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海外ビッグクラブを目指す10代に求められる“備え”とは? バルサへ逸材輩出した羽毛勇斗監督が語る「世界で戦えるマインド」

REAL SPORTS 2024年10月9日 2時42分

将来、ヨーロッパのビッグクラブで活躍したい――。それは多くのサッカー少年、少女たちが描く夢だろう。そのために、小学生時代から準備しておいたほうがいいこととは何だろうか。バルセロナの下部組織アレビンA(U-12)に加入した西山芯太くんが所属していたFC PORTAの羽毛勇斗監督は、これからの代表選手には、ヨーロッパでプレーする選手たちと同じ基準が求められるようになるという。そのために、10代の選手たちや指導者に求められる「備え」について考える。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=FC PORTA)

大事なのは「指導者がどこまで考えているか」

――9歳でバルセロナのカンテラに入った西山芯太くんは、8歳でスペインに引っ越すまで、幼少期から日本で技術や考え方のベースを築きました。そのようなベースを築くために、指導者としてはどんなことが必要だと思いますか?

羽毛:指導者がどこまで考えているかがすごく大事だと思います。例えば私たちFC PORTA(以下、ポルタ)が今、選手たちに教えていることが正解だとしても、2、3年後にサッカーが変わった時に、指導者がそのサッカーにチューニングできないといけない。指導者が10年前の感覚でサッカーを教えていたらダメだし、常にアップデートしなければいけません。もちろん、最後は選手自身の問題だと思いますが、指導者が教えたポイントによってサッカーに対して高いモチベーションを持ち続けられるかどうかが決まる場合もあるので、指導者の姿勢や考え方は本当に大事だなと思います。

――羽毛監督も、ご自身の知識や指導をアップデートし続けるのに苦労されていますか?

羽毛:それはもう、大変です。毎日、「これ間違ってるのかな?」「これでいいのかな?」と試行錯誤して頭を悩ませています。ポルタのコーチや選手によく「今日の練習どうだった?」って聞くんですが、「良かった」と言ってもらえても、自分の中ではあまりしっくりきていない時があるんです。そういう時はコーチ陣と話をして原因を考えたり、他のコーチとも「この練習ではここは良くならないよね」とディスカッションしています。「立ち止まったらまずい」という危機感は常に持っています。

世界で活躍するために必要な準備

――将来的に海外でプレーすることを目指す選手にとっては、複雑な戦術を理解するための語学力やコミュニケーション力も必要になると思いますが、小さい頃から積み重ねておいたほうがいい必須項目はどんなことですか?

羽毛:まず、言語は必要不可欠だと多います。例えば「UEFAチャンピオンズリーグに出たい」という目標があるなら、外国人監督とコミュニケーションが取れて、戦術を理解しなければ使ってもらえない。英語やスペイン語は欧州サッカー界では公用語として広く使われており、トップレベルにいったら通訳はほぼいないので、絶対に学んでおいたほうがいいと思います。

 ただ、語学力があっても、自分の思いを伝える力がないと、結局は埋もれてしまいます。日本人だったら「これは言い過ぎだな」と思っても、スペインではむしろ弱いぐらいの感覚です。だからこそ、オープンマインドや、勇気を持って発言する習慣は小さい頃からつけておいたほうがいいと思います。年齢を重ねて急に変わる場合もあると思いますが、ポルタではその可能性に賭けたいとは思わないので、柔軟な若いうちに変えられるものは変えてあげたいですね。

――ポルタの選手たちは基本的にオープンマインドなんですか?

羽毛:そうです。基本的に、話せない選手は試合でも能力を発揮しづらくなる傾向があると思っています。戦術的なことなど、考えを聞いた時に黙ってしまったり言葉が出てこないと、何を考えているのかわからないですし、仲間にも自分のイメージを伝えられません。だから、親御さんや選手から「どうやったらうまくなりますか?」と聞かれた時には、「まず大人とちゃんと話せるようになることが大事です」とお伝えしています。それを心がけたら、すぐに良くなることが比較的ポルタでは多いです。

――どうしたら話せるようになるのでしょうか?

羽毛:まずは話を聞けるようになることが大事です。子どもたちは、大人が思っているより理解していないことがあるので、「今なんて言ったでしょう?」と聞くと、ちゃんと理解していたかどうかがわかります。大人の話を理解しないでその内容を説明しようとすると、自分でも「何言ってるんだろう」という気持ちになるので、次からはちゃんと大人の話を聞くようになる。そうすれば、自分の意思もしっかり伝えられるようになると思います。そういう部分ができるようになった上で、英語とかスペイン語ができれば、海外でもしっかり自分の主張ができるようになるのではないでしょうか。

代表選手の基準はヨーロッパに

――羽毛監督は、ご自身も現役時代にU-16日本代表候補としてプレーされましたが、これから日本代表を目指す選手たちに求められる要素はどのようなことだと思いますか?

羽毛:自分は代表に生き残れなかったのですが、指導者目線から今の代表を考えると、間違いなくヨーロッパで戦えるマインドを持っている選手が代表に求められると思います。最近は若い頃から海外で戦ってきた選手が逆輸入で世代別代表に入るケースも増えています。そういう選手たちが持っている違いは「明確な目的意識」だと思います。

 例えば、代表候補に1回入って満足する選手もいれば、もっと先まで見通している選手もいる。同じ才能がある選手でも「Jリーグでデビューしたい」と思っている選手と、「チャンピオンズリーグの舞台に立つために、まずはJリーグでデビューしたい」と考えている選手とは、後者のほうが成長できると自分は思います。その意味でも、代表は今後、いろんな面でヨーロッパが基準になると思います。

――ヨーロッパで戦う選手たちは、外国人枠や生活環境なども含めて、国内とは異なるハードルや苦労もありますね。そうしたことも、意識の違いにつながるのでしょうか?

羽毛:そうですね。ヨーロッパで戦う選手は言語ができて当然だし、マーケットに乗っている自分の価値も理解しています。ハイレベルな環境で、「自分にはこの能力が足りないから磨こう」「この武器で生き残ってやろう」と、自分を客観的な視点で見るようになるので、同じ能力がある選手なら、そういう選手が代表に残っていくと思います。

 海外の選手と比べて何が自分の価値なのかを、イメージではなく、現実的に捉える力は大事です。例えばJリーグでデビュー時の年俸がいくらか、ということを意外と知らない子どもたちが多いので、もっと知ってもいいと思います。ヨーロッパでは、オランダやスペインでリーグの最低年俸がいくらか、といったことを子どもたちが小さい頃から考えて、取捨選択をしています。

――親御さんではなく、自分で考えているんですね……!

羽毛:(西山)芯太も、それは考えていると思いますよ。その情報を持った上で、「もっとこうなりたい」と考えて日々を送っているはずです。芯太を見ていても、サッカーに携わることに関しては常に情報収集を怠らず、指導者含め、携わる大人たちもちゃんと理解してあげられるといいなと思います。

現地でのショックな経験がさらなる原動力に

――芯太くん以外に、武者修行としてポルタから現地クラブへの練習参加をした選手たちの感想やエピソードなどがあれば、ぜひ教えていただけますか。

羽毛:うちから4人の選手がスペインのチームに練習参加したことがあるんですが、その4人は横浜F・マリノスJrユース、川崎フロンターレU-15、LAVIDAなどの強豪チームに加入が決まっていて、ナショナルトレセン・神奈川県選抜にも入るなど、日本では評価されていた選手だったんです。彼らが参加したチームは同年代のスペイン1部リーグの強いチームで、バルサをリーグ戦で倒したり引き分けたりする強豪でした。なかにはバルサに行くような子もいて、ものすごくレベルが高かったんです。

 その練習後に、「参加してみてどうだった?」って聞いたら、「言葉をしゃべれないとやばい」というのが第一声でした。何を言っているかわからないから、練習内容が理解できなくて動きが止まってしまう。練習の温度感がわからない。プレーの面では、ドリブルや足元の技術など、自分の武器が通用した部分もあったけれど、体が大きくて速い選手が多い中で、言語の壁もあるので思っていた以上にできなかった、と。

――その衝撃は、その環境に飛び込んでみないと味わえない感情ですね。

羽毛:そうです。その時一緒に練習参加した子の中に、ずば抜けた力を持った子がいたんです。親御さんのお仕事の都合でイタリアあたりから来ていたそうですが、練習ではその子がどんどんシュートを決めるので、見ているスカウティングの人がその子のところに行って話をしているんです。一緒に参加していたポルタの子は特に話しかけられることもなく、「早くヨーロッパに行く実力をつけるためにももっとやらなきゃ」と危機感を感じたようです。私としてはそれが狙いだったので 、そういうマインドを若いうちに持ってもらえてよかったと思います。

――まだまだ若い選手ですし、われわれも冷静に温かく見守る必要がありますが、西山芯太くんは、今後、久保建英選手のようにバルサのカンテラで活躍し、将来的には海外ビッグクラブ、そして日本代表での活躍が期待される存在の一人になっていくと思います。ポルタの出身プレーヤーとして、どのような選手になってほしいと期待していますか?

羽毛:日本人選手としては、今まで久保選手がいろいろなことを塗り替えてきてくれたと思うんですけど、芯太には「お前がどんどん新しい道を作ってくれ」と伝えてきました。同時に、「日本人はこうだよね」じゃなくて、「西山芯太はこうだよね」と言われるような価値をつくってほしいと思いますし、それを次の世代に伝えていってほしいですね。

【連載前編】9歳で“飛び級”バルサ下部組織へ。久保建英、中井卓大に続く「神童」西山芯太の人間的魅力とは

【連載中編】バルサのカンテラ加入・西山芯太を育てたFC PORTAの育成哲学。学校で教えられない「楽しさ」の本質と世界基準

<了>

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[PROFILE]
羽毛勇斗(はけ・ゆうと)
1994年12月24日生まれ、神奈川県出身。FC PORTA監督。横浜FCジュニアユース、横浜FCユースを経て、東海大学サッカー部を卒業。現役時代のポジションはMFで、U-16日本代表歴を持つ。大学卒業時に現役を引退し、2017年に指導者のキャリアをスタート。2019年に創設されたFC PORTAの監督として、日本トップクラスで活躍できる選手の育成に携わり、多くの選手をJリーグの下部組織などに送り出している。

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