1990年生まれの俳優・池松壮亮。子役からキャリアスタートし、映画デビューはハリウッド製作の『ラスト サムライ』(2003年)で、トム・クルーズ演じる主人公と心を通わせる少年の役でキラリと光るものを残した。以来、多くの作品に出演する池松だが、2024年はフジテレビ系の月9ドラマ『海のはじまり』、そして主演映画『本心』など、“泣き”の演技が注目される年となった。そこで、池松の泣きのシーンがある過去出演作を紹介。心震える演技を堪能してほしい。
池松壮亮の“泣きの演技”に心震える!
●横道世之介(2013年)
原作は吉田修一の青春小説。1980年代を舞台に、長崎から大学進学で上京したお人好しの横道世之介(高良健吾)が、お嬢さま育ちの与謝野祥子(吉高由里子)らと過ごす青春の日々を、16年後の様子も交えながら描く。池松が演じるのは、世之介と大学の入学式で出会う、ちょっとテンション高めな性格の倉持一平。世之介と一緒にサンバサークルに入り、同級生の唯(朝倉あき)と付き合い始めるが、唯が妊娠して大学を辞めることに。新生活のために世之介からお金を借りた一平は、引っ越しも手伝ってくれた世之介に涙ながらに感謝し「俺、がんばるから!」と伝える。そのときの一平は、世之介に背を向けたまま。ストーリーからすればほんの少しだが、後ろ姿での男泣きは印象的だ。世之介の優しさに触れた一平の思いを存分に表現していた。
【レンタル】330円(税込)~ 【購入】2,200円(税込)~
●ぼくたちの家族(2014年)
早見和真の小説を石井裕也監督が映画化。ちなみに石井監督と池松は、本作ほか2024年公開の映画『本心』まで9作品でタッグを組んでいる。両親と息子2人のごく平凡な一家である若菜家。ある日、母・玲子(原田美枝子)の物忘れが激しくなり、検査した結果、脳腫瘍で余命1週間と宣告される。父・克明(長塚京三)は突然のことに取り乱し、親思いで妻が妊娠中の長男・浩介(妻夫木聡)は、しっかりしなければと思いつつ、明らかになった借金に苦悩する。池松は楽天的な大学生の次男・俊平役。最初、玲子から物忘れを相談されたときに、よくあることだと受け流し、病気が発覚しても兄に頼る態度だった。しかし、家族で一緒に“悪あがき”することを選択し、兄と手分けして病院探しに奔走するように。ようやく見つかった病院での緊急手術。俊平は父と兄の前で「お母さん、ダメになるかと思っちゃった」と涙をこぼした。演じる池松の顔はアップにならず、3人を1画面にとらえた中で、うつむく姿、すすり泣きの声と、全身で泣きの感情を伝える。
【レンタル】330円(税込)~ 【購入】2,200円(税込)~
●宮本から君へ(2019年)
新井英樹のコミックを、テレビ東京系で放送された連続ドラマで前半、映画で後半を描いた。不器用で世渡り下手だが正義感は人一倍強い文具メーカーの営業マン・宮本が、会社の先輩の紹介で知り合った靖子(蒼井優)と付き合うことになり、仕事や恋愛で悪戦苦闘する。ドラマ版に続いて主人公の宮本に扮した池松が激しい感情の演技を見せ、泣きのシーンも満載だ。冒頭から血まみれの宮本が泣きながら自分を殴る。その理由はのちに明かされていくのだが、本当に壮絶なシーンが続く。がむしゃらに全身全霊で生きて、愛する靖子と向き合うゆえの涙なのだ。靖子を連れて帰った実家で、夜に1人涙があふれる宮本。靖子の元恋人が乗り込んできたときに「俺が守る」と宣言して抱きしめたときの決意の涙。自分が酔い潰れている間に靖子がレイプされてしまったことを知ったときの絶望感漂う大粒の涙。血まみれで涙が分からなくなりそうな激しいなかにも、いろんな思いがこもった泣きの演技を披露。それを経てのラストで見せるひと筋の涙にも心打たれる。また、蒼井の泣きの演技もしびれることを付け加えておきたい。
【レンタル】220円(税込)~ 【購入】1,100円(税込)~
●愛にイナズマ(2023年)
松岡茉優×窪田正孝W主演の石井裕也監督作品。26歳の折村花子(松岡)は念願の映画監督デビューを控えるも、家賃を滞納して強制退去寸前になったり、助監督から露骨なセクハラを受けたりと、なかなかうまくいかない。そんなとき、立ち寄ったバーで舘正夫(窪田)と出会い、ようやく人生が輝き出すかと思われた。だが、卑劣で無責任なプロデューサーにだまされ、ギャラももらえず、大切な企画も奪われてしまった。反撃を誓った花子は、運命的に出会った恋人と共に、長年音信不通だった家族を訪れる。ダメダメな家族が抱えるある秘密が明らかになった時、花子の反撃は予想外な方向に進んでいく。松岡、窪田のほか、花子の父・治を佐藤浩市、⻑男・誠一を池松壮亮、次男・雄⼆を若葉竜也と、巧みな演技で知られる俳優陣が集結。その中で池松が見せる泣きの演技は、“母が消えた理由”、そして父の秘密も明らかになったラスト。花子の涙に誘われて、雄二に次いで誠一も涙があふれ出す。ほんの短い瞬間でも、それまでのシーンでつないだ思いがぎゅっと凝縮されていて、胸に沁みる涙だ。
【レンタル】440円(税込)~ 【購入】2,200円(税込)~
(文・神野栄子)