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岩渕真奈と町田瑠唯。女子サッカーと女子バスケのメダリストが語る、競技発展とパリ五輪への思い

REAL SPORTS 2024年7月5日 2時30分

東京五輪で女子バスケットボールと女子サッカーの話題の中心となった岩渕真奈と町田瑠唯。同じ1993年生まれの2人は、10代から競技のトップレベルで活躍してきたそのキャリアにおいて、さまざまな共通点がある。その一つが海外挑戦だ。昨年現役を退いた岩渕は、ドイツのバイエルン・ミュンヘンやイングランドのアーセナルなど、海外の5クラブで計8シーズンプレー。一方、町田は東京五輪後の2022年シーズンにワシントン・ミスティクスと契約、4人目の日本人WNBAプレーヤーになった。海外挑戦を通じての成長や競技の“本場”で経験した環境面の差、WリーグとWEリーグの発展へのアイデアや、今後のキャリアプランまで、幅広いテーマで話を聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=大木雄介)

海外挑戦でつかんだ糧と自信

――岩渕さんは19歳の時にドイツに渡り2つのクラブでプレー、2020年以降のラスト3シーズンはイングランドでもプレーしました。町田選手は2022シーズンに女子バスケ最高峰のWNBAでプレーしています。それぞれ、海外挑戦でどんなことが自分の糧や自信になったと思いますか?

 

町田:私はもともと海外に行くことは全然考えていなかったので、オファーをいただいてチャレンジしたのですが、コート上での視野が広くなり、パスの種類やバリエーションも増えて、ピンポイントで出すパスも含めてプレーの幅が広がった実感があります。アメリカは日本と比べても大きくて強い選手ばかりですけど、現地の選手やコーチから「小さいけど、大きい選手にも当たり負けしないフィジカルの強さをもっているね」と言われたことはすごく嬉しかったですし、それは自信になりましたね。

 

岩渕:私は、フィジカルでは勝てたことがないですよ(苦笑)。でも、技術だったり、ボールを早く放したりすることでかわせますし、そういう部分では戦えていたと思います。自分にとって最終的な目標はいつも「なでしこジャパンで勝ちたい」ということだったので、世界のトップクラスのディフェンダーや選手たちと日頃から戦えたのはすごくプラスになりました。日本と海外ではサッカーの種類が違うと感じていたので、その中で揉まれたことは間違いなく糧になったと思うので、だからこそ若い選手たちには「チャンスがあるなら行ったほうがいいよ」と伝えてきました。

 

――お二人のように、代表で実績を残して海外でプレーする選手が増えたことで海外挑戦への道も開かれてきていると思いますが、短期間でも挑戦することに意義があると思いますか?

 

岩渕:あると思います。海外の生活が合う・合わないもあるし、監督だったりチームメイトがいてのものなので、その環境が「違う」って思えば帰ってくればいい。それでも、一回経験することで得られるものはたくさんあると思います。

 

町田:私も、同じように「行ったほうがいいよ」と伝えます。本人に興味があって、チャレンジするか悩んでいるなら、したほうがいいと思います。

――サッカーでは欧州、バスケットボールではアメリカが競技力や観客数でもトップクラスですが、環境面ではどのような違いを感じましたか?

町田:アメリカはバスケットがメジャースポーツで、観客の熱量も違います。ホームのお客さんだけで観客席が埋まりますから。ただ、一番違うのは見せ方だと思います。40分間の試合の中で、休憩やハーフタイムにも、お客さんを楽しませるために様々なことをしているんですよね。本当にエンターテインメントという感じで見せているのでお客さんも飽きないですし、お酒を飲みながら見られるので、雰囲気そのものを楽しんでいるお客さんも多いんです。アウェイの試合では、こっちがシュート決めても拍手はなくて、ずっとブーイングされていました(笑)。そういうところでも日本との違いを感じました。他のスポーツはあまり見に行けなかったんですけど、野球場が近くにあって、外からでも、すごく盛り上がっている雰囲気をいつも感じていました。

――会場の熱量や楽しそうな雰囲気が伝わってきますね。イングランドもFAカップなどはすごくお客さんが入っている印象があります。

岩渕:アウェーのブーイングはすごかったですね。日本は娯楽が多いですが、イングランドは日曜日は家族でサッカーを見に行くことが文化になっていて、子どもたちは小さい時から地元のチームや好きなチームとともに育って大人になる、という流れがあるので、そこは日本との差を感じます。男子チームのファンやサポーターが多いのでそこをうまく取り入れているのと、女子チームもピッチ上だけではなくSNSの発信も見せ方がカッコいいし、興味をそそられるように発信するのがうまいなと感じていました。ただ、たくさんのお客さんが入るようになったのは2022年に代表がユーロで優勝してからで、リーグでは代表選手がいないチームはそこまで観客は入らなかったので。サッカーが文化として根付いているイングランドでも、代表の影響力は大きいんだなと思いました。

WリーグとWEリーグ発展の“伸びしろ”

――国内のWリーグとWEリーグがさらに発展していくために、どんなことが必要だと思いますか?

町田:今は男子バスケットのBリーグがすごく盛り上がっているので、Wリーグも負けないぐらいに盛り上げていきたいですけど、まずは知ってもらうことが大事だと思います。実際に見てもらったら「楽しい」と言ってくれる人も多いので、その機会を増やしていくためにも、代表活動は大事にしたいですね。今はメディア露出を増やして頑張っている選手たちもいるので、そういう選手たちを通じてリーグのことも知ってもらって、お客さんやファン層が広がって、バスケットを楽しんでもらえたらいいなと思います。

岩渕:選手は本当に自分たちがやるべきことに集中していいと思うんですよ。メディアのSNSチームだったり、WEリーグだったり、協会だったり、そういう人たちがもっともっと本気になることで少しずつ変わってくると思います。

――女子スポーツは高校や大学卒業などの節目で競技をやめてしまう選手も多いというデータがありますが、環境面ではどんなことが課題だと思いますか?

岩渕:自分たちが小さい時は公園でボールを蹴れていたのに、今は蹴れなくなっていたりとか、そういう状況の変化もありますが、中学年代で入れるチームが少なくてやめちゃう子が多いという女子サッカーの課題ってずっと変わってなくて。だから難しいですけど、小さい時からサッカーに触れ合う環境や、プレーできる環境をもっともっと作れたらいいなと思います。

町田:バスケットは1チームあたりの人数が少なくて、チーム数も少ないので入れる選手が限られてしまうというのはあると思います。「目指したくても入れなかった」という選手の話を聞くことも少なくないです。でも、その年に入れなくても、次の年は入れたりすることがあるので、諦めずにチャレンジしてほしいです。今は韓国のリーグにもトライアウトで入れる機会はあるので、海外の違う環境に行ってみるのもいいと思います。

パリ五輪では世界一の強豪国と同組に

――パリ五輪に臨むそれぞれの代表チームの展望を聞かせてください。なでしこジャパン(FIFAランキング7位)はランキング1位のスペイン、9位のブラジル、36位のナイジェリアという強豪グループに入りました。

岩渕:難しいグループだなと思いますけど、今の代表はメンタルが強い選手も多いので期待しています。その選手たちが去年のワールドカップを経験して、結果はベスト8で負けちゃいましたけど、大きい大会で強豪国と対戦して成長している段階だと思います。グループステージを勝ち抜くことができたら、その先は自信を持って戦えると思うので、まずは最初の3試合を一試合一試合頑張ってほしいです。

――アカツキジャパン(FIBAランキング9位)は、オリンピック7連覇中(ランキング1位)のアメリカ、19位のドイツ、6位のベルギーと、こちらも強敵揃いのグループです。町田選手はメンバーに選ばれたら、どんな大会にしたいですか?

町田:日本は小柄な選手が多いんですけど、スピードとしつこさが武器で、相手が嫌がることを40分間やり続けることを目標にしているので、そういうところを見てほしいです。私自身、監督が変わってからの代表での日が浅いので、まずは自分が仲間の特徴を理解してチームに慣れようとピッチを上げて取り組んでいます。その中でも、チームとしてやりたいことがもっとはっきりしてきたら面白いバスケットになるだろうなと思うので、そこをパリ五輪までにしっかりと準備して臨みたいです。

重なる普及への思い「競技の楽しさを伝えていきたい」

――岩渕さんは、2023年9月の引退後、解説業や普及など活動の幅を広げていますが、今後はどんなふうにキャリアを広げていきたいですか?

岩渕:とにかく、楽しむことが一番だと思っています。やりたくないことはやりたくない性格なので(笑)。今はいろいろチャレンジしていますが、やるからには楽しんでやっていきたいなと思っています。

――町田選手は、現役選手ながら、2023年9月に会社を設立してオリジナルファッションブランドを立ち上げるなど、デュアルキャリアを実践されていますね。今後のキャリアプランやイメージはありますか?

町田:私も、岩渕さんと同じでやりたくないことはやりたくない性格なので(笑)。一日中パソコンと向き合うような仕事は難しいと思いますし、好きなことをやり続けたいなと思っています。ファッションブランドを立ち上げたこともそうですし、今後は自分の会社でバスケットのクリニックとかイベントもできたらいいなと思っていて。子どもたちにバスケットを教えたり、バスケットの面白さや楽しさは伝えていきたいと思っています。

岩渕:私も指導者は無理ですけど、サッカーの楽しさは伝えていきたいです。町田選手のファッションブランドで「おしゃれなTシャツを作っているな〜」と見ていました。デザインは、もともとやりたかったことだったんですか?

町田:はい。ずっとやりたかったんですけど、タイミング的になかなかできなくて。コロナ禍が始まって家を出られなくなった時に、次のキャリアのために始めました。

岩渕:すごい! 自分にはデザインはできないです。私は競技をやめた時にサッカー以外のことが何もなくなってしまったので、現役のうちから他のことをすでに始めて、バスケと両立しているのはうらやましいですよ。

町田:岩渕さんは引退してすぐに解説をやっているのがすごいなと。私は解説はできないと思います。

岩渕:私だって最初は「絶対に無理」と思ってましたよ。でも、実際にやってみたら向上心が出てきちゃったんです(笑)。

――東京五輪の時に「2人が似ている」と話題になったことがきっかけで実現した今回の対談ですが、会う前と会った後で、お互いの印象は変化しましたか?

岩渕:中身はまったく似てないですよね(笑)。町田選手はすごく真面目で素敵な方だと思いました。

町田:いやいや(笑)。ずっとお会いしてみたいと思っていたので、いろいろとお話できて面白かったです。

【連載前編】「そっくり!」と話題になった2人が初対面。アカツキジャパン町田瑠唯と元なでしこジャパン岩渕真奈、納得の共通点とは?

【連載中編】バスケ×サッカー“93年組”女子代表2人が明かす五輪の舞台裏。「気持ち悪くなるほどのプレッシャーがあった」

<了>

試合終了後、メンバー全員と交わした抱擁。BTテーブスHCがレッドウェーブに植え付けたファミリーの愛情

Wリーグ決勝残り5分44秒、内尾聡菜が見せた優勝へのスティール。スタメン辞退の過去も町田瑠唯から「必要なんだよ」

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[PROFILE]
岩渕真奈(いわぶち・まな)
1993年3月18日生まれ、東京都出身。元サッカー日本女子代表。小学2年生の時に関前SCでサッカーを始め、クラブ初の女子選手となる。中学進学時に日テレ・メニーナ入団、14歳でトップチームの日テレ・ベレーザに2種登録され、2008年に昇格。2012年よりドイツ・女子ブンデスリーガのホッフェンハイムへ移籍し、2014年に加入したバイエルンではリーグ2連覇を達成。2017年に帰国し、INAC神戸レオネッサに入団。2021年1月よりイングランド ・FA女子スーパーリーグのアストン・ヴィラへ移籍、2021-22シーズンからアーセナルでプレーし、2023年1月からトッテナムへ期限付き移籍。昨年9月に引退を表明した。日本代表では2011年女子ワールドカップ優勝、2012年ロンドン五輪準優勝を経験。2021年東京五輪では背番号10を背負うなど、なでしこジャパンを長く牽引した。国際Aマッチ通算90試合37得点。

[PROFILE]
町田瑠唯(まちだ・るい)
1993年3月8日生まれ、北海道出身。女子バスケットボール・Wリーグの富士通レッドウェーブ所属。ポジションはポイントガード。チームの司令塔として、多彩なパスで得点を生み出す。高校3年時に全国高校総体と国体、全国高校選抜の三冠を達成し、高校卒業後はWリーグの富士通でプレー。リオデジャネイロ五輪ベスト8、東京五輪銀メダル。同大会の準決勝フランス戦では、大会新記録となる1試合18アシストを記録した。Wリーグの21-22シーズン終了後に渡米し、ワシントン・ミスティクスと契約、4人目の日本人WNBAプレーヤーに。1シーズンプレーした後、富士通に復帰。2023年9月に株式会社RUIを設立し、オリジナルファッションブランドを展開している。

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