高校や大学卒業後に、女子選手の競技登録者数は大きく減ってしまう。その背景を探っていくと、環境や仕事との両立、モチベーションの維持など、様々なハードルが見えてくる。スポーツ用品を手がける株式会社モルテンは「KeepPlaying プロジェクト」を通じて、そんな女子選手のサポートの輪を広げてきた。神宮美和さんは30代の時に、2人の息子とともにラグビーを始めて競技歴は20年になる。家族で競技を楽しみ、“試合をする機会がない”という課題を克服するため、様々な年代が参加できるラグビーの交流大会を創設。21回目を迎えた今では、小学生から60代のママさんまでがカテゴリー別にゲームを行えるまでになったという。「年齢を重ねても好きなラグビーを続けてこられた」秘訣とは? グラスルーツの女子ラグビーを取り巻く環境についても話を聞いた。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=神宮美和)
好きなプレーはジャッカル
――まず、神宮さんのラグビー歴について教えていただけますか?
神宮:2人の息子が前橋ラグビースクールに通い始め、息子たちの送迎をしていた時に、その傘下にある前橋レディースRFCの方からお誘いいただき、入部しました。30歳すぎてからラグビーを始めたのですが、それから20年近く、プレーヤーとして現役で頑張っています。
――子育てをしながら続ける上では大変なこともあったと思いますが、それでも続けることができたラグビーの魅力はどんなところですか?
神宮:激しいぶつかりあいやタックル、スピード感あふれるパスや走りだと思います。いろいろなポジションがあり、キックやパスで様々なプレーができる自由なところが好きです。また、「One For All All For One(ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために)」や、ノーサイドの精神も好きなところです。何より、仲間がいることと、楽しいことがいちばんの原動力ですね。ただ、ラグビーはぶつかりあいのスポーツなので、継続していくことはハードルが高いと感じます。
――そのハードルをクリアするために、普段の生活からどんなことを心がけているのでしょうか。
神宮:ジョギングや筋トレは続けてきました。最近はYouTubeを見ながらトレーニングをしています。
――神宮さんが好きなプレーや、上達するために取り組んでいることがあれば教えてください。
神宮:私はディフェンスが好きなので、タックルやジャッカル(タックルで倒れた相手のボールを奪うプレー)を頑張りたいと思っています。ケガをしないようにト
レーニングや練習は欠かせません。年齢とともに難しくなってきてはいますが……。
――前橋レディースRFCは、どのような雰囲気のチームなのですか?
神宮:、楽しく明るいチームです。最近はメンバーが少ないので前橋ラグビースクールの女の子だけのチーム「ラビッツ」と一緒に、週1回、和やかに練習しています。大会の前は、成人だけで練習しています。以前は練習後に食事などにも行っていたのですが、コロナ禍もあり機会が少なくなってしまいました。
――真夏や真冬も練習は欠かさずやっているのですか?
神宮:はい。メンバーが少ないのは悩みですが、天気さえ良ければ、週1回の練習は欠かさずやっています。
増えている女子ラグビー人口。幼稚園や小学生から始める女の子も
――女子ラグビーの競技人口は少しずつ増えているそうですが、20年間近くプレーされてこられた中で、競技環境の変化について感じることはありますか?
神宮:以前はラグビーをしている女の子は少なく、中学生までにやめてしまう子が多かったと思います。今は幼稚園や小学校から始める女の子もいます。女子ラグビー部がある中学校、高校が少ないので、活動の場が少ないです。女子だけでできる場も少ないです。20年前は群馬には女子チームが前橋以外にもあったのですが現在は活動してなく、社会人になって続けていくことも大変です。人が足りなくてチームが組めずに試合ができないなど、私の周りでは人集めに苦労しているチームが多いですね。群馬では2022年に女子ラグビー選手の活動の場を提供、生涯スポーツとして発展させるためNPO法人群馬プライムスが発足しました。小学生から成人まで各カテゴリー別に活動を始めました。私も会員です。
――チームとして、目標にしている大会はありますか?
神宮:前橋レディースの創設メンバーが、自分たちが参加できる試合の機会を作るために「前橋市長杯ローズカップ」という大会を立ち上げました。みんなで協力して作り上げてきた大事な大会で、毎年秋に開催しています。今年度で21回目になります。この大会を継続して開催していくことと、優勝することが目標です。
――ラグビーを楽しめる場所を自分たちで作って、育ててこられたのですね。「ローズカップ」の参加者の年齢層や、大会の雰囲気はどのような感じですか?
神宮:エンジョイラグビーの交流大会として、関東近県の女子チームが参加していて、小学生から60代のママさんまでいます。コロナ禍から、ローズカップを「女子ラグビーの日」にしようと、群馬県ラグビーフットボール協会、群馬プライムスの協力を得て、小学生から成人まで各カテゴリー別にゲームを行うようになりました。今後もローズカップ=「女子ラグビーの日」として、大会を開催していきたいと思っています。また50代、60代も参加し続けられるような工夫をしていきたいと思っています。
ラグビーは生涯スポーツ? 男性は60代、70代で続けている人も
――高校卒業後にさまざまな競技で女子アスリートの競技登録者数が激減してしまう問題を解消するための「KeepPlayingプロジェクト」の活動について、どのような印象がありますか?
神宮:大変よい取り組みだと思います。平均寿命が伸び、今は80、90歳でも元気な方がたくさんいます。運動をして身体を鍛えることは、心身ともに健康であり続けることにつながると思います。また、チームに所属していると家族以外の人との関わりができるので、人間関係も豊かになりますから。
――キャリアの中で、スポーツを続けるかどうかについて悩んだ時期や転機はありましたか?
神宮:小学生から中学生までバスケットボールをしていて、高校もバスケ部に入部したのですが、チームの雰囲気が合わず、すぐに退部していまいました。私が負けず嫌いで、むきになって練習している姿を否定されたことが原因でした。私が幼かったせいもありますが、チームメートや先生ともっとコミュニケーションをとっていけたらよかったです。
それから母親になり、息子たちと一緒にラグビーを始めるまで、スポーツとは無縁の生活でした。ラグビーに誘っていただき、はじめは絶対無理と思っていたのですが、ボールを持って走ったら楽しくてやめられなくなりました。年齢とともにケガ等のリスクが上がるので、50歳をすぎた今、そろそろ引退の時期なのか、違うスポーツをするほうがよいか悩むことはあります。しかし、男性は60歳、70歳でもラグビーを続けている方がたくさんいますので、女性もラグビーを続けられる環境ができるといいなと思います。また、今の若い世代がずっとラグビーが続けられるように、私の年代の人たちがやめずに続けていくことに意義があるのでは、と考えています。
――女性が好きなことを続けるためには、社会、環境、個人、チームなど、さまざまな視点からどのようなことが課題だと感じていますか?
神宮:仕事や出産、育児をする中で、好きなことをする時間や、自分のためだけに行動する時間を作ることは大変なことだと思います。私は母親になってから本格的に運動を始めたので、子どもと一緒に運動できる場所や、子どもたちが習い事をしている間などに自分の時間が持ててよかったです。それには家族の協力も必要です。また、目標に向かって努力したり、一緒に頑張る仲間がいたりすると、続けやすいと思います。
ラグビーが家族共通の話題に。「子どもたちの反抗期がなかった」
――神宮さんがご家族にサポートしてもらっていると実感するのは、どんな時ですか?
神宮:主人は大学の時にラグビーをしていたのですが、今は見ることを楽しんでいます。息子たちがずっとラグビーをやっていたので、小学生のころはよく一緒にラグビーをして遊んでいました。学校が終わった後や、休日に家族みんなでラグビーをして、家族共通の話題になり、会話が多くなったのは良かったですね。そのせいか、子どもたちの反抗期がなかったように思います。
――ラグビーが家族の絆を支えるコミュニケーションツールになっていたんですね。
神宮:親はどうしても「こうしなさい」と言いたくなってしまいますが、ラグビーに関しては息子たちの方がよく知っていますし、私のほうが息子たちから学ぶことが多かったです。また頑張っている母親の姿を見せられたこともよかったのかと思います。高校生、大学生になると「こういう時はどうするの?」と聞いて教えてもらったり、相談したりすることができるようになりました。ある意味で私の先生のような存在だったことも、反抗期がなかった理由だと思います。
――トップレベルだけでなく、グラスルーツからでも女子ラグビーを長く楽しむために「こうなってほしい」と思うことや、実際に工夫していることはありますか?
神宮:日常生活の中で、活動の場があること、仲間がいること。また、同年代で同じくらいの体力の人たちとゲームができたらいいですね。ただ、女子ラグビーはまだまだ中高年の競技人口が少なく、課題が多いと思います。
私は子育てを終えて自分のためにスポーツをする立場なので、やはり「楽しい」と思えることが大切だと思っています。いくつになっても練習すると上達して達成感が得られますし、コーチや指導者に褒められるとうれしくなり、継続して「頑張ろう!」という気持ちになれますから。最近よくやっているのは、タグラグビー(*)です。タックルなどのコンタクトプレーがないので、初めての人でもママさんでも続けやすいですし、ぜひやってみてほしいです。
(*)ボールを持って走りながら、相手をかわしたり、パスしながらゴールに向かって得点する。身体接触がなく、相手がつけているタグをとって、相手の前進を止める(守備)。
目標は「長く続けていくこと」
――前橋レディースRFCの目標と、個人としての目標をそれぞれ教えてください。
神宮:チームの目標は、メンバーを増やして、前橋レディース単独でローズカップに参加し優勝することです。小学生から成人まで参加できる大会として女子ラグビーを盛り上げていきたいです。また、50歳以上になっても参加できるような大会を開催したいです。個人の目標は、長く続けていくことです。
――今は部活の地域移行化なども進められて、地域でいろいろなスポーツを体験できるような環境も広がっていく可能性がありますが、機会があったら他に挑戦してみたいスポーツはありますか?
神宮:テニスは高齢でもやっている方が多いので、挑戦してみたいですね。ゴルフにも興味があります。私は不器用なのでラケットなどの道具を持つとあまりうまくいかないことが多いのですが……(笑)。
――最後に、長くラグビーを続けていくためにご自身が行動していきたいことがあれば教えてください。
神宮:十分な睡眠をとり、早寝早起きを心掛け、適度な運動をして心身ともに健康でいたいと思っています。
<了>
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[PROFILE]
神宮美和(しんぐう・みわ)
1971年生まれ、山梨県出身。夫の仕事の都合で群馬県に転居。小学4年生からバスケットボールをはじめ、高校1年生で退部。33歳で前橋ラグビースクール傘下の前橋レディースRFCに入部。以来20年近くプレーヤーとして活動し、現在はキャプテンを務める。ママさんプレーヤーが参加できるように立ち上げた前橋市長杯ローズカップを開催し、自身もさまざまな交流大会に参加している。(下記写真:2023年第21回前橋市長杯ローズカップ後の集合写真。前列の左から2人目が神宮さん)