2025年の干支は巳(み)。十二支の動物では蛇だ。蛇は、七福神の一人である弁財天の使者といわれ、脱皮することから再生や成長、繁栄の象徴とされるなど、古くから縁起のいい生き物と伝わる。その一方で執念深い生態や、見た目や動きもあって、怖い、不気味という印象も強い。そこで今回は、怖いイメージにちなんで、“蛇”がタイトルに入ったサスペンスorミステリー映画を3作品紹介!
●蛇の道(2024年)
鬼才・黒沢清監督が哀川翔と香川照之の共演で1998年に劇場公開した作品を、フランスに舞台を移してセルフリメイク。新たに主演に迎えたのは柴咲コウだ。8歳の娘を何者かに殺されたアルベール(ダミアン・ボナール)は、偶然出会ったパリで心療内科医をしている小夜子(柴咲)の協力を得て犯人探しに没頭し、復讐に燃える。事件に絡む元財団の関係者たちを拉致監禁していくが、やがて思いもよらぬ真実が浮かび上がる。メインビジュアルにも使われた小夜子とアルベールが黒色の物体を運ぶ姿。その物体は、寝袋に入れた拉致した男だ。引きずったあとに倒れた草でできる道は蛇が通った跡のよう。そんななかで次第に疑問として大きく膨らんでいくのが、小夜子がなぜ復讐に協力するのかということ。謎めいた小夜子が不意に見せる冷たい目つき。“蛇に睨まれた蛙”という比喩があるが、見ているこちらもすくんでしまう冷たさなのだ。公式のインタビュー動画で、柴咲を起用した理由について「目つきがいい」と語った黒沢監督。その目つきがミステリアスさに拍車をかけてもいるし、残忍な行動をする狂気や怖さが醸し出されている。小夜子の内に“蛇”がいるということなのか…。小夜子の患者である芳村(西島秀俊)、日本に住む小夜子の夫・宗一郎(青木崇高)との様子も謎に満ちながら、衝撃的なラストへと向かう。
●虹蛇と眠る女(2015年)
ハリウッドで活躍するニコール・キッドマンが25年ぶりに母国のオーストラリアで主演した本作。「Strangerland(見知らぬ大地)という原題から変更された邦題は、劇中に登場するオーストラリアの先住民族アボリジニの伝説から。ある事情から砂漠地帯の小さなまちに引っ越してきたキャサリン(ニコール)とマシュー(ジョセフ・ファインズ)だが、満月の夜に2人の子どもたちが姿を消す。すると、キャサリンたちの家に出入りしていた青年の甥であるアボリジニの少年が「虹の蛇が飲みこんだ。歌えば戻ってくるよ」と言うのだ。虹の蛇が登場する神話はオーストラリア以外にもあるそうで、創造神であったり、生物にとって大切な雨を降らせる力があると考えられたり、神聖な存在。それにちなんでか、俯瞰(ふかん)のカメラワークで映し出される広大な大地には、道なのか木々の連なりなのか分からない風景が広がり、それがまるで蛇が地を這った跡のように見えてくる。それとともに、子どもたちが出会った青年のタトゥー、姿を消した長女が書いた日記にあった「蛇に乗ろう」という一文、子どもたちを探すキャサリンが驚いた蛇の死骸と、ところどころで“蛇”が存在感を放ち、不穏な雰囲気を帯びて、心理サスペンスとしてキャサリンが抑えていた内面にフォーカスしていくことに。ニコールの体当たり演技に目を見張る。
●蛇に濡れる女(2022年)
最後は、ロシア発の作品。性に奔放な女性監察医が主人公のミステリーだ。ある夜、ドライブ中に全裸の女性を保護した監察医のリザ(ルケリヤ・イリヤシェンコ)は、出会ったばかりのその女性と肌を重ねてしまう。後日、検死に向かうと、保護した女性が亡くなっていた。首には絞められた跡、体内から見つかった強力な筋弛緩剤、そして胸部に焼き付けられた建物の写真。担当刑事と共に事件解決に向けて奔走するが、同じ状況の殺人が連続し、犠牲者はいずれもリザが肉体関係を持った相手だった。官能的描写と謎が絡み合う展開。それを表すかのように2匹の蛇が不気味に絡み合う映像が差し込まれる。原題の『ОДЕРЖИМАЯ』は「取りつかれた、執着」という意味で、蛇のイメージにも通じるが、視覚ではっきりと示される姿、体をくねらせる動きに加え、ウロコが規則的に連なった体表の艶やかさがゾクッとさせる。その不穏さに隠された真実がじわじわとわき出ていく。
(文・神野栄子)