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ドイツ国内における伊藤洋輝の評価とは? 盟主バイエルンでの活躍を疑問視する声が少ない理由

REAL SPORTS 2024年7月11日 2時23分

伊藤洋輝のバイエルン・ミュンヘン加入は日本でも驚きをもって報じられた。伊藤は2021年6月にドイツ・ブンデスリーガのシュツットガルトに期限付き移籍後、順調に出場時間を確保し、2022年5月に完全移籍。2023-24シーズンは新指揮官のセバスティアン・ヘーネス体制を主力として支え、リーグ戦2位フィニッシュの大躍進に貢献。迎えたシーズンオフにバイエルン移籍が発表された。バイエルンでの背番号がクラブのレジェンドであるフィリップ・ラームも背負った「21」番に決まったことからもクラブの大きな期待を感じさせる。では、ドイツでは伊藤はいったいどのような評価を受けている選手なのだろうか?

(文=中野吉之伴、写真=ロイター/アフロ)

「ヒロキは25歳ながら経験豊富。我々が求めるすべてを持っている

現在ドイツで開催中のUEFA EURO(欧州選手権)ではそれぞれの国の誇りを胸に激戦を繰り広げている。24カ国の派遣している選手の市場価値総額で最も高額なクラブがイングランド・プレミアリーグのマンチェスター・シティで14選手・推定8億2600万ユーロ(約1404億2000万円)。次いでスペイン・リーガエスパニョーラのレアル・マドリードで12選手・推定6億9200万ユーロ(約1176億4000円)、そして3位につけるのがドイツ・ブンデスリーガのバイエルン・ミュンヘンの11選手・推定5億7000万ユーロ(約969億円)。

ドイツの雄・バイエルンは、2023-24シーズンはリーグ優勝をレバークーゼンに許したとはいえ、それまでリーグ11連覇という離れ業を成し遂げ、世界屈指のスター選手を数多くそろえる伝統的なメガクラブだ。

そんなバイエルンに日本人選手が即戦力として補強されたのだから驚きだ。25歳の日本代表DF伊藤洋輝は、3000万ユーロ(約52億円)の違約金で2028年6月30日までの4年契約にサインを交わした。

バイエルンのSD(スポーツディレクター)マックス・エッベルは伊藤の獲得について、「獲得がうまくいってとてもうれしい。新しいエネルギーをもたらしてくれるハングリーな選手が欲しかった。ヒロキは我々が求めているすべてを持っている。挑戦を受け止め、継続して自分の道を歩んでいける選手だ。25歳ながら経験が豊富で、入れ替え戦やUEFAチャンピオンズリーグ出場のかかった舞台でもプレッシャーにつぶされることなくプレーできる。すぐに正しい補強となってくれるはずだ」とポジティブな言葉を並べている。

とはいえ選手補強時にクラブ関係者が選手へ期待の言葉を述べるのは通例だ。さらにバイエルンには世界に名を馳せるセンターバックが大勢いる。EUROでも印象的なプレーを見せたフランス代表DFダヨ・ウパメカーノ、バイエルンファンから絶大な信頼を寄せられるオランダ代表DFマティアス・デリフト、昨季チームの主軸として活躍した元イングランド代表DFエリック・ダイアー、ナポリ時代にセリエA最高DFと称された韓国代表DFキム・ミンジェがいる。

それでもドイツ国内で伊藤のバイエルン移籍を疑問視する声は少ない。

なぜ伊藤洋輝はドイツで高く評価されるのか?

日本国内で伊藤のことがどこまで評価されているかはわからないが、ドイツ国内における評価は極めて高い。昨季優勝したレバークーゼンと並び、ハイレベルなサッカーでヨーロッパのサッカーファンを驚かしたシュツットガルトにおいて、欠かすことができない中心選手だった。

伊藤の素晴らしさはその順応性と成長力にある。当時2部だったジュビロ磐田でプレーしていた伊藤獲得に動いたのは、スヴェン・ミスリンタート。かつて香川真司をドルトムントへと送り込み、遠藤航をシュツットガルトへと連れてきた人物であり、ダイアモンドの原石を見出す黄金の目を持つトップレベルのスカウトだ。

わずか10万ユーロのレンタル料で獲得し、当初セカンドチームに当たるU-23でじっくりと経験を積む予定だった選手が、トップチームに負傷者が多く出たという理由があったとはいえ、1年目からブンデスリーガで出場機会を手にするのはミスリンタートにとっても驚きだった。

「ドイツのインテンシティに慣れるまでに1年くらいかかるかもしれないと上層部で話をしていたんだ。ただ彼は何かをもたらしてくれる選手になれるとも話していた。ヒロキは素晴らしい左足を持っている。ビルドアップに優れ、1対1の競り合いに鋭く行ける。理性的にタックルができるし、ピッチ上でうまく気持ちをコントロールすることができる」(ミスリンタート)

当時監督だったペジェグリーノ・マテラッツォ監督も、伊藤のことになると饒舌になった。ブンデスリーガデビューとなったのは2021-22シーズンの8月に行われた第3節フライブルク戦。「ヒロキは自身の仕事を非常によくやっている。きわめて安定感があり、いいプレーができ、前線にうまくパスを通すことができる。ビルドアップからのパスは鋭く正確だ。何よりこちらの話に耳をしっかりと傾けるし、学ぶのが速い」とその姿勢を高く評価していた。

その後も継続的に出場機会を増やしていく伊藤は初年度からリーグ出場29試合と戦力として活躍。シュツットガルトファンからの信頼が確固たるものになったのは、最終節ケルン戦での活躍だろう。残留争いに苦しんでいたチームは引き分けのままアディショナルタイムを迎えていた。このまま終われば2部3位との入れ替え戦へと回らなければならない。ラストワンプレーとなったコーナーキックから劇的な遠藤航の勝ち越しゴールが生まれた。そしてこのゴールをアシストしたのが伊藤だ。高い打点のヘディングでボールを流し、ファーポストにつめていた遠藤が体ごと押しこんだ瞬間、シュツットガルトのスタジアムは地鳴りが響くほどの喜びで包まれた。

「練習から何をチームのためにできるかを表現していきたい」

コロナ禍で選手インタビューができない時期には、試合後の監督記者会見で選手のパフォーマンスについて質問をするのが定例となっていたわけだが、マテラッツォ監督は筆者がシュツットガルトの試合取材で訪れた際に伊藤のことを質問すると、いつも丁寧に答えてくれた。その中でも特に印象的だったコメントがある。

「ヒロキは素晴らしい選手で、素晴らしい人間でもある。今日の試合でミスがあったが、試合の後すぐに謝ってくれた。素晴らしいことだ。彼の性格を表している。いつでも責任感をもってプレーしている。左足から繰り出されるダイアゴナルなパス、DFライン裏へのロングフィードのパスはチームの武器だ。我々にとってとても価値のある選手なんだ」

では、伊藤本人は自身のプレーやクラブ内における立ち位置についてどのように受け止めているのだろう。2シーズン目(2022-23シーズン)の9月に行われたシャルケ戦後に次のように話してくれた。

「1年ブンデスリーガでやって、よりチームを背負う立場というか、責任感が増してくる。どう自分たちがピッチ上で感じたものを表現していくかが大事。若いチームですし、責任感をもってもっともっとやっていきたいなと思います。ポジション変更もあるかもしれないし、いつ自分がスタメンから外されるかもわからない。練習から何をチームのためにできるかというのを表現してやっていきたいです。チームに勝ちを持ってこれる選手になりたいです」

2シーズン目は1部16位に終わり、2部3位のハンブルガーSVとの入れ替え戦に臨むことになった。接戦が予想されたが、終わってみればホーム&アウェイの2戦でシュツットガルトは計6-1で大勝。2部70得点のハンブルクの攻撃を伊藤ら守備陣が見事な対応で防いで見せた。

伊藤洋輝が新シーズンどんなプレーを見せてくれるのか?

伊藤にとってさらなる飛躍の転機となったのが2023-24シーズンだ。セバスティアン・ヘーネス監督のもと、見違えるようにダイナミックで連動性豊かなサッカーを体現し続けたシュツットガルトで、伊藤はチームの土台を支える存在として重要な役割を担っていた。本人もこのように手ごたえを口にしていた。

「チームとして前からボールを奪いにいくぶん、後ろのDFがどれだけ個で守れるかが重要になってくる。そこで負けないことと、ゲームの中でどうチームとして反応していくかというところは、大事になってくると思う。崩れる前に自分たちが気づいてやっていければなと思います。

 攻撃だと横パス入れてから縦に入れるっていうのが必要になる。自分がまず受けにいってサイドチェンジしたり、相手の食いつきが甘いんだったら、1回下げてから相手をもっと食いつかせて、前線の選手に当てるみたいな狙いでプレーしています。タイミングも精度も距離感も良くなってきていると思うので、継続してやっていきたいですね」

1対1への対応力とプレーにおける柔軟性に大きな成長の跡を残す。シュツットガルトではセンターバックとしてだけではなく、サイドバックやウイングバックとしても状況に応じてハイレベルなプレーでチームに貢献。オーバーラップ時のプレーバリエーションは幅広く、ペナルティエリア付近でパスを受けて起点を作ったり、シュートやクロスに持ち込む精度も高くなってきている。

バイエルンはオーストリア代表DFダビド・アラバがレアル・マドリードへ移籍して以来、左利きのサイドバックとセンターバックが少なく、ビルドアップからパスの出口作りに苦しんでいたという事実がある。左サイドバックのアルフォンソ・デイヴィスも全盛期程の迫力あるプレーを見せているわけではなく、むしろ安定感の欠如を批判されることが少なくない。

伊藤のプレー評として、シュツットガルター紙に「ボールを持った時の冷静さ、明確なプレービジョンを持ち、確実なパス能力でゲームを作る。印象的なプレーを残したのは今回が最初ではない」と称賛されたことがあるが、このようなプレーぶりがまさにバイエルンでも必要とされる要素なのは間違いない。

ドイツサッカーの盟主バイエルンで伊藤洋輝がどんなプレーを見せてくれるのか。新シーズンに向けて大きな楽しみの一つだ。

<了>

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