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「サッカー続けたいけどチーム選びで悩んでいる子はいませんか?」中体連に参加するクラブチーム・ソルシエロFCの価値ある挑戦

REAL SPORTS 2024年7月9日 2時36分

「中学生になるとサッカーをやめる子が多い」。日本のサッカー界が抱える大きな問題の一つだ。さまざまな理由が考えられるなかで、原因の一つとして挙げられるのが「環境」だろう。クラブチームに入れば金銭的負担や学業との両立がネックとなる一方で、近年は部活動の情勢も厳しい。多忙を極める学校教員が部活指導に時間を割くのが難しく、また部員不足により選手が11人揃わないサッカー部が増加している実情もある。課題を解決するべく部活動の地域移行が推進され、日本中学校体育連盟が主催大会の参加資格をクラブチームまで拡大。そこで早速、東京都で初めて中体連のサッカー大会に参戦したのが、葛飾区で活動するソルシエロFCだ。今年4月にジュニアユースを立ち上げたばかりの新興チームは、なぜ対極にいた部活動に新風を吹き込んだのか。風穴を開けたクラブ代表の木村正人監督に中体連加盟の理由を聞くと、サッカーにおけるグラスルーツ(草の根)はどうあるべきなのか、その本質が見えてきた。

(文・撮影=志水麗鑑、トップ写真提供=ソルシエロFC)

ジュニアユース発足に踏ん切りがつかなかった理由

「こんなにもサッカーをやめる子が出てしまっているのか」

悲痛な叫びは、ジュニア(小学生)年代の指導者間でも漏れ伝わってくる。

2011年にソルシエロFCを発足させた木村監督は、長らくジュニア年代の指導にあたりながらも、日増しに悶々とした思いが強くなっていた。

「ジュニアの卒業生の進路は大きく分けてクラブチームか部活になりますが、サッカーをやめてしまう子もいることが気になっていたんです。6年と長いジュニア期では習熟度に差があるなかで、早期熟成型で意志の強い子はクラブチームに挑戦しますが、上達スピードがゆっくりの子、もしくは小学校5年生や6年生からボールを蹴り始めた子は、中学生になってもサッカーを続けようかどうか悩むようです。それでも今までは部活で楽しくサッカーしていましたが、部活の状況が厳しくなった最近はサッカーをやめる子もいて……。サッカーを教えきれたのか、伝えきれたのか、とずっと悶々としていました」

他クラブの指導者仲間にも悩みを打ち明けたら共感を呼んだ。見えてきた傾向は、中学生でサッカーをやめる子はジュニア期に試合出場機会が少ない選手。「育成して救ってあげたい。諦めないでサッカーしよう」という思いがあったが、中学生年代のクラブチームであるジュニアユースの発足になかなか踏ん切りがつかなかった。

木村監督はこのようにジュニアユース立ち上げを迷った理由を明かす。 「ジュニアユースを発足させたくても、クラブユース連盟は敷居が高いんです。公式戦における移動の負担が大きすぎる。会場が西の果てから東の果てまで広範囲で点在しているので、クラブチームに進んだジュニアクラス卒業生の親にリアルな声を聞けば、一例を挙げると朝は5時起きで帰宅は19時頃とかもあると。しかも、試合には少しだけでも出られるかどうかで、なのに交通費は月に2万円から3万円ほどは覚悟しなければならない。そもそも、もともとサッカーはボールさえあればどこでもプレーできるスポーツで、人生はサッカーだけがすべてではないのに、移動に時間が割かれてあまり勉強ができず、経済的にも負担がかかってしまうのは、いかがなものなのかなと」

「サッカーを続けたいけどチーム選びで悩んでいる子はいませんか?」

ジュニアユースを立ち上げるからには、やはり練習の成果を出す公式戦には参加したいが、クラブユースの試合を戦うには障壁が多かった。サッカーをやめる子を救えないモヤモヤした日々を過ごしていたなか、ようやく解決策として浮上したのが中体連への加盟だった。

「スポーツ庁が地域移行を推進するようになり、『クラブユース連盟に所属していないクラブチームは中体連の大会に参加できる』という話を知人から聞いて、自分でも調べました。中体連の大会は学区で開催してくれるので、時間的ロスと経済的負担が少ない。こんなにありがたいことはないなと。これしかない!と思いましたね。そこからは迷いがなくなり、『地域で育てて、地元でサッカーがうまくなる』というコンセプトを掲げ、『サッカーを続けたいけどチーム選びで悩んでいる子はいませんか?』と他のジュニアクラブにも声をかけさせていただき、第一期生のメンバーが集まり、ジュニアユースを発足しました」

集まったジュニアユース第一期生の選手は18人。もちろんソルシエロFCのジュニアクラス卒業生が多いが、「他にもいろんなチームから来てくれて、私立中学校に通っている子もいる」という。「なかには部活で続けづらかったけど、もう一度サッカーをしたいという子もいて。あとは、初めてサッカーする子も入ってくれました」と明かしてくれた時の木村監督の表情は、特にうれしそうだった。平日の練習回数も月曜日と木曜日の週2回と、勉学との両立を意識したスケジュールで活動している。

それでも先入観は付き物だから、「クラブチームって良い選手を集めて強いんでしょ」と思われる不安があったという。いざ、中体連への加盟や大会参加を進めていくと、対戦相手となるサッカー部の顧問の先生たちには、事前に危惧した反応など一切なかった。木村監督は「感謝」という言葉を何度も、何度も繰り返した。

「最初の挨拶では、『サッカーをやめてしまいそうな子たちがサッカーを続けられるようにできたクラブなので、ぜひよろしくお願いいたします』とチームコンセプトを伝えて頭を下げたら、みなさん特に問題なく受け入れていただき、手続きもスムーズに進んだので感謝しています。また、大会ではウチの選手が通っている学校の部活と対戦する機会もあり、そこでは学校での生活状況を教えてくれました。クラブチームですけど、勉強を疎かにはできないですから、お互いに練習態度と生活態度を共有できたのはありがたい。指導に生かせるので感謝しています」

ずっとサッカーで青春してくれる選手を育てることが目標

ソルシエロFCジュニアユースとして臨んだ初の公式戦、東京都中学校サッカー選手権大会葛飾区予選は本田中学校に0-8、青戸中学校に0-9で敗戦。対戦相手は負ければ引退となる3年生が出揃う一方で、立ち上げたばかりのため1年生ばかりのチームにとっては苦しい試合となったが、木村監督は明るく振り返った。

「まず、葛飾区内の人工芝グラウンドで公式戦できたのが最高でしたね(笑)。いつもはクレーピッチで練習していますから、ありがたかったです。スコアは気にしていなくて、むしろ2学年上の3年生相手に対してよく頑張ったなと。個の技術を伸ばす目的でトレーニングを積んできたので、局面で臆せず1対1を挑んでくれたのが、大きな収穫ではないでしょうか。また、地元で行われる大会ですから、親御さんが気軽に応援しに来てくれたことも良かったなと」

ジュニアユースを発足させて3か月が過ぎ、明るい話題が届くようになった。保護者からは「ウチの子、楽しくサッカーしに行っています」とポジティブなメッセージを受け取れば、選手の出身となるジュニアクラブの指導者からは「教え子が自主練をしていたのを見かけましたよ」という声も聞こえてくる。「サッカーファミリーを掘り起こしたいんです」と胸を張る木村監督は、明確な意義を持ってソルシエロFCジュニアユースの未来を展望する。

「これからもトップレベルの選手を集めるつもりはありません。多様な子たちがいる最近は、サッカーを続けたいけど家庭環境の問題でできない子、クラブチームに行くほどの実力ではないけど部活に入るのもどうしようかと進路に悩んでいる子、勉強が不安だからとクラブチームに入れない子など、境遇はさまざまです。サッカーファミリーからこぼれ落ちそうな子の受け皿として、サッカーを楽しめる場所を提供していきたい」

選手育成の指針にもブレはない。

「一生、サッカーのプレーヤーとして楽しめるように、ボールをストレスなくコントロールできる選手を育てたいと思っています。衰えない技術を身につけられれば、この先も錆びつくことのないアイデアをたくさん出せるようになり、ずっとサッカーを楽しめる。だから正直、ジュニア年代は、チームとしては団子サッカーになりがちで、最初はなかなか勝てません。自分の技術とアイデアで、その状況を突破できる時期が必ず来ますので、保護者には慌てず、ゆっくりと見守っていてほしいと伝えています」

クラブとしての今後の目標もハッキリとしていた。

「選手個人の技術を育て、高校生・大学生になってもサッカーを続けてもらいたい。ずっとサッカーで青春してくれる選手を育てることが最大で第一の目標です。チームとしての勝利にとらわれると、個人の成長をおろそかにするときがある。もちろん負けるために大会に参加するわけでもなく、チームスポーツですから公式戦も必要ですが、個の技術を伸ばした先にチームとしても勝利を手にできた時が最高の景色になるだろうと思っています」

ソルシエロFCのような意義を持ったクラブが増える価値

木村監督の取材を終えたあと、ソルシエロFCジュニアユースの練習を見学した。トレーニングの指導にあたる大島颯斗U-15ヘッドコーチを中心に、選手たちの活気ある声も響き渡る。印象的だったのは個々のチャレンジ精神で、1対1の局面ではドリブルを仕掛ける選手が多かった。

練習場所は葛飾区内の中学校校庭で、開始時間は19時から。睡眠時間の確保を考えたら18時開始が望ましいと筆者は思ったが、グラウンドを借りられる時間が19時からだという。正規のサッカーコートのサイズはなく、ゴールを使用できない環境でもあった。

それでも木村監督を筆頭にスタッフ陣は、サッカーできる場所がある感謝を口にする。むしろ大島ヘッドコーチは「チーム戦術を落とし込みにくい環境とはいえ、個人戦術を鍛えることはできますから、伸びしろは十二分にあります」と希望に満ちていた。

そして選手たちに聞いたリアルな声は、底抜けに明るかった。ソルシエロFCを選んだ理由やサッカーの楽しさなどさまざまな質問をすると、各選手がテンポよく順々に発言してくれる。

「ドリブルが好きだからソルシエロFCに入りました!」
「中体連の大会に参加して部活チームを見ると、ソルシエロFCは自由を与えてくれるクラブだと感じました」
「ドリブルで相手をかわした時が気持ち良いです!」
「いろんなプレーにチャレンジできるのでサッカーが楽しい」

ある選手の意見は筆者の心にジーンと染みた。

「小学生の頃は知っている友達だらけだったけど、ジュニアユースに入ったら新しい仲間もできて、みんなとの交流が楽しいです!」

思わず筆者が「良い意見だね!」と言うと、選手たちは一斉に「俺ら、一瞬で仲良くなりましたよ!」と返してくれた。

ハッとさせられた。サッカーは元来、誰もが・いつでも・どこでも心から楽しめる競技であり、ボールが人と人をつないで縁や絆を生んでくれるスポーツであると、忘れがちだった真髄に改めて気づかされた。特にグラスルーツ(草の根)では、この本質を見落としてはならないし、ソルシエロFCのような意義を持ったクラブが増えてほしいと願っている。

<了>

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