じ、第30回日本アカデミー賞で優秀賞最多13部門を受賞。復讐譚でありながらも、優しい愛妻物語でもある本作。歴史上の人物ではない、地方の下級武士に焦点を当てた本作からは『たそがれ清兵衛』同様、人間味や当時の生活のリアルさ、生々しさが感じられる。
●七人の侍(1954年)
言わずと知れた黒澤明監督による名作時代劇。戦国時代、野武士たちの襲撃に恐れおののく村があり、村人たちは用心棒として侍を雇うことにした。侍探しは難航するが、才徳に優れた七人の侍が決まった。破格の制作費と年月をかけて作られた日本映画史上空前の超大作。今見てもその迫力、衝撃は変わらず、感動を与えてくれる。本作は、日本だけでなく、海外でも人気が高く、映画制作者に大きな影響を与えている。70周年を迎えた2024年、カンヌ国際映画祭で新たに4K新インテグラル版が世界初上映されたのも大きな話題となった。
●魔界転生(1981年)
伝奇作家・山田風太郎の作品を、『仁義なき戦い』や『蒲田行進曲』などを手掛けた深作欣二監督が映画化。島原の乱により、幕府への復讐のために魔界の神に魂を売った“天草四郎時貞”を沢田研二が演じ、剣豪・柳生十兵衛を千葉真一が演じた。真田広之、緒形拳、若山富三郎、丹波哲郎ら豪華キャストが出演している。エンターテインメント性の高い作品で、江戸城が炎に包まれる中での、沢田研二と千葉真一の一騎打ちは大きな見どころ。炎はCGではなく、セットに火を放って炎上させていることもあって、その迫力は桁違い。
●壬生義士伝(2003年)
浅田次郎の同名時代小説を『おくりびと』の滝田洋二郎監督が手がけた時代劇大作。幕末の混乱期に尊皇攘夷の名のもと、京都府中守護の名目で結成された新撰組の隊士の一人、吉村貫一郎。名誉を重んじ、死を恐れない武士の世界において、彼は“生き残りたい”と熱望し、金銭を得るために戦った。それは全て、故郷の妻と子供たちを守るためだった。主演は中井貴一、他に佐藤浩市、夏川結衣、堺雅人らが出演。新撰組を描いた時代劇作品も数多く存在するが、吉村を主人公にした本作は、他とは違うアプローチが描かれており、新撰組の新たな一面が感じられる。
●鬼平犯科帳 血頭の丹兵衛(2024年)
池波正太郎原作の「鬼平犯科帳」は時代劇の中でも人気が高く、多くの俳優が“鬼平”を演じてきた。本作は松本幸四郎を主演に迎え、新たに映像化した「鬼平犯科帳」シリーズ第4弾(レンタル配信中)。時代劇の数が減ってきている状況ではあるが、時代劇人気は根強く、最新でありながら最高傑作と言える作品が生まれた。この作品を見ると“時代劇”の良さを再確認でき、そこに描かれる“人情”などは現代に通じるものがあるということもわかる。シリーズ第1弾『鬼平犯科帳 本所・桜屋敷』、第3弾『鬼平犯科帳 でくの十蔵』(いずれもレンタル配信中)もあわせて見てもらいたい。
(文・田中隆信)