Infoseek 楽天

バレー石川祐希、王者への加入決めた覚悟の背景。日本のSVリーグ、欧州王者への思い「身長が低くても世界一になれると証明したい」

REAL SPORTS 2024年5月21日 7時52分

2023-24シーズン4冠の名門――。バレーボール男子日本代表を主将として牽引する石川祐希が新たな移籍先に選んだのは、世界最高峰のイタリア・セリエAで王者に君臨するペルージャだった。日本の「SVリーグ」のチームからのオファーもあったと認める石川が語った胸の内とは? 改めてこれまで“日本のエース”石川祐希が歩んできた道のりを辿ると、自らの価値を証明し続けてきた男の確かな足跡が見えてきた。

(文=米虫紀子、写真=PA Images/アフロ)

4冠達成を果たした“王者”の一員に加わる日本のエース

かつて自ら「高さは正義」と語っていたことがある。そのバレーボールでも、日本人選手はまだまだ高みへ行ける。プロバレーボールプレーヤー石川祐希は、それを証明し続けている。

主将として日本代表を世界ランキング4位にまで引き上げただけでなく、世界最高峰のイタリア・セリエAで9シーズンをかけて着々と結果を積み上げ、自身と日本人選手の評価を高めてきた。

そしてついに10シーズン目となる2024-25シーズン、セリエAのトップチーム、ペルージャへの移籍を実現させた。

ペルージャは2023-24シーズン、イタリア代表の主将でセッターのシモーネ・ジャネッリ、ポーランド代表のウィルフレド・レオン、カミル・セメニウクといったスター選手を擁し、セリエAのプレーオフ準決勝で石川の所属していたミラノ、決勝で髙橋藍のいたモンツァを破り優勝。世界クラブ選手権、イタリアスーパー杯、コッパ・イタリアとの4冠を達成した。日本のエースが、その“王者”の一員に加わることになる。

「セリエAというリーグ自体知らなくて…」

石川とイタリアの縁がつながったのは中央大学1年の時。セリエAの強豪チーム・モデナに短期留学したのが始まりだった。

モデナのあるエミリオ・ロマーニャ州は広島県との交流が盛んなこともあり、当時モデナは日本人の若手選手の獲得を目指していた。そこで、ユース代表で活躍していた石川に白羽の矢が立った。それまで海外リーグに興味を持ったことがなかった石川は、「セリエAというリーグ自体知らなくて、強いリーグなのかもわからない、まったく無知な状態だったんですけど、『どんな感じだろう?』と興味がわいて」モデナに行くことを決断した。

当時のモデナにはブラジル代表セッターのブルーノ・レゼンデやフランス代表のアウトサイド、イアルバン・ヌガペトなど各国の代表選手が揃っており、シーズン途中に合流した石川が試合に出場する機会は少なかったが、大きな刺激を受けた。以来、イタリアのトップ4、モデナ、ペルージャ、トレント、チビタノーバのいずれかのチームでレギュラーとして優勝争いをすることが目標となった。

まずは試合に出られることを最優先に考え、2016-17シーズンにセリエAの下位チームだったラティーナへ。そこからシエナ、パドヴァ、そしてミラノへとステップアップしていった。大学を卒業してプロ選手になってからは「目標は世界一のプレーヤー」と公言するようになった。

4季所属したミラノでは、リーダー格としてチームをまとめ、2022-23シーズンは4位、2023-24シーズンは3位に。チームを勝たせられる選手となり、ペルージャに迎えられた。セリエAのトップ4の勢力図は変わってきているが、その中でもペルージャは安定して高い成績を残しているチームだ。

ペルージャ移籍は“世界一のプレーヤー”に近づくチャンス

5月17日に行われた移籍会見で、石川は決断の理由や目標、今の思い、これまでの過程などを明快に語ってくれた。

「1月末ぐらいからエージェントと話し始めて、イタリアに残りたいという思いと、トップチームでプレーするという目標がずっとあったので、とてもいいタイミングでペルージャからのオファーがあった。他のクラブからもありましたが、選手、監督も含めて、今の僕にはペルージャがあってるんじゃないかと思って、契約しました。

 ペルージャは今季(国内の)すべてのタイトルを獲得しているので、僕自身も来季は優勝のみ、目指して戦います。僕の目標である“世界一のプレーヤー”になれるチャンスが、来シーズンは目の前にある状態なので、そこを勝ち取って、優勝して世界一に少しでも近づけるようなシーズンにしたいと思っています」

これまでにもトップ4からのオファーがなかったわけではないが、「僕の感覚としては、今までは、行っても(アウトサイドの)3番手かなとか、そういうふうに捉えていました」と振り返る。

「今回に関してはそうではないし、自分も自信を持ってペルージャに行けるという、なんというか、覚悟ではないですけど、タイミングがしっかり来るべき時に来たという感じで捉えています」

日本の「SVリーグ」、そして欧州王者への思い

一方で日本では、これまでのVリーグが、2024-25シーズンから“世界一のリーグ”を目指し「SVリーグ」となって生まれ変わる。これまで各チーム1枠だった外国籍選手枠が2枠になることもあり、まだ正式発表にはなっていないものの、世界中のビッグネームが日本のチームに加入すると話題になっており、リーグのレベルアップが予想される。

5月20日には、髙橋藍がSVリーグのサントリーサンバーズに加入すると発表された。日本のリーグにとって節目のシーズンを盛り上げるという意味でも、これも意義のある決断だ。

石川にも当然日本からオファーが届いていたが、それでもイタリアを選んだ理由に、石川のこだわりが表れている。

「トップ選手が日本に行くという情報も知っていましたし、日本からのオファーもありましたけど、今回の欧州チャンピオンズリーグでトレントが優勝したように、イタリアのリーグはやっぱり世界最高峰と言われている。その中で、僕の一つの目標である『イタリアのリーグで優勝してMVPを獲る』ということを考えた時に、その目標を立てている限りは、そこを貫き通したい、と。それにやはりイタリアで、海外のトップ選手たちと練習や試合をすることが楽しいので、僕の根本にある『バレーボールが好き』とか、『バレーボールを楽しみたい』という思いを、イタリアのセリエAが一番体現できるのかなと思って、今回の決断をしました。

 SVリーグに関しては、前以上に(日本でのプレーを)考えるようにはなりました。なぜかと言うと、外国人枠が2枠になったから、日本のレベルも間違いなく上がると思うし、その中でできれば面白いんじゃないかと、そういう発想はありました。でも日本でプレーするのはまだ違うかなって。感覚的なことになっちゃうんですけど。イタリアで楽しくまだプレーできていますし、こういう(ペルージャのような)トップチームからオファーをもらえるということは、今までの僕の経験上多くはないので。

 今の若い子たちやこれからの子どもたちは、そういうオファーがもっと早くからもらえるかもしれませんけど。日本の男子バレーの価値、評価が非常に上がっているので、以前より行きやすいというのはあると思いますから。でも僕にとっては数少ないチャンスだったので、そこに挑戦というか、目標を達成するために今回は決断しました。

 それに今回に関しては欧州チャンピオンズリーグに出られる。そこで優勝した日本人選手はいませんから、そういう初めてのことを成し遂げたいなと思ったので。こうやって僕がトップのチームに行くことができれば、他の選手もそこを目指そうと思うことができますし、今バレーをやっている子どもたちにも、将来の大きな夢になると思うので、そういうところも含めて戦っていきたいと思います」

ハイレベルな競争、優勝しか望まれない環境への挑戦

2024-25シーズンのペルージャのアウトサイドは、レオンが抜けるが、今季の優勝に貢献したセメニウクとウクライナ代表のオレイ・プロトニスキは残留。ハイレベルなポジション争いが予想されるが、石川には自信が漂っていた。

「そういう選手たちとスタメンを争って勝ち取るところから始まるので、そこも一つ楽しみです。ペルージャなどトップチームには、身長やパワーがある選手が多かったと思うんですけど、僕はそういうタイプではないので、ディフェンスだったり、テクニックを生かして点数を取っていきたい。トップチームの中では身長(192cm)は一番低いほうだと思うので、そういう選手でも世界で通用する、世界一になれるということを証明する大きなチャンス。そこを証明するためにプレーしていきたい。

 今回抜けたレオン選手は、非常にパワーや高さ、サーブといった武器がある選手で、その代わりをするのは正直難しいかもしれませんが、彼より多く点を取ることは可能ですし、そういう部分でチームにいい影響を与えたい。また、僕が日本代表のキャプテンを務めていて、リーダーシップという部分でも評価されていると思っているので、イタリア代表キャプテンのジャネッリ選手たちと鼓舞し合いながら、いい影響を与えられるよう頑張っていきたいと思います」

記者会見を通して、優勝しか望まれないトップチームの一員となる責任感と覚悟がうかがえた。その環境の中でシーズンを戦い抜くことが、また石川を強くするに違いない。

石川は“世界一のプレーヤー”の条件を、こう語る。

「あくまでチームスポーツなので、チームが優勝することが絶対条件。その中でMVPを獲るということが、一つ“世界一”になったと言える条件かなと思います」

壮大な夢の実現が、石川の手の届くところに、確かにある。

<了>

髙橋藍が挑む世界最高峰での偉業。日本代表指揮官も最大級評価する、トップレベルでの経験と急成長

バレーボール男子日本代表が強くなった理由。石川祐希、髙橋藍らが追求する「最後の1点を取る力」

女子バレー・石川真佑が語る“エース”の覚悟。「勝ちたいからこそ、周りに流されちゃいけない」

髙橋藍「リベロで学べることも多い」海外で葛藤の末に遂げた進化。自ら背負う代表での責任

バレーボール界の変革担う“よそ者”大河正明の挑戦。「『アタックNo.1』と『スラムダンク』の時代の差がそのまま出ている」

この記事の関連ニュース