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早田ひなの真骨頂。盤石の仕上がりを見せ、ベスト4進出。平野美宇は堂々のベスト8。2人の激闘を紐解く

REAL SPORTS 2024年8月2日 2時23分

パリ五輪、熱狂とともに盛り上がりを見せている卓球・女子シングルス。平野美宇は堂々のベスト8入り。両ハンドから繰り出される持ち前の“ハリケーン”は緊張が走るオリンピックの大舞台でも発揮され、むしろ勢いは増している印象すらあった。今大会における“台風の目”でありながらも、エースの早田ひなという頼れる存在もあり、のびのびとプレーできている印象もあった。一方の早田も磐石の試合を続けてベスト4進出。試合中も笑顔を見せ、この大舞台を最大限楽しんでいる姿が印象的だ。改めてここまでの2人の激闘を振り返りたい。

(文=本島修司、写真=ロイター/アフロ)

“台風の目”と目された平野、誇れる堂々のベスト8

女子シングルス準々決勝。ベスト8決定戦。平野の相手はインドのマニカ・バトラ。「インド」と聞くだけで、不気味さが漂う。そう、卓球ファンの誰もが、2024年2月に行われた世界卓球団体戦の女子団体を思い出す。この大会、卓球大国の中国は、初戦でインドと対戦。その中で、世界ランク1位のエース孫頴莎がインドの世界ランク155位のアヒカ・ムカルジーに敗れるという波乱が起きた。

その際、ムカルジーが見せた独特の変則スタイルは大きな話題となった。バック面から生み出されるボールが、とても独特だったのだ。「アンチラバー」というラバーによる効果だった。この一戦でアンチラバーの使い手であるムカルジーがかけた「魔法」もあり、インド勢は「変化球の卓球」というイメージが強い。さらには、異質ラバーを使いこなす、粘り強い、猛練習の形跡もうかがえる。

そしてこのバトラもまた、バック面にツブ高を貼った選手だった。ベスト8を懸けた3回戦は、序盤から平野にとっても大変な戦いだった。ツブ高特有の「カット性質ショート」に、切れ味がある。そして安定感がある。この技術はミスが少ない技でもある。それにワンテンポ遅れた平野のボールが浮いてしまい、そこをバトラがフォアの裏ラバーでたたきこんでくる、という場面が何度も見られた。これが、インド勢が使う「魔法」と言える。アンチラバーも、ツブ高と同じような性能で「ナックルや無回転」にしたり「相手の回転を利用して残して返球」したりする。

このツブ高を使う選手は、世界を見渡せば少なくない。しかし、インド勢のすごさはその精度。とにかく乱れなく、ミスなく、アンチラバーやツブ高ラバーなど異質系のラバーを使いこなしてくる。

一方の平野も、パリ五輪出場を勝ち取るまでの長い激闘でさらなる成長を手にした。また、ともに4-0の快勝で勝ち上がったパリ五輪での1、2回戦を見ていると、エースとしての期待を早田ひなが一身に背負い、平野自身は“台風の目”と目されていることで、必要以上の重圧を感じることなくのびのびとプレーできているようにも見えた。

迎えたバトラとの準々決勝、出足は劣勢だった平野。しかし、中盤からハリケーンが目を覚ました。

第2ゲームでは2-6とリードされてから、追いつく試合展開に。そこから、相手のフォアの裏ラバーを攻める、戦術の変更。ここが素晴らしかった。この大舞台でコースを変えても、ハリケーンが乱れなかった。

まったくミスがない。フォアの内に持ち込み、攻撃力の差を見せつける展開を生み出し、スピードで圧倒。4ゲーム目、5ゲーム目も接戦となったが「台から出る長さのサーブ」を、キッチリと“引っかけていく”ループドライブで先手を取った。ベスト8進出を決めた。

“強いメンタル”を手にした平野VS韓国の新たな天才少女

準々決勝。相手は韓国の20歳、申裕斌(シン・ユビン)。幼少期から韓国では「新たな天才卓球少女」と称されてきた選手だ。

このベスト4を決める戦いは、文字通り「死闘」となった。

序盤は劣勢。3ゲームを連取され、シンの強さが目立つ展開に。特に、平野にとって得意なはずのバックミートの打ち合いで、角度の強烈さで打ち負ける姿は、平野の能力をもってしても勝てないか……と驚かされるほどの強さだった。

しかし、そこから奇跡的な平野の逆襲劇が始まる。シンの、小さなウィークポイントを見つけ、フォア側へ振る一撃を、何度も丁寧に放った。第7ゲーム。8-8からは、フォア側ではなく、華麗にミドル打ち抜きが決まった。

9-8。大逆転勝利は、すぐそこまで見えていたが……。

最後はシンに振り切られて、平野は準々決勝で姿を消した。しかし、明らかに世界屈指の強豪であった、このシン・ユビンとここまでの死闘を演じた平野の姿には、会場中のみならず、日本中が拍手を送ったことだろう。

盤石の仕上がりを見せるエース・早田ひな

一方、早田ひなは盤石の強さを見せている。前評判通りのベスト4進出を果たした。

だが、初日に行われた、張本智和との混合ダブルスでは北朝鮮ペアに1回戦で敗れる波乱があった。この敗戦についてはまだ気持ちの整理ができていないはずだ。

気持ちを切り替えて――。言葉にすると簡単だが、これまでの努力の日々、そして何より「最も金メダルの可能性がある」と言われた種目での1回戦敗退という衝撃の大きさは、周囲の声の大きさより、当の本人たちにとって言葉に表わせないほどの悔しい出来事だったはず。

それでも、1、2回戦、ともにストレート勝ちを決めた早田。3回戦では、ジアナン・ユアンと対戦。相手は地元フランスの選手ということもあり、“アウエィ感”も漂っていた。

試合は予想通りのフランス応援団の、大歓声。8-10とリードを許し、苦しい展開からとなったが、そこから逆転で第1ゲームを勝ち切ると、あとは“早田劇場”の開幕だった。

リーチの長さを生かした、“しなる”様にして放つ両ハンドのドライブが、台の角や、サイドを切る素晴らしい角度で決まり、圧倒。気がつけばこの試合も、4―0で勝利となった。

これにより、4-0を3連発で、1ゲームも落とさずに準々決勝へ駒を進めた。

大躍進の北朝鮮の筆頭格VS完成形となった早田ひな

ベスト4をかけた戦いは、今大会大躍進の北朝鮮の筆頭格、ビョン・ソンギョン。混合ダブルスで北朝鮮に負けているだけに、早田にとって「絶対に負けられない戦い」だ。

第1ゲーム。5-2に突き放す場面で、いきなり強烈なバックドライブがストレートに決まった。早田の調子のバロメーターの一つがバックドライブ。これが決まると早田は強い。台上ではキュッと音が出るようなストップも決まった。11-5で、このゲームを先取する。

第2ゲームは、ビョンも食い下がり、一進一退の攻防に。9-5へ突き放す場面で、早田が絶叫。その後は、回り込みシュートドライブと、コースをまったく読ませない“散らせ方”を展開。ここも11-5で、取り切る。

第3ゲーム。まずは、ビョンの豪快な回り込みドライブから開始。まるで、ひと昔前のペンホルダー男子選手のような一瞬で大きく回り込む姿だ。2-2とする場面では、早田が目のもとまらぬ打点からストレートへ打ち抜く印象的な一撃を放つ。4-7とリードされた場面でも、また同じストレートドライブ。

今までの女子卓球において、世界でも類を見ない「リーチの長さ+打点の速さのミックス」のストレートドライブは、本当に言葉で言い表せないほどの攻撃だ。7-7に追いつく場面では、また絶叫。しかし、その早田と真正面から戦えてしまう、ビョンもまた、すごい。ジュースに持ち込むと、エッジンインの幸運も味方に、最後はサイド切るバックドライブをクロスに放ちビョンが勝利。

早田ひなの真骨頂。激闘はまだ続く

第4ゲーム。前陣から角度を突く一球は、ビョンの得点に。逆に、両ハンドで、クロスを交えて、左右に大きなラリーを展開すると、早田の得点に。この攻防が続く。

ビョンは台上もうまい。フォアフリックも一発抜きでくる破壊力だ。それでも最後は精度の差が出て、11-8で、早田が勝ち切った。驚くのは、ここまでの激闘の中でも、早田が試合中も笑顔を見せていることだ。余裕とも違う。虚勢とも違う。本当に楽しそうな笑顔だ。エースの重圧を物ともせず、オリンピックを楽しみ切っている姿が、とても印象的だ。

第5ゲーム。このゲームも激しい打ち合いに。8-9とリードされる場面では、バックミートにシュートをかけて9-9に。それでも振り切られてしまい、このゲームも落とした。ビョンはしぶとい。

第6ゲーム。台上の攻防から開始。ここで、早田の全体的な精度が戻ってくる。フォアの連打もさえわたる状態。しかし、このあたりではビョンが大きなラリーに対応してしまう。終わってみれば11-4でビョンが勝ち切った。

そして迎えた、第7ゲーム。1ポイント目から、絶叫の早田。ここから動きにキレが戻った。両ハンドの角度も最高の形で決まり出す。真骨頂だ。そして、リーチの長さを存分に生かし、縦横無尽に動き回った。最後も両ハンドがミスなく決まり、勝利を決めた。

壮絶な試合だった。ビョン・ソンギョンも本当によく鍛え抜かれており、すべてのプレーから強さばかりを感じた一戦となった。大きな大会があるたびに痛感するが、世界には、中国以外にもまだまだ強豪が潜んでいる。これもまたオリンピックの醍醐味だろう。

しかし、早田の激闘はまだ続く。そう、早田の夢、打倒中国へと。そして団体戦へと。

熾烈な代表選考レースの末に辿りついた日本代表選手たちが躍動するパリ五輪の卓球が、今まさに、熱く燃えている。

<了>

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