Infoseek 楽天

バレーボール最速昇格成し遂げた“SVリーグの異端児”。旭川初のプロスポーツチーム・ヴォレアス北海道の挑戦

REAL SPORTS 2024年8月22日 3時31分

2024年秋に「世界最高峰のリーグ」を目指してスタートするバレーボールのSVリーグ。男子は全10チームでスタートするが、中でも異色のチームカラーを放つのがヴォレアス北海道だ。8年前に同クラブを立ち上げた池田憲士郎氏は、グローバルな視点で魅力的なプロチームとしてのあり方を模索し、6年目にして最速でのトップリーグ昇格を実現。旭川初のプロスポーツチームとして、独自の組織づくりで結果を残してきた池田社長に、クラブの飛躍の背景と、SVリーグへの展望について語ってもらった。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=ヴォレアス北海道)

競技が盛んな地域性を生かし、プロスポーツで地域創生

――ヴォレアス北海道は2016年に旭川初のプロスポーツチームとして創設され、最速の6シーズンでトップリーグに到達しました。池田社長は、バレーボールのどのような部分に可能性を感じてクラブを立ち上げたのですか?

池田:私自身、幼少期はサッカーや水泳、バスケをやったりして、その後にバレーボールを始めて中学校から社会人も含めて競技を続けた経験があります。その中で、バレーボールがすごく奥深い競技で、日本人に合っているスポーツだと感じていました。競技人口で言えば、世界一のメジャースポーツですし、その高いポテンシャルに可能性を感じたことがあります。しかも、日本は世界の中で身長という圧倒的なアドバンテージがないにも関わらず、トップ5にいます。他の競技では、そこまで行っていません。

 また、北海道はバレーボールを町のスポーツ、いわゆる町技にしている地域がすごく多いんです。なぜかというと、北海道は冬は積雪でスポーツができず、農家のお母さんたちが運動不足解消にバレーボールをやるようになったからです。時代が“東洋の魔女”ともマッチしたことも大きいですね。役場対抗バレーボール大会などのイベントもあるぐらい、バレーボールが浸透している地域性も重なり、バレーボールという競技に大きな可能性を感じました。

――その中で、旭川市を拠点にした決め手は何だったのですか?

池田:チームを立ち上げる際に都市部の札幌を推す声は大きかったのですが、あえて旭川市を選んだ理由は、プロスポーツチームがなかったことです。人口は33万人ですが、逆に人口30万人を超えてスポーツチームがない地域はあまりないと思います。また、地方は住む理由がなく、都市部に人が流れてしまうので、スポーツの力でその地域にフラッグを立ててシンボルを作れば、それが人が住む理由とか、移住する理由になるんじゃないかと思ったんです。私自身が生まれ育った土地でもありますから、旭川に地元愛を持つきっかけづくりにしたかったこととも一つの理由でした。

揺るぎない2つのコンセプト。サッカー、ハンドボールも参考に

――ヴォレアスの創設時からこだわるチームコンセプトについてお聞かせいただけますか?

池田:2016年の10月に設立会見をした際、「どんなチームにしたいですか?」という記者さんの質問に対して、2つのコンセプトを伝えました。「最短で日本一を目指します」ということと、「とにかく、“かっこいい”チームにします」ということです。言い方は悪いですけど、田舎のチームが立ち上がって、当たり前のことをやって「いつか強くなったらいい」というスタンスだと、出口のないトンネルみたいな感じで、いつまでも浮上できないと思うんです。だからこそ、「このチームは何かが違うよね」とか、「何かを変えてくれるかもしれない」という期待感と可能性を示し続けて、最短で勢いよくトップリーグに上がろうと決めて進んできました。もう一つの「かっこいい」というのは、ブランディングやクリエイティブを含めて「プロバレーボールチームとして憧れられる存在になりたい」という意味を込めました。

――「かっこいい」という点では、どのような形で他のクラブとの差別化を図ってきたのですか?

池田:男子だとおそらく私たちが最初のプロチームで、スポンサーやチケット収入が財源になるモデルなので、魅力あるチームにしなければいけません。また、Vリーグのチームとしてはかなり後発なので、圧倒的に他と違うところを見せる必要があります。そのために、グローバルな視点であらゆるプロスポーツチームを参考にしました。1年目にヨーロッパに行ってドルトムントのサッカーを見て、ケルンではハンドボールのチャンピオンズリーグ決勝で2万人入った試合を見ました。アメリカではNBAやブロードウェイのミュージカルも視察しました。そういったアリーナ競技やエンタメのトップレベルを全部見て方向性を確認し、洗練されたクリエイティブの多さや企業のブランディングの力を感じたんです。その中で、投資すべきところはしっかり投資して、試行錯誤しながら進んできました。

――日本のバレーボールは、選手個々が人気を獲得して注目を高めてきた部分もありますよね。

池田:そうですね。ただ、私が思う「かっこいい」は、パーソナルの「かっこいい」ではなく、チーム全体のかっこよさです。選手推しにすれば、人も来てくれるしグッズも売れるので、運営面では楽なのですが、選手の引退や移籍がある以上、そこに依存すると短期で終わりますし、チームとしてはやっぱり不健全だと思います。私たちはどれだけヴォレアスというチームを応援してくれる人を増やすか、いわゆる“箱推し”を広げることをテーマにしているので、会社の思いとか取り組みとか、そういった面を伝えることを一生懸命にやっています。

――取り組みの成果を実感するのはどんな時ですか?

池田:チームを応援してくださる方が増えたことです。男子の代表だと、観客層はおそらく9対1くらいで女性が多いと思いますし、他のチームもそこまで大きく変わらないと思いますが、うちは6:4から7:3で、男性が多い状況です。地域のチームとして応援してくださる方やファミリー層が多く、個人推しというよりは箱推しで、地元のチームとして応援してくれる方々や、チームのフィロソフィーやコンセプトに共感してくれている人が増えているということだと思います。

SVリーグが起こす変革。「興行として楽しんでもらえるリーグに」

――オリンピックでは惜しくも男子バレーの準決勝進出はなりませんでしたが、強さと人気の両面で注目度が高まりました。今シーズンからはSVリーグが開幕しますが、国内の競技環境の現状をどのように捉えていますか?

池田:元々、Vリーグは実業団リーグで、我々のようなクラブチームも受け入れますよ、という体制でした。ですが、僕らが参入した当初は、いわゆる「ファンファースト」とか、「リーグの魅力を外向けに広めていきたい」というリーグの思いと、参加しているチームの思いが一致していない現状があったので、かなり苦労しました。

 例えば、礼をする向きは客席じゃなくて、企業応援席がフォーマットになっていたんです。歴史的には企業の福利厚生で、工場で働く人たちのモチベーションのために会社のチームがあったりします。「週末に自社のチームを応援して日々の業務を頑張ろう」という流れがあったんですね。

――集客に力を入れる必要性がなく、お客さんの方向を向いてはいなかったのですね。

池田:そうです。だから、グッズも少なく、会場までのアクセスが悪かったり、チケットの買い方がわからなかったり。一般のお客さんに対しては、「それでも来たい方はどうぞ」というスタンスだったんです。私たちは企業チームではないので、最初からお客さんとしっかり向き合ってエンターテイメントにしていくつもりで、最初はプライシング(需要に応じてチケットの価格を調整する)を工夫したりもしました。代表戦はお客さんが入っても、リーグとしては、「ちゃんとお客さんと向き合っていなかった」というのがこれまでの課題だと思います。

――SVリーグでは、その状況は変化しそうですか?

池田:そうですね。今まで何回も「改革する」と言いながら変わらなかったのですが、SVリーグでは他のチームも含めて「興行としてお客さんに楽しんでもらえるリーグにしましょう」と方向性を定めて、大きく変わろうとしています。運営側にも、Bリーグの立ち上げメンバーが多く関わっていて、チェアマンである大河正明さんも全面的にリーグにコミットしてくれますし、リーグガバナンスを含めて変わると思います。

新たな発想を柔軟に受け入れる組織のあり方

――現状、SVリーグは企業チームとクラブチームが共存していますが、将来的には足並みをそろえて完全なプロ化を目指すのでしょうか。

池田:プロ化の正確な定義はなく、チェアマンの大河さんは「お客さんから対価をもらっている以上、プロと遜色ない」とおっしゃっていて、私もそう思います。現状、選手がチームと個別契約することと、各クラブがちゃんと収支を明確にすることは求められています。ですから、実質プロリーグという認識でいいと私は考えています。

――その点はヴォレアスがプロチームの前例を作ってきたことも大きいのですね。他クラブと異なるカラーや発信を、リーグ側も柔軟に受け入れてきたのでしょうか。

池田:ありがたいことに、その空気感は以前からありました。先日、東京でSVリーグの会議があったのですが、その日はたまたま私が小学4年生の息子と居なければなかったので、「難しいよな」と思いつつ、リーグの方に「息子を連れて行ってもいいですか?」と聞いたら、快諾してくれて。連れて行ったら他のチームの皆さんも歓迎して受け入れてくれてありがたかったです。

――風通しのいい雰囲気がイメージできます。池田社長はトップリーグの代表で最年少(38歳)ですが、企業のチームが多い中で、そうした面での重圧などはなかったですか?

池田:創設当時は30歳だったので、確かに若いなと思いました。そもそも他のチームは母体企業の総務や人事の部長の方がチームの責任者をやっていたりして、大企業の部長クラスは50代~60代の方が多いですから。ただ、今は8年やっているので、もう慣れましたね(笑)。

ヴォレアスの収益構造とは?「トップとは5倍の差」

――同じトップリーグのライバルチームとの力の差についてはどのように考えていますか?

池田:ライバルチームは企業の巨大な資本があるチームが多く、ついていくのが大変な面はありますが、長い目で見ると私たちにもチャンスはあると思っています。大企業チームはその企業のサポートがなくなってしまったらピンチですが、私たちは運営の事業比率が高いので、稼げる仕組みがあればチームの収益構造を改善し、成長する分伸びしろがありますから。

――ヴォレアスの収益構造について、可能な範囲でお聞きしてもいいでしょうか。

池田:基本的にはパートナー契約(スポンサー料)が圧倒的に多く、6割ぐらいを占めていますが、現在は150から200の企業と契約をしています。ですので、仮に1社スポンサーがやめてしまった場合、もちろん大きな痛手ですが、廃部の危機にさらされるほどのリスクにはなりません。

 また、チケット収入比率も他の企業チームより高いと思います。というのも、企業チームは元々、社員には無料チケットを配りますが、僕らは当初から有料チケットで、無料チケットはほとんど配っていないからです。無料チケットが増えると、発券数では満席のはずなのにお客さんが入らなくて実際にはガラガラ、ということが起きるので、チケットの価値が下がってしまう。そうならないように、私たちは有料率98%とか、低い時でも90%以上を維持してきました。

――集客との葛藤もありつつ、興行を成立させていくためには必要なプロセスですね。運営予算は、各チームによってかなり差があるのですか?

池田:現状は差があると思っていて、おそらくSVリーグ10チームの中でうちは9番目か10番目だと思います。一番上のチームとは、5倍くらいの差があるんじゃないでしょうか。

――SVリーグは西側にチームが多く、北海道からはアウェーの移動や宿泊なども大変そうです。

池田:それはありますが、北海道の宿命だと割り切っています。アウェーの遠征に来てくれるサポーターさんもいますし、各地域で応援してくださる方たちの応援が支えになっています。他のチームとは異なる特殊な存在として「バレーボール界の現状を変える希望の星だ」と言ってくれる方も全国にいらっしゃるので、そういう方の声に応えていきたいと思っています。

【後編はこちら】スポーツ界の課題と向き合い、世界一を目指すヴォレアス北海道。「試合会場でジャンクフードを食べるのは不健全」

<了>

バレーボール界の変革担う“よそ者”大河正明の挑戦。「『アタックNo.1』と『スラムダンク』の時代の差がそのまま出ている」

「Bリーグの純粋の稼ぎが62億円。Vリーグは3億程度」選手、クラブ、リーグの観点で大河副会長が語る、バレーボール界の現状

なぜVリーグは「プロ化」を選択しなかったのか? 大河副会長が見据えるバレーボール界、未来への布石

[バレー]パナソニック「小学生が仕掛ける認知向上」「ふるさと納税1分で定員」…地元に愛されるチームへの変革

バレーボール男子日本代表が強くなった理由。石川祐希、髙橋藍らが追求する「最後の1点を取る力」

[PROFILE]
池田憲士郎(いけだ・けんしろう)
1986年生まれ、北海道旭川市出身。ヴォレアス北海道代表・株式会社VOREAS代表取締役。地元で中学から社会人までバレーボールを続けた経験を持つ。大学卒業後、東京の建設メーカー、地元の建設会社での勤務を経て、2016年に地域創生を目指してプロバレーボールチーム「ヴォレアス北海道」を設立。翌年、株式会社VOREASを創業し、経営とともに環境事業、食事業など幅広く展開。2023年4月に最速でのトップリーグ昇格を果たし、24年10月に開幕するSVリーグに挑む。

この記事の関連ニュース